最終章 「Restart ~未来へ~」
「~~~♪」
「やっぱり歌、上手だなぁ、奏」
「えへ、ありがとう、お兄ちゃん」
「私ね、大きくなったら歌手になりたいんだ」
「どうして?」
「ん~、特に理由はないんだけど・・・」
「だけど?」
「なりたいって思ったきっかけは・・・」
――――これは、昔の夢。お兄ちゃんに歌を褒めてもらって、何で歌手になりたいのか聞かれて・・・私は何て答えたんだっけ・・・
放課後。
「お兄ちゃん、お待たせ!」
「ああ、大分待ったぞ」
「もうお兄ちゃん。そういう時は嘘でも、『大丈夫。俺も今来たところだぜ』って言わないと」
「別にデートじゃないんだから」
「むぅ・・・」
俺の目の前でむくれているこの子は、先日恋人になった柚原奏。俺の1番大切な人だ。いろいろとあったが、今にして思えば、あの事件がなかったら、俺達はこういう関係になれなかったかもしれない。皮肉な話だけどな・・・
「そうむくれんなって。帰りに一緒に買い物しに行くんだろ? お前の好きなアイス、買ってやるから」
「ホント!? よし行こう! 今すぐ行こう!」
ほんと扱いやすいな、こいつは。
「柚原さん」
「はい?・・・あ、部長」
奏を呼び止めたのは、声楽部の部長だった。・・・名前は知らんけど。
「ちょっと話があるんですけど、よろしいですか?」
「あ、はい、わかりました。お兄ちゃん、ちょっと待っててね」
「了解。んじゃ、俺は校門出たとこで待ってるから」
俺が奏にそう告げて、部室を出ようとした時、
「いえ、お兄さんも一緒の方がいいです」
「・・・はい?」
どうゆうことだろうか? 隣で奏も同じように首を捻っている。
「今度、9月に地区大会があるのは知っているでしょ?」
「え、あ、はい。あの新人大会ですよね?」
「そう。それでね、3年生のみんなで話し合って決めたんだけど・・・」
部長はそこで一度言葉を切る。
「・・・柚原さん。あなたに出場してほしいの」
・・・・・・
『え、えぇぇぇぇ!?』
部室中に俺達2人の絶叫が響き渡った。
「凄いじゃないですか、奏! 新人大会とはいえ、あの中から先発されるなんて!」
翌日の昼休み。屋上でみんなと昼飯を食べてる時に、早速昨日のことが話題にあがった。
「だよなぁ、俺もびっくりしたよ。部の1年生って確か30人くらいいたよな? その中から選ばれるなんてホントに凄えよ!」
「も、もう。お兄ちゃんもお姉ちゃんも褒めすぎだよー。照れちゃうじゃない」
「照れてる奏も可愛いけどな」
「もう、お兄ちゃんったら・・・」
奏はホントに恥ずかしいのか、俯いてしまった。
あぁ、可愛いなぁ。
「翔君、ここは学校なんですから少しは気をつけてください。 二人が付き合ってることが知れたら一大事なんですから」
「おっと、そうだった。まぁ今はお前らしかいないし、いいじゃねーか」
「はぁ・・・全く、見せ付けられるこっちの身にもなってください」
溜め息をつく葉月の横から、「そうだそうだ!」と龍二も便乗してきた。
俺達が付き合ってることを知ってるのは、俺達幼なじみと龍二、それから奏と特別仲の良い友達だけだ。奏の病気のこともあるし、あまり話を広めるのはマズイと思ったからだ。
「それで話を戻しますが、奏はもう返事をしたのですか?」
「・・・まだだよ」
「何でだ? 名誉なことじゃないか。承けない手はないだろ?」
龍二がまたまた便乗してくる。
「ちょっと、ね。何か引っ掛かることがあるんだよね」
「引っ掛かること?」
葉月が聞き返すが、奏はそれ以上は言わずに考え込んでしまった。
夜。
俺は奏とご飯を食べて、風呂に入って(もちろん別々ですよ?)、自分の部屋でPCをいじっていたら、奏が「ちょっといいかな?」と部屋を尋ねてきた。
「お兄ちゃん。私、何で歌手になりたいって思ったかのかな?」
「・・・へ?」
俺は突然の質問に反応が遅れた。
「そりゃ、歌が好きだからじゃないのか?」
「そう、なのかな?」
奏は釈然としないらしい。
「昼に言ってた引っ掛かりってのは、このことか?」
