第65話 「牙と雷の饗宴――無銘の牙たちとの運命の対峙」
お疲れ様です!
さあさあ、二の牙の名を見事看破したナナシ一行。
エンジン全開で戦いに挑んでいる【無銘の牙」たち!!
彼らの戦いもついに終盤戦へと向かっています!
「影葬の追跡」開始そうそうお互いで高度な知能戦が繰り広げられております!
二の牙の挑発に乗らず、【無銘の牙】の面々はやつを出し抜くことができるのか!!!
彼らがどこまで「一の牙」&「二の牙」に己の牙を突き立てることができるのか!!!
こうご期待ください!!!
また、頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
プルリの瞳が一瞬、微かに光る。
「……そうだ、これ……今までの会話……“忘れる”“逆さ”……!」
二の牙は低く苦しげに唸る。
「まさか……私を……見抜くとは……!」
ナナシの目が鋭く光る。「プルリ……お前がヒントを掴んでくれて助かった」
「えへへ」
プルリは、戦場の空気とはにつかわしくないフニャンとした笑顔で返した。
光の粒子がわずかに残る荒涼とした大地は、まるで時の止まった舞台のように静まり返っている。
影の奔流は消え去り、かつての騒乱を告げる残響すらも消え失せていた。
だが、その静寂は長くは続かない。
地面が微かに、しかし確実に振動し始める。小さな砂粒が跳ね、戦場の残骸が微かに軋む音が、遠くから聞こえてくる。
「……ふふふ」
◆ ◆ ◆
人の姿のまま、二の牙――《忘逆の魔影》が、淡い闇の中に立っていた。長く黒光りする髪が微風に揺れ、仮面のように半分を覆う顔の奥からは、冷たく鋭い眼光が戦場を貫く。
しかし、その眼底には、哀しみの影がちらつき、まるで長く抑圧され続けた感情が微かに震えているかのようだった。
「……無銘の牙ども、やっとここまで辿り着いたか」
その声は低く、しかし戦場全体に響き渡る。地面に振動を残し、空気を震わせる重厚な音。
ナナシは拳を強く握り、プルリ、ミミ、ルルカも緊張で身体を硬直させる。緊張の波が、それぞれの心臓に重くのしかかる。
「だが……これで終わりではない」
二の牙はゆっくりと空に手を掲げる。その動作は儀式のようでもあり、全ての存在に警告を告げる鐘の音のようでもあった。
「私の全てを……封印を解く……!」
その瞬間、周囲の空気は濁り、闇の渦が地面を這い上がる。人の姿は歪み、影が膨れ上がるように伸び、戦場の空間そのものがねじれる。砂煙と黒い霧が戦場を覆い、視界は幻想と現実の境を曖昧にする。
二の牙の身体が大きく揺れる。まるで存在そのものが引き裂かれるかのような軋みと、低く重い言霊が口をついて流れ出す。
「……忘却よ、我を覆え……逆さの時を纏え……我が名を、影へと返せ……!」
その言霊は空気を震わせ、戦場全体に響き渡る。黒と銀の霧が立ち上り、光と影が渦を巻くように交錯する。目に見えない力が形を変え、まるで戦場全体が生き物のように呼吸を始める。
鼻先から背中、四肢へと膨張する肉体。筋肉が隆起し、骨格が大きく膨らむ。毛が生え揃い、鋭い牙と蹄が姿を現す。瞳は雷の如く光を宿し、耳から低く響く唸りが大地に衝撃波を送る。周囲の砂塵が巻き上がり、光の残像が霧に反射して無数の光の軌跡を描く。
そして、ついにその全貌が戦場の中心に現れた――
巨大な猪。漆黒の牙を持つ堂々たる伝説の獣。雷の光を纏い、力強く、威圧的に立ち上がる。
「……これが、私……リヴァース・オブリビオン!」
その名が、雷光と共に戦場に轟いた。
◆ ◆ ◆
かつて、刻環十二聖王座の12番目◆亥刻〈イノシシトキ〉◆として、守護精霊ガルムの力を宿し現世の王として君臨していた彼女。
しかし、入れ替え戦で現世の【Verres Laminae Dominus(ヴェッレス=ラミナエ・ドミヌス)】俗称:「刃猪王カマイ」に敗北し、雷を操る力とその姿の不一致から12番目の座を追放され、孤独と絶望の淵に沈んでいた。
その絶望の中、差し伸べられた手があった。それが、――現3番目の現世の王、雷牙の咆哮バリシャである。追放の傷を抱えつつも、生き延びる術を与えられた過去。雷の力を借り、牙を研ぎ直し、己を再構築した軌跡は、今まさに無銘の牙たちの前に顕現したのだ。
ナナシ、プルリ、ミミ、ルルカ――彼らと二の牙の境遇は重なる。追い出され、居場所を求め、信頼できる存在のもとへ辿り着いたこと。孤独と絶望を乗り越えた者が、また同じ孤独を抱える者たちと出会う運命。その共鳴が、二の牙として無銘の牙たちに必要以上の接触を促す理由でもあった。
忘逆が大地を踏み鳴らし、雷を纏った毛皮が光を反射する。四肢から放たれる衝撃波が周囲に広がり、戦場全体を揺るがす。威圧と威光が、恐怖と期待の交錯を生み出す。
「人の姿は……弱さの象徴。だが、獣となれば、真実の力を示せる……!」
ナナシは拳を握り締め、仲間たちの目を確かめる。
「俺たちは恐れない! 仲間の名も、誇りも、絶対に奪わせはしない!」
プルリは微かに光を宿し、思い切って前に踏み出す。
「ボ、ボク……仲間を守るッ!」
ミミは短剣を交差させ、ルルカは剣を振り上げる。
「牙を立てる! 全力で!」
「仲間を守る、俺の剣だ!」
完全体《忘逆の魔影》――猪が雷光を轟かせ、突進する。
牙と牙、勇気と絶望、過去と現在――すべてを巻き込み、戦場に新たな心理戦と力のぶつかり合いが始まった。
その場には、戦場の地面の微細な振動、風の流れに巻かれた砂塵、空気を裂く雷鳴、そして血の匂いと冷気が複雑に絡み合っていた。
【影葬の追跡】終了まで、
残り十環(10分)。
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
次話の投稿は、明日夕方17時10分の予定です!('ω')ノ
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/