お城からの招待状
日は沈み、星たちが今にも光をちらつかせようとしていた。
「あ、あの…… 食事の準備が整いました。」
キッチンの隣の部屋から、2人が出てきた。いつも香水のきつい臭いがリザーネからしてくるのだが、今回はミシェからもしてきたのだった。
キッチンのテーブルに、米粉でつくったパンが大皿に6つと、エンドウ豆とミルクで作った簡単なスープが2杯ならべてある。
「……。今日もこれだけかい。……もうちょっと料理を増やしてよね。」
リザーネは、ラシェに文句をつけるが、何故かいつもより口調が和らいでいた。
「あたし……今はステーキの気分なんだけど?何とかしてくれなーい?」
変わらず酷い姉だが、少し浮ついてる様子だった。
いつもと口調が変わっていた。
「……材料が、ないんです。すみません。」
かつては高額なお金を払い込み、高級なビーフを取り扱っている肉屋が毎週家に配送するようになっていた。しかしある日を境にリザーネは、その肉屋の配送を取り止めにし、最近からぱったり来なくなっていたのだ。
リザーネによると、こんなことで金を粗末に出来ないと気がついた、とのことだった。私はその時、少し嬉しかったのだ。しっかりと、家の事を考えてくれてたのだと。
高級ビーフを頼み始めてから、食は豊かになったものの、お金の減りが半端なかったのだ。肉の配送を止めにしてから生活が潤ったと思うが、家事を任せられる毎日が続いていた私には、それが全くと言っていいほど感じられなかったのだ。
「明日の朝に作ってもらいましょうよ? まず今日は、そんなこと言ってる場合じゃないわよ!」
そう言って、2人は慌てて食べ始めた。私は、自分の皿がないので、パンだけを食べ始めた。
「……あの……おふたかたは、何故そんなに急いでいらっしゃるのですか?」
すると、2人は笑みを浮かべ答えた。
「……ンフフ。これ見て。」
リザーネが胸ポケットから長方形のカードを取り出し見せてきた。
「今夜9時から、この森の向こうのあそこに見えるお城で王様の誕生日パーティーがあるのよ〜♪ 」
それは、お城からのパーティーの招待状だった。
「その後舞踏会が開かれて〜王子様がお見合い相手を選ぶんだって〜♡ もちろん王子様は、美人のこのあたしを選ぶと思うけどね〜♪」
初耳だった。2人の口からそんな話が出てくるなんて思ってもいなかった。その招待状が、この家に届いていた、ということも。
私は、胸が一瞬にして熱くなった。人生で、初めての経験だ。身体中の血液が騒いで、心が高鳴る体験は他では感じる術もなかったからだ。
「……も 私も!行きたいです!!そのパーティーへ!!!この家に招待状が届いたのでしょう?だったら、私も連れてってください!!」
何故か私は、感情的になっていた。義母やミシェに、こんな言い方は、今までにしたことはなかった。
誕生パーティーに行けば、何かが変わる……そんな、気がしたのだ。
2人は、驚いた目で私を見たのだった。