俺が尋ねると、「・・・うん」と奏は頷いた。
「声楽部のみんなはね、ほとんどが将来、歌手志望なんだ。みんなそれぞれ夢を実現させるために頑張ってる。なのに、歌手になりたいかどうか曖昧な状態の私が出場しちゃっていいのかなって・・・」
なるほど。それで躊躇ってたのか・・・
音楽に詳しくない俺が、奏にこうしろ! なんて言えるはずもない。
だから、俺は俺が思うがままの言葉を伝えた。
「奏は、歌が好きか?」
「え・・・うん。好きだよ」
「だよな。・・・なら、歌うことで奏は何をしたいんだ?」
「どういう意味?」
「つまりさ、歌を歌うのって、歌手になるだけが全てじゃないだろ?」
奏は頭に?を浮かべながら俺を見ている。
「あの場所で昔から何度も何度も、葉月や征と知り合うまえからずっと歌ってきただろ? その時、何を思って歌ってたんだ?」
「私が何を想って歌っていたのか・・・」
「私ね、大きくなったら歌手になりたいんだ」
「どうして?」
「ん~、特に理由はないんだけど・・・」
「だけど?」
「なりたいって思ったきっかけは・・・」
「そっか。私は・・・」
奏は目を閉じて、やがて確かめるように想いを口にした。
「みんなとの楽しい時間を、もっともっと共有したくて・・・葉ちゃんや征ちゃん、何よりお兄ちゃんに楽しんでほしくて、歌っていたんだ」
「奏・・・」
「うん、決めた! 私、大会に出るよ」
そう力強く宣言した奏の目は、生き生きとしていた。
「もう、迷いはなくなったか?」
「うん、大丈夫。ありがとうお兄ちゃん!」
「うおっ!?」
奏が俺めがけて飛び込んできた。
「ねえお兄ちゃん。今日は、一緒に寝てもいい?」
「えっ!? いや、それは・・・」
昔ならまだしも、今の奏と一緒に寝たりなんかしたら、正直理性を保てる自信がないぞ!?
「・・・ダメ?」
「っ!」
上目遣いに俺を見てくる奏。
大好きな子にこういう風に頼まれて断れる男がいるだろうか、否、いるはずがない!
「・・・わかったよ。一緒に寝よう」
「うん!!」
また満面の笑みを浮かべて奏が抱きついてきた。
――――今夜は、長い戦いになりそうだな・・・
[Kanade Side]
「私と奏で作ったオリジナルの曲? それって大丈夫なんですか?」
放課後、部長に話を通した後、私はお姉ちゃんに会うために奏楽部の部室を訪ねていた。
「曲自体は自由って話だから大丈夫って、部長が許可してくれたよ」
「ええ!? 許可おりたんですか!?」
お姉ちゃんが驚いた表情をしてこっちを見てくる。・・・そりゃそうだよね。私自身驚いたんだから。
「でも、どうしてオリジナルの曲を?」
「あのね・・・私、伝えたいことがあるんだ」
「翔君に、ですか?」
「もちろんお兄ちゃんもだけど・・・どっちかというと、みんなに、かな?」
「みんな?」
「うん。会場に来てくれる人全員に伝えたいんだ。・・・私が、どうして歌うのか、何を想いながら歌っているのか、何を伝えたいのか」
「奏・・・」
お姉ちゃんはしばらく考え込んだ末、首を縦に振ってくれました。
「ふぅ、わかりました。奏がそこまで言うのなら協力します。・・・それに、2人で作った曲を大きな舞台で発表する・・・何だか楽しそうです」
「決まり! ありがとう、お姉ちゃん!」
こうして私達は、9月の大会に向けて、1つの曲を完成させたのだった。
[Kanade Side END]
――――そして、発表日当日。
「柚原奏さん、姫宮葉月さん、そろそろ出番です。準備をして下さい」
「あ、はい。わかりました」
俺達が控え室に入ったときには、もう2人とも着替え終わって準備を始めていた。
「大丈夫か、2人とも?」
「ええ、大丈夫ですよ。翔君、お兄様、しっかりと聞いていてくださいね」
「ああ」「もちろん」
葉月は「先に行ってますね」と言って、控え室を出て行った。
それに続いて、征も出て行った。
そして、控え室には俺と奏、2人だけが残された。
「えっと、その・・・ど、どうかな、お兄ちゃん・・・」
奏は恥ずかしいのか、恐る恐る聞いてくる。
