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【第6話】──腹を満たし、牙を研ぐ

みなさんこんばんは!

今回は、少しだけ心があたたまる回です。


街での騒動を越え、ナナシと三姉妹が小さな食事処で食事を囲みます。

彼らにとっては、ただの食事も大切な“牙を研ぐ”時間。

空腹を満たすだけでなく、次の戦いに備える小さなひととき。


ナナシの無口な優しさと、三姉妹の健気さを

のんびり味わっていただければ嬉しいです。

また、食事の後は装備品選び。その際、ナナシの天然発言が爆発します!

是非、最後までお楽しみください(*'ω'*)♬

ギルドを出たナナシとプルリ、ミミ、ルルカは、昼下がりの賑わいを抜け、街角のとある食堂へ足を運んだ。


店の名は《飯処・たき火亭》。

石畳の通りに面した木造の大衆食堂だ。赤い暖簾がゆらゆらと揺れ、客が絶え間なく出入りしている。


暖簾をくぐった瞬間、香ばしい肉の焼ける匂いと、潮の香りが混ざり合って鼻をくすぐった。


「へい、らっしゃい! 何名様っすか!」


威勢のいい店員の声が響く。


「四人だ。」


ナナシがそう言うと、店員は三匹の魔物に目を丸くしたが、すぐににこりと

笑った。


「へい、かしこまり! お連れさん、可愛いっすね! 奥の座敷、空いてます!」


この店は《ペット同伴》どころか、獣魔連れ冒険者歓迎の看板を掲げている。

ナナシも一人で時折ここを訪れていたが、仲間と入るのは初めてだった。





---


座敷に通されると、プルリはぷるぷると座布団の上で丸くなり、ミミは尻尾をくるりと丸めてちょこんと正座。

ルルカは落ち着かずに尻尾をとんとんと畳に叩いていた。


「ナナシ……ここ……イイ……ニオイ……」

「ミミ……おナカ……すいた……!」

「ルルカ……たべる……いっぱい……!」


ナナシはにやりと笑った。


「おう。今日はしっかり喰え。修行の前だ、腹が減ってりゃ牙も砥げねぇ。」


注文はいつもと同じ《炭焼き肉盛り定食》と、《浜炊き魚定食》。

香ばしい煙と共に、大皿に盛られた炭焼きの赤身肉と、白身魚の煮付けが運ばれてきた。



---


炭焼き肉盛り定食は、牛と猪の二種盛り。

ジュワリと脂が浮かび、肉の繊維に溜まった肉汁が鉄板の余熱でじわりじわりと滲む。


添えられた塩ダレは大蒜と香草が効いていて、肉の旨味を引き立てる。


魚は、大ぶりな銀鱈の切り身が骨ごと煮込まれ、甘辛い味噌ダレがとろりと絡んでいた。


ご飯は大盛り。味噌汁には山菜が浮かび、漬物はパリパリとした山ごぼうだ。



---


「プルリ……ぷるぷる……うま……!」

「ミミ……ミミ……やわらか……!」

「ルルカ……しょっぱい……おいしい……!」


三匹は、顔をほころばせて口いっぱいに頬張った。

プルリは小さな身体でぷるぷる震えながら、肉をくわえてぷるんぷるん。

ミミは耳をぴこぴこさせながら、煮魚の骨を器用に取り分ける。

ルルカは尻尾で小鉢を押さえつつ、煮汁をじゅるじゅると啜った。



---


ナナシは大きく肉を噛み切り、じわりと滲む脂を口に転がす。


(……うん。ここの炭焼きは相変わらずだ。火の入りが絶妙だな。肉を噛むたびに繊維がほぐれて、脂の甘味と獣臭が混ざり合う……こりゃあ、酒が欲しくなるが……)


隣の煮魚にも箸を伸ばす。味噌の香りと魚の脂が舌に乗ると、塩気の奥からほのかな生姜の香りが鼻に抜けた。


(骨まで柔らかく煮てやがる……腹の芯に染みる味だ……。肉で腹を叩いて、魚で落ち着ける……最高じゃねぇか。)


