第64話 「名の残骸と《忘逆の魔影》」
お疲れ様です!
さあさあ、スパートがかかってまいりましたッ!
エンジン全開で戦いに挑んでいる【無銘の牙」たち!!
「影葬の追跡」開始そうそうお互いで高度な知能戦が繰り広げられております!
二の牙の挑発に乗らず、【無銘の牙】の面々はやつを出し抜くことができるのか!!!
彼らがどこまで「一の牙」&「二の牙」に己の牙を突き立てることができるのか!!!
こうご期待ください!!!
また、頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
――地鳴りのような咆哮が大地を震わせた。
戦場一帯は、なおも影の奔流に覆われていた。天も地も裏返ったような《奈落逆廻》の世界は、常識を拒む混沌そのもの。逆さ吊りになった城郭の幻影が空に揺れ、そこから滴るように万影の軍勢が吐き出され続けている。
狼、オーク、ゴブリン、ボア――そして名も形も知れぬ怪異。すべてが記憶の残滓から生み出された精神喰らい。触れれば心を削られ、噛まれれば魂さえ蝕まれる。まさに底なしの悪夢であった。
「ひぃっ……! お、追いつかないよぉ!」
スライムのプルリが全身を震わせながら飛び跳ね、迫り来る影ゴブリンを必死に弾き飛ばす。だが次々と湧く影の群れに、透明な体が疲弊して濁りかけていた。
「大丈夫だよ、プルリ! 背中は任せてッ!」
コボルトのミミが吠えるように叫び、両手の短剣を交差させて斬り払う。閃光のような連撃が、迫る影を切り裂き、一瞬の空白を作る。だが彼女の呼吸も乱れ、焦りと恐怖が滲んでいた。
「……幻影とはいえ、数が多すぎるッ!」
リザードのルルカが低く呟き、尻尾を鋭く水平に構えた。鋭い爬虫類の眼差しが揺れる影を捕らえ、次の瞬間、烈風のごとき突きが放たれた。
「――《穿牙衝破》!」
衝撃が走り、影オークの胸を貫いた。黒煙が弾け、虚ろな残滓だけが散る。しかし、その空白すら瞬時に埋めるように別の影が這い寄ってくる。
その背後で、ナナシが豪腕を振りかぶっていた。闇に肥大化した影狼が跳びかかる。その牙は鋼鉄をも噛み砕く。
だが――
「――《剛腕・裂空砕牙》ッ!」
大地を踏み抜くほどの踏み込み。振り下ろされた拳が、影狼を粉砕し、闇の群れを衝撃波で吹き飛ばした。影の波が裂け、戦場の一角に鮮烈な光の道が刻まれる。
「な、何今の……!」
ミミが目を丸くする。
「ご主人様……ほんとに、拳ひとつで……」
プルリの声は震えながらも、どこか誇らしげだった。
ルルカの目が細められる。「やはり……“ナナシの剛腕”……噂ではなく、実在してたんだね」
◆ ◆ ◆
二の牙はその光景を見て、艶やかな嗤いを漏らした。
「フフ……良いぞ。噛み砕き、抗うがいい。その牙こそ甘美……だが抗えば抗うほど、深き奈落は牙を研ぎ澄ませる……!」
闇が再び渦を巻き、軍勢が二重三重に膨れ上がる。空に浮かぶ逆城郭の幻影が軋み、まるで戦場そのものが二の牙の口腔に呑まれようとしていた。
そのとき――雷鳴のような声が轟いた。
「吠えるな、小僧ども! 試練の場に泣き言は無用!」
白雷を纏った巨狼――《一の牙》ヴァルグ・ゼオグレインが立ちはだかった。蒼白の電撃を迸らせ、影の奔流を一閃で吹き飛ばす。その姿は雷霆そのものだった。
「ヴァルグ……!」
ナナシが睨みつける。
「勘違いするな。俺は貴様らの味方ではない。俺の牙は、二の牙と並び立つもの。だがな……」
巨狼は口角を吊り上げた。
「面白い。お前たちがどこまで抗えるか、この目で見届けてやる。――ヒントをくれてやろう。二の牙を倒す鍵は、奴自身がすでに吐いている。よく思い返すがいい」
二の牙が初めて驚愕したように目を見開いて
「ヴァルグ貴様!謀る気か!!」
「違う。ゲームをもっと面白くするためのヒントをくれてやったに過ぎない」
一の牙はそう言って二の牙に向かって二ィ~と嗤って牙を剥いた。