「どうって・・・」
奏はいつも結っている髪を下ろして、純白のドレス(裁縫部 作)を身に纏っていた。
薄っすらと化粧もしているらしい。
普段の彼女からは考えられないほどに、大人びて見えて、そして・・・とても綺麗だった。
「お兄ちゃん?」
「・・・はっ!」
つい見とれてしまい、俺は言葉を出すのも忘れて、その姿に見入っていた。
「驚いた・・・。とっても綺麗だよ、奏」
素直な感想を口にすると、奏は嬉しそうな、恥ずかしそうな笑顔で微笑んだ。
「お、お兄ちゃん。あのね・・・」
奏はちょこちょこと俺にすがるように近づいてきた。
「私、緊張しちゃってて・・・だから、ね」
「・・・ったく、相変わらず甘えん坊だな。ほら、こっち来い」
俺は目の前の小さな身体を抱きしめる。奏はえへへ、と微笑みながら俺に身体を預けてきた。
しばらく俺達は、抱き合ったまま、お互いの体温と心臓の音を感じていた。
「・・・うん、充電完了!!」
奏はそう言って、勢いよく後ろに跳んだ。
「お兄ちゃん、今日は伝えたいことがあるから! 聞き逃さないでね!」
何を? と聞く間もなく、奏は上機嫌に部屋を飛び出していった。
「翔、こっちこっち!」
観客席に戻ると、征が最前列で手を振っていた。
「結構人が来るもんだなぁ」
会場はあまり大きくはないにしても、ゆうに三百人は入るであろうこのホールは、すでに満席に近い状態だ。
「お兄さん」
後ろの席から誰かが声をかけてきた。
「ん? あ、やあ。君達も見に来てくれたんだね」
「もちろんですよ。何てったって、我等が親友、奏の初舞台なんですから!」
「そっか」
「・・・奏は、もう大丈夫なんですか?」
声のトーンを落として彼女が聞いてくる。
「ああ、もう大丈夫。心配してくれてありがとう。だけど、やっぱりどこか弱い感じのある子だから、支えになってあげて」
「もちろんです。お兄さんみたいには出来ないですけど、私達だって親友なんですから!」
(ホントに、奏はいい親友を持ったな・・・)
俺はもう一度、心の中で「ありがとう」と繰り返した。
プログラムはテンポ良く進んでいき、やがて、2人の出番になった。
2人は一例して、葉月はピアノに、奏はマイクにそれぞれ向かう。
「・・・・」
奏が最前列に俺の姿を見つけ、一度嬉しそうに微笑むと同時に、葉月のピアノが音を奏で始めた。
静まりかえったホールに葉月の透き通ったメロディーが響いている。会場の誰もが、その音に耳を傾けていた。
やがて前奏が終わり、奏が歌いはじめる。伸びやかに歌う彼女に、緊張した様子は見られなかった。
葉月のピアノと奏の歌。
2人の音楽は、やがて螺旋を描くように混じり合い、交差しながらホール全体に響き渡った。
2人を見る。葉月も奏も、俺達に何かを伝えようとして歌っているのは、素人の俺の目にもわかった。
・・・・・・いや、違うな。
隣を見る。征が何かを思い返すかように目を閉じていた。
後ろを見る。
奏の親友たちも、何かを必死に聞き取ろうと奏を見ていた。
――――俺達だからこそ、わかったんだ。
俺も目を閉じる。
俺の脳裏には、今まで奏たちと過ごしてきた中の思い出が、次々と浮かんできた。
奏と過ごし、葉月と征に出会い、四人で遊び、小学校、中学校と、ずっと四人で過ごしてきた。
その中で、俺は奏に次第に惹かれていき、奏は病気を克服して、俺達は恋人になった。
目を開けて、改めて奏を見る。純白のドレスに身を包んで歌っている、俺の愛しい彼女の姿を。
(本当に・・・綺麗だよ、奏)
心の中にその姿を刻むように、俺は奏の美しい姿を見続けていた。
結果は2位だった。
優勝は逃したけれど、出迎えた2人の姿はとても晴れ晴れとしていた。
「それじゃ、今日は祝勝パーティーだ!」
『おおー!!』
征の言葉に、俺と奏と葉月、それから奏の友達も大賛成の声をあげた。
「どこでやるの?」
「そんなん決まってんじゃんか、奏。俺と葉月ん家だよ。こんなめでたい日にこそ、無駄に広い俺達ん家使わないと、使い道がないじゃないか」