味噌汁を啜ると、山菜のほろ苦さが口の中を一度リセットしてくれる。

それからまた肉に箸を伸ばす。止まらない。


「……やっぱ、旨ぇな……。」


ぼそりと呟くナナシの横で、プルリたちは夢中で飯を平らげていた。


「プルリ……もっと……おかわり……!」

「ミミ……ナナシ……これ……もっと……!」

「ルルカ……たべる……まだ……!」


「おうおう、食え食え。全部、血と肉になる。」


その笑顔は、どこか父親のようでもあった。



---



食堂を出たころには、空はすっかり澄んだ青空に戻っていた。

腹を満たした三匹は、心なしか身体がひとまわり大きく見える。


「さて……腹も膨れたな。次は装備だ。」



---


ナナシが向かったのは、街外れの装備屋《鉄牙工房》。

ごつい鎧や武器が並び、奥の作業場からは金槌の音が響いている。


「おー、ナナシじゃねぇか! 珍しいな、連れなんて連れて。」


ひげ面の店主、ガロンが目を丸くした。


「こいつらに装備を見繕ってやりたい。修行用だ。」


「ほう……可愛いじゃねぇか、獣魔か? んで、ステータスは?」



---


ナナシはポケットからギルド印の獣魔登録書を取り出した。






【プルリ(スライム)のステータス】

レベル:1


筋力:5


耐久:8


敏捷:3


魔力:12


知力:4


特異スキル:液状体制御/擬人化進化×2段階(0/2)




【ミミ(コボルト)のステータス】

レベル:1


筋力:9


耐久:7


敏捷:10


魔力:2


知力:5


特異スキル:嗅覚探知/擬人化進化×2段階(0/2)





【ルルカ(リザード)のステータス】

レベル:1


筋力:12


耐久:10


敏捷:9


魔力:6


知力:6


特異スキル:尻尾分裂再生/擬人化進化×2段階

(0/2)





---


ガロンは目を細めた。


「おいおい……進化が2段階あるってか? ナナシ、こいつら変異種個体じゃねぇか……。」


ナナシは首をかしげた。


「……ん? 2段階って多いのか?」


「多いに決まってんだろうが! 普通の獣魔なら擬人化なんざ1回できりゃ御の字だ!オメエだってそうだろう!」


「いや、オレ3回だぞ?」


「3回って!?お前マジか、そんなのいま初めて聞いたぞ!」


「そりゃ、いま話したからな?ほれ、なら俺のステータス見るか?」



【ナナシのステータス】

レベル:78(金等級)


二つ名:ナナシの豪腕


筋力:5310


耐久:5070


敏捷:5240


魔力:5180


知力:5090


技量:5150


特性:物理特化/一部魔法耐性持ち




■ 戦闘スタイル

型:重戦士型(パワー特化)/接近戦の鬼


得物:斧、大剣、メイスなど重量武器を好むが、素手でも戦闘可能


特徴:一撃で仕留める豪腕と、近距離での制圧力が武器



■ 補助能力

野生察知


気配探知


嗅覚・聴覚が人間の数倍(オーク獣人由来)


■ 特殊スキル

モンスター語の解読(独学)

└ 若い頃、言葉を持たないモンスターと共存した経験があり、

  本能で“鳴き声”や“動き”を聞き分ける。


■ 制限

魔法は一切使用不可。


代わりに《直感的戦闘》で攻防を即座に最適化する。


特異スキル:【豪腕解放オークバースト】使用条件:“獣の血”を解放。

擬人化進化×3段階(2/3)


