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Side Story 01 「心のRipple」


〔5月24日〕


「ふう・・・」

俺は風呂からあがり、リビングで牛乳を飲みながら一息つく。いつもならまだ8時を過ぎたばかりのこの時間、奏が居間でテレビを見ているのだが、今日は早めに寝ると言って部屋に入っていったのだ。少し寂しい感じはあるが、今日に限っては正直ありがたかった。

俺は残りの牛乳を飲み干すと、ソファーに腰掛けた。特にテレビを見るわけでもなく、ただただ天井に目をやり、ボーっとしていた。



俺は気づけば白の箱庭での二人を思い返していた。葉月のピアノの旋律、奏の歌声、知らず知らずのうちに俺はその光景に引き込まれていながらも、二人をまともに見ることが出来ずにいたんだ。

「何で俺、二人をまともに見れなかったんだろうな」

理由はぼやけていてよくわからない。自分の心なのに、おかしいよな・・・だけど、本当にわからないんだ。


だけど・・・


家族や幼なじみに感じる気持ちだけではない何かが、自分の中に生まれ始めていること。それだけははっきりしていた。

「奏・・・葉月・・・」

二人の名前を声に出す。何でもないことなのに、胸の奥がざわめいた。

(まぁ、悩んでもしかたない、か)

俺は強引に、この正体不明瞭なこの気持ちを割り切り、部屋へ戻った。





[Ririka Side]


お兄ちゃんに先に寝るねと伝えて部屋に帰ったけど、明日の朝食のリクエストを聞き忘れてたのを思い出して、一階に下りた。お兄ちゃんはまだリビングにいるようだ。私はリビングへと向かった・・・けど、

「ふう」

お兄ちゃんが溜め息をつきながら、ソファーに座って天井を見ていた。どうしたのかな?と疑問に思いつつも、目的のため、話し掛けようとしたとき・・・

「何で俺、二人をまともに見れなかったんだろうな」

(え?)

唐突にお兄ちゃんが譫言のように呟く。

(二人って誰?まともに見れなかった?あの誰にでも気さくなお兄ちゃんが?)

私の知ってるお兄ちゃんは、初対面の人とでも臆面なく話せたはず・・・そのお兄ちゃんがまともに顔も見れないなんて・・・。

(男子とは考えにくい・・・なら女子?だとすると、お兄ちゃん・・・好きな人でも出来たのかな?)

クラスの友達と、そういう話(私にはよくわかんなかったけど)になったとき、「男子は好きな子を前にすると、執拗に自分をアピールする人と、気後れして話し掛けられない人の二タイプがいるんだよ」

って言ってたのを思い出し、もしかしたらお兄ちゃんもと、つい考えてしまう。

----ズキッ!

(っ!・・・何・・これ。胸が・・締め付けられる感じ・・・)

こんな痛みは初めてだった。今までそういう風に悩むお兄ちゃんを見てこなかったからだと思ったが、それだけじゃないみたい・・・。


「恋ってどんな感じなの?」「そうだねえ、切なくて愛おしくて、胸が締め付けられる感じが『恋してる』ってことじゃない?同時に、仲良くしている女子に嫉妬、とかね」


(嘘・・・これが『恋してる』ってことなの?・・・私が・・お兄ちゃんに・・・)

「・・・お兄ちゃん」

私は小声で呟いた。瞬間、胸がまた苦しくなる。

気がつくと、お兄ちゃんは立ち上がって部屋に帰ろうとしていた。私は咄嗟に身を隠して、部屋の扉が閉まる音を確認してから自室に戻った。

(こんなんじゃ、ダメだよ奏!これが恋でも、恋じゃなくても、大好きなお兄ちゃんやみんなの前では、ちゃんと笑顔でいなくちゃ!!)

そう自分に言い聞かせてから、私は目を閉じた。


[Kanade Side END]





[Hazuki Side]


「今日の演奏どうでした、お兄様?」

夕食時、私は白い箱庭での演奏について聞いてみた。

「ああ、凄く良かったよ。葉月も、奏も」

「よかった。お兄様、あの時何やら考え込んでいたように見えたから、どこか良くないところがあったのではないかと思いました」

私が素直にそう言うと、お兄様は「悪かった」と一言謝ってくれます。謝罪を求めていたわけではないので、ちょっぴり心苦しいですけど。

そのまま楽しく話ながら夕飯を終えました。

お兄様は先に風呂に入るといって、浴室に向かいました。私は洗い物を済ませてしまおうと、流し台へと立ちます。

ふと、白い箱庭でのことを思い出します。

(そういえば、翔君も途中から空をずっと見ていましたね・・・)

何か悩みでもあるのでしょうか・・・。気になります。ですがまぁ、何かあったら向こうから言ってくるでしょう。何だかんだ言っても、翔君はお兄様と私を頼りにしてくれています。自惚れではなく、昔からずっと。ですから、言ってこないのであれば、自分で解決できることなのでしょう。・・・ちょっと淋しいですけど、ね。

だから・・・

「葉月~、お前も早く入れよ」

お兄様がお風呂から上がり、リビングへとやって来ました。

「ねえお兄様。明日は朝早いですか?」

「ん、明日は大丈夫だ。一緒にいけるぞ」

「そうだ、お兄様。明日は久しぶりに二人を起こしに行きませんか?」

私は唐突に思い付いたことを話すと、お兄様は二つ返事でOKしてくれました。

(私からは聞きませんが、困ったときはちゃんと話して下さいね、翔君)

心の中でそう翔君に告げると、明日、二人をどうやって起こそうかと思案しながら、私は浴室へと向かいました。


[Hazuki Story END]





----翌日。

俺と奏は、何年ぶりかの朝の洗礼を受けることになるのであった・・・。

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