「ですが、何だかんだ言って、全部屋の掃除をきちんとしているじゃないですか、お兄様」
「うぐっ、仕方ないじゃんよ。無駄でもあるんだから、きれいにしないと居心地悪いじゃないか」
「ふふっ」
葉月も、今日はいつにもまして上機嫌だった。
でも、ちゃんと掃除してるって部分が引っ掛かる。
「なぁ葉月。妹贔屓目なしに、征は全部屋掃除してるのか?」
「あ、私もそれ思った。どうなの、お姉ちゃん?」
2人して疑いの眼差しで葉月を見る。
「私のお兄様に向かって酷い物言いですね」
「葉月!」
隣で征が潤んでいた。
「まぁ普段が普段ですから仕方ないですけど」
「葉月!?」
あ、別の意味で潤んできた。忙しい奴だなあ・・・
「でも本当ですよ。月一くらいに、私も手伝って2人でやってますよ」
「マジで!?」
「征ちゃん、えらーい」
「へへ、止せよ。照れるだろ?」
征は奏の言葉が嬉しかったのか、マジで照れていた。
「へえー、奏たちといるときの会長はこんな人なんですねー」
奏の友達の1人が新鮮そうに、征を見ていた。
「うっ、・・・まぁ君達ならいいか。あんまり人に話すなよ? 俺のイメージが雪崩のように崩れちまう」
「はーい」
「・・・お兄ちゃん」
くいくいと、後ろから奏が引っ張っている。
「どうした?」
「えと、あの・・・あのね。今から少しだけ、2人きりになれないかな?」
「え、今からか?」
奏はうん、と頷いて引っ張ってくる。
(・・・しょうがないなぁ)
と思いつつ、内心とっても嬉しい俺がいた。
「征、パーティーの準備、任せてもいいか?」
「はぁ? 今日の主賓は葉月と奏だぜ? お前が抜けたら誰が・・・って」
征は俺の後ろで服を引っ張っている奏に気がついたようだ。
「はぁー、ったく。なるべく早く戻れよ」
「すまん。んじゃ、また後で」
そう言って、踵をかえそうとした時、
「奏」
葉月が奏を呼び止め、何やら耳打ちをしていた。
「~~~~!!!?」
瞬間、奏は顔を真っ赤に染めて口をパクパクさせた。
「ふふ、頑張ってください」
何をだよ、と聞き返す前に、奏が俺の手をとって全速力で駆け出していた。
「お、おい、奏!?」
俺の声が聞こえてないのか、奏はただ全速力でその場から逃走した。・・・俺の手を握ったままで。
「おい、葉月。一体奏に何を言ったんだ?」
「ふふっ、ちょっとした刺激を与えてあげただけですよ」
「大丈夫なのか? あいつらが兄妹なのに変わりはないんだぞ?」
「翔君はちゃんとわかってますよ。だから、大丈夫です」
「到着~!」
「到着~じゃねえ!? 死ぬかと思ったぞ!」
着いた場所は『白の箱庭』だった。
「はぁっ、はぁー、ちょっと休けーい」
そう言って奏はフリージアの花畑に寝転がった。
「ったく」
俺も奏の傍に腰をおろす。すると奏は甘えるように、俺の太股に頭を乗せてきた。
まだ夏の名残のせいか、気温は低くはないので、風邪を引く心配はなさそうだ。
「そういや、まだ言ってなかったな。準優勝おめでとう!」
「えへへ、正直入賞できるなんて思いもしなかったよ」
「いやいや、もの凄く上手かったぜ! なんつーか、心が温まる感じがしたよ」
俺は奏の頭を撫でながら、素直な感想を伝えた。奏はくすぐったそうに目を細めている。
「ところであの曲、何て曲なんだ? 自作の曲なんだろうけど、俺は今まで聴いたことないぜ?」
「当然だよ。あの曲は、出場するって決めてから、お姉ちゃんと一緒に作ったんだから」
「・・・マジで?」
「マジですとも!」
奏はえへん、と胸を張って答えた。
「曲のタイトルは『restart』 『再出発』って意味だよ」
「へえ、『restart』かあ。どういった意味合いで決めたんだ?」
俺が聞き返すと、奏は少し真面目な顔でこっちを見てきた。
「・・・みんなへの感謝と、これからの私。その想いを綴った歌だよ」
奏は続ける。
「私が今こうして楽しく過ごせているのは、他ならぬお兄ちゃん、お姉ちゃん、征ちゃん、それからお父さんとお母さん、友達・・・本当にたくさんの人のおかげだと思うんだ。特にお兄ちゃんには、病気のこととかで、いっぱい迷惑かけちゃったし・・・」