「な?」


「マジだ…。しかも後、1回進化するっていうのかよ。今もバリクソ強いお前さんがか?」


「まぁ、その話は今はどうでもいいだろう。今は、

こいつらの方だ。」



「こいつは本当に!いつもいつも!」


「……まぁ、いいだろ。細けぇことはいい。」


「おいおい……お前ほんっと、そういうとこだぞ!?」






---


◆ 装備屋《鉄牙工房》店内にて



ガロンが首輪を調整しながら、プルリたちを見比べる。


「にしても、こいつら……あんまり人に慣れてねぇな。鍛錬すりゃ、すぐ強くなるかもしれんがな。」


ナナシは頷いた。


「まぁな。……腹さえ膨れりゃ、誰でも言うこと聞く。」


「……は? お前、それは人間も含めて言ってんのか?」


「人間も魔物も大して変わらんだろ。腹が減りゃ、牙を剥くし、満たしゃ黙る。」


プルリがちょっと首をかしげた。


「ぷる……ナナシ……おなか……だけ……?」


「他に何がいるんだ? 喉が渇いたら水やるし、寝たいなら寝かせりゃいいだろ。」


「……雑っ!!」


ガロンは吹き出して、腹を押さえた。


「お前……お前なぁ! そりゃ間違ってないが、もう少し言いようがあるだろ!」


ミミが首輪を気にしながら、きゅっと尻尾を巻く。


「ミミ……これ……かわいい……? ナナシ……すき……?」


ナナシは真顔で頷いた。


「おう。似合ってる。……散歩でもするか?」


「さんぽ……?」


「犬だしな。」


「いぬ……ちが……!」


ミミは耳をぴんっと立ててぷるぷる震える。


「ほら、言ったそばから地雷だ! お前ほんと、そういうとこだぞ!?」



---


◆ 道具屋《薬師の婆さん(ロンバァ)とみんなからは呼ばれている》にて


袋詰めをしながら、ロンバァが楽しそうに笑った。


「しかしまぁ、ナナシ。こいつらの好物は決めてあるのかい?」


「好物? ……肉だろ。」


「スライムは?」


「肉だろ。」


「リザードも?」


「肉だろ。」


婆さんが眉をぴくりと跳ね上げる。


「……アンタ、ほんとに獣魔育てる気あんのかい?」


「……? 肉食わしときゃ、だいたいデカくなるだろ。」


プルリがもぞもぞしながら声を絞る。


「ぷる……プルリ……おさかな……すき……」


「……あ、そうか。魚も要るのか。」


婆さんが肩を震わせて笑いを噛み殺す。


「アンタ、無自覚で人の情操教育ぶっ壊すねぇ……」





---


◆ 店を出る前


袋を受け取ったナナシが、プルリの頭をぽよんぽよんと叩く。


「ま、強くなりゃ、魚だって自分で獲れる。」


「ぷる……ぷるぷる……つよく……なる……!」


ルルカが、ナナシの服の裾を引っ張った。


「ルルカ……ナナシ……ルルカも……つよく……なる……」


「おう、尻尾ちぎってでも戦え。お前にはそれがある。」


ルルカの尻尾がぴくっと動いた。


「……ちぎ……る……?」


「おお、増えるんだろ? 便利だな。俺も腕増えねぇかな。」


「ナナシ……あたま……おかしい……?」


ガロンとロンバァが、もう涙目で笑いをこらえ切れない。


「「おいおい……こいつ、ほんとまた……!」」





---


袋を持ったナナシが、唐突に振り返って三匹に言った。


「あと……寝る場所は俺の隣だ。外は寒いし、狼に食われる。」


「ぷる……ぷるぷる……ナナシ……と……ねる……?」


「ミミ……ナナシ……いっしょ……?」


「ルルカ……ナナシ……おふとん……あったか……?」


ナナシは当然のように言った。


「布団なんかねぇよ。床だ。」


三匹が固まった。


「「「……えっ……」」」


ガロンが膝を叩いて驚愕していた。


「お前ん家……布団ねぇのかよ!?」



ロンバァも驚愕していた。


「一体どんな生活してたら床で寝る発想になるんだい。体じゅうバキバキで起きれないだろうが。」


「あ?体を動かせば治るぞ?」


「「こいつ、マジか!?」」


ガロンとロンバァが驚愕の表情をしながら、3匹の獣魔を哀愁の目で見ていた。


この脳筋オークに本当についていって大丈夫かと心配するような視線を送っていたが、その視線に気づいた三姉妹は、グッドと、親指を立てて、「知ってる、ご主人様はこんな感じだってもう分かってるから、大丈夫!」とアイコンタクトで合図し合っていた。


「そうか、立派なもんだ」

「何かあったらいつでも頼ってくるんだよ?」


ガロンとロンバァが、まるで孫娘に接するような表情で、三姉妹に声をかけていた。


「あれ?なんか俺だけ、蚊帳の外じゃね…まぁ、なんか通ずるものでもあるん

だろう」


ナナシは、その間、黙って腕を組んで頷いていた。




---


ナナシはあくまで真顔で、ぽつりと呟いた。


「……あぁ、荷物家に置いたら、布団とベッド買いに行くかぁ。俺も寒いしな。」


三匹の目が潤んで、声にならない声を漏らした。


「ぷる……ぷるぷる……ナナシ……すき……!」

「ミミ……ナナシ……だいすき……!」

「ルルカ……ナナシ……あったか……!」


ガロンとロンバァは同時に深くため息をつき、呆れ顔で笑った。


「「やれやれ……お人好しにも程があるだろう……」」



こうして、無自覚に獣魔たちと周りの人たちを振り回しながら、

ナナシの豪腕こと天然さんは、これからも街で静かに轟いていくのだった。


(続く)



最後まで読んでくださりありがとうございます!

今回は、彼らが“生きていく”ための最初の基礎作りのような回でした。


温かい食事と人の優しさと、腹を満たすだけの場面なのに、

ナナシの中で何かが少しずつ変わり始めている……

そんな空気を感じていただけたら幸いです。


この食事のあとに彼が、天然発言連発し、周りを振り回す様は、まさに犯罪級ですねぇ!

今後、彼らがどんな風に“牙を研ぎ”、

どこへ進んでいくのか──ぜひ楽しみにしていてください。


引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』

略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/

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