悪の組織の女怪人を光堕ちさせてみたらクラスメイトだった
「え!? 悪の組織ブラッドフォース大幹部のシャドウ・レディを捕まえたんですか!?」
正義の組織の事務局長である僕は、ヒーローのレッドさんから、今回の戦闘の報告を受けていた。
「ああ、組織との戦闘が長引いて膠着状態になったとき、ちょっと草むらに入って用を足してたんだ。すると、なんと奴も同じ場所で同じことをしてたんだ。目の前1mでだぞ?」
「用を足し始めるまでよくお互い気付きませんでしたね……」
「怪人の奴らみんな脱ぎにくそうな服だからな、慌てて逃げようとしたらずっこけてそのままお縄だったよ。こっちもだいぶ慌てたがな」
「絵面想像するとシュールですね……。それにしても、うちのヒーロースーツにはチャックがあってよかったですね」
「まったくだ、何が役に立つかわからんもんだ。まあひどく暴れられたおかげで大惨事になったがな」
「うわ! さっきからなんか匂うと思ったらそれですか」
「すまん、あとでシャワー浴びとくよ」
「それで、シャドウ・レディの処遇はどうなるんですか」
「尋問して情報を聞き出した後、見せしめとして渋谷駅前で公開処刑する予定だ」
「あんまり正義の味方っぽくないですね」
「しかしあんな強い怪人捕まえておく場所もないし、万一逃げられたらまずいしなあ」
「それならちょうどいい案があるんですけど」
「なんだ?」
「実はラボでいま一般人を人体改造して無理矢理ヒーロー適性を上げる研究をしてるらしいんですけど」
「そっちの方が正義の味方っぽくないだろ」
「研究は順調に進んで実用レベルにたどり着いてるらしいんですけど、途中で『なんかこれ人権にもとるよね』って話になって止まっちゃってるんです」
「そこは最初に気付けよ」
「でも、シャドウ・レディならちょうどいいとかって思いませんか」
「それは人権にもとらないのか?」
「だってあいつら人間じゃないし、悪いことしてる奴を善人に変えるのはいいんじゃないですか? なんなら、これからどんどん悪の組織の戦闘員や怪人をとっ捕まえて改造していけば……」
「わかったわかった、それ以上聞きたくない」
「じゃあ決まりですね。ラボに回しますよ」
☆
数日後、ラボの所長から、改造が完了したと言われて様子を見に行った。
「生まれ変わった正義のヒーロー、テラ・ルーメン! ここに見参! ……です」
「……」
「……」
「なんかまぶしそうな名前ですね。自分で考えたんですか」
「あ、はい。すみません……」
「いやいや、明るくていい名前ですよ、物理的に。せっかく正義の味方に生まれ変わったんですから堂々としててください」
「ヒーローは自分で名前と登場時のポーズ考えないといけないって先輩に言われまして……」
「ああ、イエローさんですね……。あの人正義の味方のこだわりが強いから適当にあしらっておけばいいですよ」
「あ、わかりました……」
「戦闘服、黄色を基調とした明るいデザインにフリルがいっぱいで可愛いですね。怪人の時よりえっちくないし、おしっこも普通にできそうです」
「はい、そこは戦闘服開発部さんがかなりこだわってくださったので」
「逆になんで女怪人ってみんなあんなきわどいパツパツの格好なんですか?」
「実は仲間内でも評判悪くて恥ずかしいんですけど、組織の同調圧力が強くてなかなか言い出せないんですよね」
「戦闘前はあんなに高慢で威勢良かったのに、やっぱ内心恥ずかしかったんだ」
「う……、その節は本当にすみませんでした……」
「性格全然違うじゃないですか。所長、人格消去したり書き換えたりとかしたんですか?」
僕は傍で聞いていたラボの所長に聞いた。
「ワシはそんな非人道的なことはしとらんよ」
「レッドさんが聞いたら『どの口が言うか』って言いそうですね」
「い、いえ……いよいよの場合は薬で人格をゼリーに固めて出しちゃうらしいんですけど、私には必要ないって」
「ほらな、ワシだって人の道を外れてはおらんよ」
「選択肢があった時点で、それはもう非人道的なんですよね。で、じゃあその性格で怪人やってたんですか?」
「組織の中にいるとなんか気が大きくなっちゃって……」
「怪人って普段何してるんですか?」
「いろいろですね、ずっと悪いことばっかしてる人もいますけど、私は人間に化けて学校通ってます。何かあった時奇襲したり周りを人質にできるので」
「え、こわ」
「あ、でも今は正義の味方ですから……」
「僕やうちのヒーローたちと一緒じゃないですか。もしかして学校は今も通ってるんですか?」
「そうですね、特に辞める理由もないですし」
「じゃあ変身前の姿はもしかして人間と変わらないとか?」
「はい、今変身解きますね」
彼女の体が光に包まれ変身が解かれていくと、まぶしいほどの金髪はしっとりとした黒髪に変化した。
「どうだ? 清楚で可愛いじゃろ?」
「そ、そんな……ありがとうございます」
なぜか所長が得意げに言うが、この人は彼女が可愛いことに1ミリも寄与していない。
「たしかに可愛いですね、と言うかめちゃくちゃ見覚えがある顔なんですけど……」
「で、ですよね、田中君……」
目の前にいたのは僕のクラスメイトで、学年一の美少女と名高い高遠千鶴さんだった。
「ってことは悪の組織って人間だったんですか? 僕らメチャクチャ殺戮しまくってるんですけど」
「あ、そこは安心してください、私達別の世界からやってきた悪い奴で変装してるだけで人間じゃないですから!」
「安心していいのかな? てか高遠さんが人間じゃなくて異世界の怪人だったなんて……」
「でも今はもう正義の味方ですから大丈夫ですよ」
「同じ世界から来た仲間裏切るのって気まずくないですか? 葛藤とかはない?」
「その辺の感情は洗脳時に取り除いて正義の心もしっかり植え付けていただきましたので大丈夫です」
「え、さっき人格改変してないって……」
「だから、『人格』はいじっとらんよ。感情だけなら良い方に導く分には人道上問題ないじゃろ?」
「そ、そうかなぁ……。まあ、とにかく、それじゃあこれからよろしくね、高遠さん」
生まれ変わったテラ・ルーメンこと高遠さんは、元組織の大幹部だ。
高遠さんは組織の内情や他の怪人の弱点、本部の場所や内部構造、誰と誰の仲が悪いかまで詳細に知っており、正義のためと惜しみなく情報を教えてくれた。
そして、ヒーロー達の奇襲作戦により、悪の組織はあっけなく壊滅した。
奇襲攻撃でも高遠さんが一番の戦果を上げた。
しかも、とても楽しそうだったとレッドさんが言っていた。
戦場で高揚してはしゃいでしまうタイプなんだろうか?
とにかくこれで世界に平和が帰ってきた。
しかし、また新たな脅威が現れるかもしれない。
高遠さんが言うには、この世界にやってきた悪の組織は別世界の住人のほんの一握りに過ぎないらしいからだ。
僕らは議論を重ね、別世界に侵攻することにした。
所長が開発した洗脳装置を使えば制圧もそう難しくないだろう。
世界平和を守るための聖戦が始まろうとしていた。