「でもね。そんな中で、いっぱい迷惑や苦労もたくさんかけちゃった私でも、お兄ちゃんは好きって言ってくれた。・・・恋人に、してくれた」
「だから、何よりお兄ちゃんに、感謝をこめて、今日は歌いたかったんだ」
「奏・・・」
俺は目頭が熱くなった。感謝されたことにじゃない。・・・俺は、嬉しかったんだ。少しでも、奏の力になれていたということが。
「ねえ、お兄ちゃん。この花の花言葉、知ってる?」
ふいに奏が、フリージアを手にとって聞いてくる。
「・・・ああ。確か、家族の愛情、親愛、だったかな」
以前、葉月がそう言っていたのを、ぼんやりとは覚えていた。
「・・・ちょっとビックリ。知ってるとは思わなかったよ」
まあ俺も葉月から聞かなきゃ、ずっと知ろうともしなかっただろうな。
「この花、今の私達にピッタリじゃない?」
「そうか?」
「うん。私達、これから『家族』になるでしょ?」
この場面で、「結婚は無理だけどな」って言うバカはさすがにいまい。
「真っ白な花。私達の始まりに相応しい色だと思うんだ。だって・・・」
「だって?」
「・・・これからお兄ちゃんと過ごしていく時間の中で、この花はきれいな色に染まっていくと思うから」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「よく、そんな恥ずかしい台詞が言えるな・・・」
「わ、私だってそう思ったよ! これは、その、雰囲気に流されたというか、なんと言うか・・・・・・あぅ」
奏は恥ずかしさのあまり、フリージアの群生に顔をうずめてしまった。
「悪かったって。・・・でも、そうだよな」
「ふえ?」
若干涙目になって、俺を見上げてくる奏。
「奏」
「っわわ!」
俺はそんな奏を抱き寄せてキスをした。
触れるだけのキス。それは、俺の決意のための儀式のようなものだった。
「結婚しよう、奏!」
「けっ、こん・・・結婚!?」
奏は顔を真っ赤にして、驚いていた。
「で、でもでも、私達兄妹なんだよ!? 結婚なんて出来るわけ・・・」
「出来るさ!!」
俺は力強く答える。
「確かに戸籍上は無理だ。だけどな、それって重要なことなのか? 大事なのはお互いの気持ち、ただそれだけのはずだ。俺は奏のことが好きだ。妹としても、恋人としても、愛している!!」
「っ、お兄ちゃん・・・」
「奏は、どうなんだ?」
わかってはいるが、俺は直接、奏の口から聞きたかった。
「・・・そんなの、決まってるじゃない!」
涙を流しながら、俺に軽くキスをしてきた。
「私も、お兄ちゃんのことを、兄としても恋人としても、大好きだよ! 愛してるよ!! ずっと、ずっと!!!」
俺の鼓膜を破らんとする大声で、奏は泣きながら叫んだ。
「・・・いいんだよね、私がお兄ちゃんの『家族』になっても」
「当たり前だろ。俺は奏に、『家族』になってほしい。 受け入れて・・・くれるな」
「うん! うん!! ずっとずっと、一緒にいてね、お兄ちゃん!!!」
そうして俺達は、星空の下、フリージアの咲き誇る、この想い出の箱庭で、誓いのキスを交わした。
―――― ここが俺達の Restart Line なんだと思う。
兄妹として過ごして来た時間の中で、互いに惹かれあい、恋人としての時間を経て、そしてこれからは、『家族』として、奏と共に歩んでいく。
新たな関係の始まりは、『純白のフリージア』
俺と奏は、この花をどんな色に染めていくのだろう。
まだ、そんな先のことはわからない。
だから、
今はこの手をしっかりと握って、一緒に歩いていこうと思う。
俺達の心に咲いた一輪の花に、どんな色を付けていくのかを、思い描きながら ―――
この章をもって、純白のフリージア(奏ルート)は完結です。
ここまで読んできていただいた皆様には、深く感謝いたします。
もしも続編を出すことになった際には、またお付き合いいただけると、とても嬉しく思います。
本当に、ありがとうございました。