5 ◇身勝手な人間
5 ◇身勝手な人間
俊樹とふたりで竜星は、メンバーのいる部屋に入っていき、なんといきなり
リーダーの代行をしている尊(踊り初心者なのに後にリーダーに抜擢される)に
向かって凄まじい剣幕で『勝手なことをするな』と詰ったのである。
見ていて、私は『はっ?』ってなったわ。
いやいやいや~、まず尊はじめメンバーの皆に、リーダーとしての責任を
果たせてないことを謝罪するのが筋じゃないの?
ほんでもって、謝罪からの『俊樹が決められたダンスは難しくて自分には
踊れる気がしないっていうふうに言ってるから、もう少し簡単な踊りに
しませんか?』
と普通に提案という形で切り出せば、良かった話なのよ。
それをよ、迷惑かけて一番不安で大変な想いでいた尊をぶった切るなんて
余りに酷過ぎるぅ~。
―――
自分が皆に迷惑かけたことの一片の謝罪もなく、怒鳴り込むその態度に
呆れるしかなかった。
いきなり怒鳴られて、アタフタした尊は明後日の言葉で対応してますます
竜星に優位の立場をマウントされてしまう結果になった。
あんなに怒声浴びせられたら、焦っちゃって心の準備もないから思っても
みない言葉で応戦することは、誰にでもあることじゃないのかな、と私は
思った。
そして……この踊りの振り付けを強行したのは昴(最年少の中学生+踊りが
めちゃくちゃ上手い)なのだ。
なのに、その昴にも決定した他のメンバーにも実は竜星はひとことも
文句言ってない。
私が推測してみるに……。
昴は主催者である夏目蒼一郎の一押しだったのである。
……ということは、ほぼほぼオーディション合格は間違いなしということは
参加者も視聴者も周知の事実で、自分も合格可能なメンバーの上位にいて
合格する気でいる竜星からすると、この先一緒に仕事をしていくメンバーとして
認識している昴を責めるというのは悪手である。
だから、一言も責めなかったのである。
私はそう踏んだ。




