謎の人物……
「お願い……‼︎私も連れて行ってください‼︎」
ラシェは深く頭を下げてお願いした。
「あっはははは‼︎ 嫌よ。誰がお前なんかを連れてくかよ。第一、着て行くドレスもないくせに、口だけは達者ね。あーやだやだ、めでたい小娘ね。」
続いてミシェも、含み笑いをし始めた。そんな中ラシェは、リザーネの発言に1つ気になる点があった。
「……お義母様。ドレスって、何のことですか……?」
肉の配送の件で、家計が苦しくなり贅沢な生活は今後控えるとの話だったのだが、そんなドレスを買える余裕などないはずだった。
「え?買ったに決まってるじゃない。だって王子よ?王子様と結婚できるとしたら最高じゃない!ずっと裕福な暮らしができるのよ。」
これではっきりと分かった。リザーネは、家計のことなどは考えておらず、ただドレスを買うだけのために節約してきたのだと。
ラシェは、リビングから飛び出した。怒りを通り越し、言葉も出なかった。ただ雫が頬を濡らすばかりであった。自分の部屋に着くと窓隅にあるシングルベッドで横たわり泣いていた。
すると後から、ミシェが追ってきて部屋に入って来た。
「あんた、まさか王子様に会いに行けないから泣いてるのかしら?そんなに悲しくなることなんてないわ。代わりにこの私が、王子様の心を手に入れてみせるわ。ラシェも家から応援しててね。おっほほほうふふ。」
ミシェは、異様な笑い方をし、言いたいことを言うだけ言ってすぐにリビングに戻って行った。ラシェは、何も言わずただずっと横たわって泣いていた。期待を裏切られ何もやる気が起きない状態に陥ってしまった。
***
「ラシェーー!二階にいるの?しっかり留守番しててよね。それと、掃除と洗濯きっちりしておくように。じゃあ行ってくるわね。」
どうやら、リザーネ達は馬車でお城へ向かったようだ。そして1人、家に取り残された。
ラシェは星を眺めていた。今日は、やけに月が綺麗な夜である。
「あぁ……。私だってお城行きたかった……。私だってドレスが欲しい。みんな酷いよ……。」
でも、こんな弱みなんて吐いても何にもならないことは知っていた。何しろラシェの味方などはいないのだから。そしてラシェは、頼まれていた仕事に取り掛かり、洗い終わった服を外で干していた。
「そこのお嬢さーん。どうしてそんなに落ち込んでるんだーい?」
見ず知らずの人がいきなり話しかけてきた。
「だっ、誰なの!?」
「あっははは、驚かせてすまないねー。お嬢さんがあんまりにも落ち込んでるようだったからさー?気になったんだよ。あっ、僕は通りすがりの魔導士さ。まあ、魔法使いでも、魔導士でも何でも好きに呼ぶがいいさ。君の名は?」
「……ラシェといいます。」
今後ラシェは、この魔導士との出会いが壮大な難事を意味していたのだとまだ知るはずがなかったのだった。