3 ここだよ……
「和心ちゃん、幼稚園に行くよ……どうしたの? 何だか元気がないみたい……」
「うん……あのね、玲ちゃん、元気かなぁ? って……」
「玲ちゃんのこと、心配してたんだね……和心ちゃんが優しくて、お母さん嬉しいな……きっと元気にしてるよ。さっ、行こっか」
「うん。早く幼稚園に行って、玲ちゃんに会いたい……」
和心は、お母さんといつもの待ち合わせ場所へ向かった。
『おはよう〜。和心くん、遅いよう。待ってたんだよう……』
けれどその日、元気な玲ちゃんの声は、どこにもなかった。
「玲ちゃん、いないねぇ……今日は、お母さんと一緒に幼稚園まで行こうね……」
幼稚園の門をくぐると、先生が笑顔で迎えてくれた。
「先生! おはようございます!」
「和心ちゃん、おはよう。今日も元気に来てくれて、ありがとう」
先生に挨拶をすると、和心は落ち着かない様子で、お部屋をキョロキョロ見回した。
「先生……玲ちゃんは?……」
和心の問いに、先生は少し声を落として言った。
「和心くん、玲ちゃんねえ、……この幼稚園と、バイバイしたんだよ……」
「えっ!?……」
和心は、ズボンのポケットに手を突っ込み、ぎゅっと拳を握りしめた。胸の奥から、熱くて黒いものが込み上げてくる。
……玲ちゃん、どこに行っちゃったの? 玲ちゃん、寂しくないの? 僕はここだよ。ここにいるよ。ずっとここにいるからね。僕を見つけるんだよ。僕も探すから……
ゆっくりと拳を緩めると、汗を滲ませた手の平が、ヒリヒリと熱かった。胸の奥が、霞のようにぼやけていた……。
「心桜、和心に今日は何かあった? 風呂に入っている時も、寝ようとする時も、いつもなら幼稚園であった、いろんな話をしてくれるんだけど……今日は何を訊いても、話してくれなかったんだ」
「うん……それがね、あなた。先生のお話だと……玲ちゃん、幼稚園を辞めたそうなの。日曜にお父さんが来て、手続きを……。でも、どこに行くかまでは、訊けなかったって。……あの日のこと、思い出すと、何だか、胸騒ぎがするのよね……」
「そうか……和心にしてみれば、あまりに突然だったから、急に訊かれても、何て答えていいか分からなかったのかもな……和心って優しい子だからさ。それにしても玲ちゃん、どうしたんだろうな……」
「うん。そうだね……」
二人は幼稚園で、おしゃべりをしたり追いかけっこをしたりして、笑顔いっぱいの和心と玲の姿を、思い起こしていた。先生からもよく、
「お誕生日が一緒のせいか、まるで双子のように、いつもそばにいて過ごしているんですよ、本当に仲良しさんで」
と聞かされていた。
胸の奥に、ひと雫の寂しさが、落ちてくるようだった。
お風呂からあがった和心は、窓の外を見上げた。夜空に、いくつもの星が、またたいていた。
「……玲ちゃん、僕はここだよ……」
誰にも届かないその小さなその声は、夜空に溶けていった……。