いちわ
いつも通りの見切り発車
「なぁ大魔導」
「何ですか魔王様」
「最近人間共が異世界から勇者を召喚したらしいじゃないか」
「まぁある種のお約束ですから。魔王には勇者、国は戦力を温存出来ておいしいという訳ですな」
「だが異世界から拉致って勇者を押し付けるってどうだ?流石の我でも引くよ?」
「我々魔族でも命懸けで魔王様と戦いたがる酔狂なのは馬鹿か変人しかいませんし、それが脆弱な人間ではなおさらでしょう。万が一にも魔王様に一矢報いれたとしてもその被害はどれ程になるか分かりません。ならば何も知らず急に拉致られて混乱してるのに洗脳紛いに使命感を植え付けるなり脅すなりして戦わせた方が国的にも都合が良いのでしょう。異世界から召喚した勇者は歴代全て並々ならぬ強さ。しかも特殊能力的なのも付属しておりますしな」
「魔族以上にえげつない。だが実際、幾人もの魔王が異世界産勇者に討ち取られているのも事実。そこでだ!」
「はい」
「我は対勇者用のモンスターを造ろうと思う!」
「対勇者用のモンスター、ですか?随分急にですな」
「だってこのまま手をこまねいてたら殺られた魔王達の二の舞だし?初めの街にドラゴンの大群を向かわせた魔王や自身が赴いた魔王とかも居たらしいがなんやかんやで失敗したらしいし……」
「それで対勇者用モンスターですか」
「そう。勇者が如何に人間離れしモンスターを虐殺するのなら逆に対勇者に調整した専用モンスターを用意して戦わせればいいのだ!」
「いやでも対勇者用モンスターといってもモンスターですし、結局殺られそうな気がしますが。それならいっそのこと我々も異世界から特殊能力持ちのを召喚したらどうです?」
「我々の争い事に異世界の者を巻き込めるかこのバカ!それなら正々堂々夜逃げするわ!」
「ううっ、流石です魔王様。随分とご立派に成られましたな。魔王様がそこまで仰るならこの大魔導、持てる全ての知識と魔導の真髄、魔王軍の全資金をもって完成させましょう!」
「えっ?いや、食費とかモンスター達への賃金とかあるから全資金とか困るんだけど……」
「やりますぞーーーー!!」
「ちょっと聴いてる?ねぇ?」
「魔王様!例の対勇者用最終殲滅モンスターの試作ができました!!」
「『対勇者用』ってトコまでは覚えがあるけど、『最終殲滅』ってのは覚えがないぞ」
「ご安心をば!この大魔導の全ての知識と魔導の真髄、魔王軍全資金の四分の三程をかけて試作したモンスターです!」
「うぉい!?全資金の四分の三っておまっ!」
「勇者は幾ら規格外とはいえ所詮は人間、体力気力共に限界があります。故に持久戦を目的とし、優れた再生能力に各種状態異常と精神干渉と物理・魔力両攻撃への耐性、奇襲を防ぎ相手の位置を常に把握できる索敵能力、逆にこちらが不利なら逃げ隠れ奇襲をかけられる隠蔽能力。常に的確な状況判断と戦略を行える高い知性。これ等を兼ね備えたモンスターを目指しました!」
「そんなのを造ろうとしたらそりゃ金がかかるだろうが、四分の三って…」
「その為にはベースとなる素体を吟味せねばなりません。素の状態で理想一番に近いのは……」
「あ〜もう、説明はいらん。細かく説明されても長くなるだけだ。それより実物を見た方が早い」
「むむっ、確かにそうですな。ならばご覧下さい!試作ながらスペック自体は上位のドラゴン種、魔神種にも比肩する我が傑作を!!」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………“コレ”が?」
「ええ!その通りです!!」
「いや、でも“コレ”……」
「スライムじゃん」