七輪 星月凍る
七輪目、咲きました
文…………文官
大天狗……家政頭
白狼天狗…家政代
妖怪の山、最後に眼を閉じたのはいつの日か。翼を広げ夜を飛び、睨みを利かし太刀を手に、鴉、白狼、木の葉の天狗は陰に潜む。
雪未だ降らず、啼く鳥の眠る闇に、床鳴きが熔ける。小さな靄は口元から生まれ、揺らめく灯りが白足袋を急かし幾重の人影を追わせる。続く廊下は広くなく、土壁のくすみが自らを嗤う。
『……』
話し声が、硯の囁きが、畳の溜め息が、長火鉢の唄が近付く。突き当たり角を曲がれば、頭に珠を持つ巨鳥の、金色の翼を広げる様子の描かれた、閉じた腰高に迎えられる。障子越しの気配全てが此方を向き、揺蕩うは唄のみ。
「射命丸、ご報告に参上しました」
その場で平身し、伝え、入室迄を待つ。左右に障子が呑まれ、無理なく通れる程度に開かれる。確りと立ち上がり、前を見れば、正面には家政の頭、老いた大天狗の女。左右には若い白狼天狗の女二人が控えている。それぞれの前に置かれた文机は整然としていて、代わりに背後に置かれた棚が多量の巻物を抱えて立つ。
簡素な巻物は懐から出され白狼へ渡る。その白狼が紐を解き頭の前に広げるのを横目に、腰に下げた文花帖を手に取り、開かれたのは報告の為の覚えの頁。
「ご報告します。本日夕刻まで、八雲紫の立ち会いの下、襲名していた八代目博麗の巫女と面会。巫女曰く、『雪多く里を呑み、雪止まず山を呑み、雪淀む花が咲く』と……。先の冬よりも蓄えが必要と考えられます。また、不穏な気配が年の瀬にあるとも話されたので、備えるべきでしょう。巻物に面会の内容を纏めましたので、詳しくはそちらをご覧ください」
四人は黙り、騒ぐは行灯。炭が弾ける。湯呑みを一度傾けた大天狗は、巻物から視線を離す事なく、手振りによって退出を促した。