雷鳴が轟き、巨狼は再び影を薙ぎ払った。
ナナシ達はその言葉に息を呑んだ。
◆ ◆ ◆
二の牙の声が、戦場全体に響き渡る。
「名を得た者は囚われる……名は枷であり、呪であり、葬送の鐘だ。抗うたび、お前たちの名は砕け散る……!」
プルリの体が震えた。自身の名前が頭から抜け落ちそうな感覚に、半透明の身体がぶるぶると濁っていく。
「ぷ、プルリ……? ぼ、ぼくの……名前、だった……よね?」
「忘れちゃダメ、プルリ!」
ミミが必死に叫ぶ。彼女もまた、自分の名を口にしながら影を斬る。「ミミだ、私はミミ! 無銘の牙の仲間ッ!」
ルルカも苦しげに剣を支えながら声を張る。「名が呪いだというなら……ワタシはその呪いを断ち切る剣になる!」
そのとき、プルリがふと口を開いた。
「ねぇ……おかしいと思わない? 二の牙、いっつもボクたちと話すとき……“忘れろ”とか“逆さま”とか、“はんてん”とか同じ言葉を繰り返してた。もしかして……あれが名前のかけらなんじゃ……」
ナナシが目を見開く。「……! そうか……!」
「そうだよ! “忘却”と“逆廻”……そして”反照”つまり反転させる。いつもあの影が、話してた……ん?!」
プルリの震える声は、しかし確かな閃きを宿していた。
ナナシが吠えるように叫んだ。
「そうか!お手柄だぞプルリ!!!ようやく、お前の名を捉えたぞ。二の牙ッ! お前の正体は――《忘逆の魔影》!」
◆ ◆ ◆
二の牙の笑みが凍りついた。「……な、に……!?」
幻影の城郭が悲鳴を上げるように崩れ始め、影の軍勢もひとつひとつ、名を奪われた形を失い、虚ろに溶けていった。
露わになったその姿は、黒き衣をまとい、顔の半分を仮面で覆った“美しき魔影”。滑らかな長髪が闇に揺れ、空洞のような瞳がナナシ達を射抜いていた。
どこか人の姿を残しながらも、名を失い呪いへと堕ちた存在。
「我は……忘れられた名の残骸……それは当の昔に捨てた名前。それを貴様は……我を《忘逆の魔影》と……そう呼ぶのか!」
その声には怒りと同時に、微かな悲嘆が混じっていた。
「だが……名を呼ばれたことで……我はもう、虚無には戻れぬ。名に縛られ、牙に砕かれる……!」
ナナシは拳を握り、仲間を振り返る。
「プルリ……よく気づいた!」
「すご~いプルリ!!」
「さすがプルリ、やる時はやる!」
ミミとルルカも褒めちぎる。
糖のプルリも体をプルンプルンと震わせながらも、ちょっと照れ臭そうな笑みを浮かべた。
「へ、へへ……やっぱりボク、役に立てたでしょ?」
「当然だ。お前がいなきゃ見抜けなかった!」
ミミとルルカも声を張り上げる。「無銘の牙の名に懸けて――!」
ナナシが豪腕を振り下ろす。
「お前の名に俺たちの牙を突き立てる。行くぞ《忘逆の魔影》ッ!」
轟音と共に、影が爆ぜた。戦場を覆っていた《奈落逆廻》は崩壊し、光が差し込んでいく――。
◆ ◆ ◆
静寂。
仲間たちは肩で息をしながら、互いに無事を確かめ合っていた。
「……ぼく、ちゃんとプルリだよね?」
「当たり前だ。お前はプルリだ。無銘の牙の仲間だ」
ナナシは空を見上げ、拳を下ろす。
「《忘逆の魔影》……お前の名は俺たちが暴いた。だが、お前の魂が完全に救われたわけじゃないだろう。いつか――本当の名を取り戻せる日が来るといい」
遠くで雷鳴が轟いた。それは一の牙ヴァルグの咆哮か、それとも戦場を見守る天の声か。
ただひとつ確かなのは――
無銘の牙たちの名は、もう揺らがない。
そして次なる試練へと、彼らの牙はさらに研ぎ澄まされていくのだった。
【影葬の追跡】終了まで、
残り十五環(15分)。
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
次話の投稿は、明日夕方17時10分の予定です!('ω')ノ
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/