第63話 「《二の牙、本気の牙を剥く》」
お疲れ様です!
さあさあ、スパートがかかってまいりましたッ!
エンジン全開で戦いに挑んでいる【無銘の牙」たち!!
「影葬の追跡」開始そうそうお互いで高度な知能戦が繰り広げられております!
二の牙の挑発に乗らず、【無銘の牙】の面々はやつを出し抜くことができるのか!!!
彼らがどこまで「一の牙」&「二の牙」に己の牙を突き立てることができるのか!!!
こうご期待ください!!!
また、頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
――空気が裂けた。
戦場の中心で、異様な脈動が広がる。
まるで天地そのものが呼吸を止め、闇の心臓が鼓動を刻むかのように。黒き波は地を舐め、天を掻きむしり、すべてを呑み込もうと蠢いていた。
それまで愉快犯のように軽薄な態度を崩さなかった二の牙が、ついに仮面を剥ぎ捨てた。
笑みは残る――しかしその裏に潜む牙は、鋭く、冷たく、猛毒を帯びていた。
「フフフ……ようやく、愉しめそうだ。
貴様ら、ただの駒で終わるか……それとも牙を立ててみせるか?」
氷の刃を喉元に突きつけられたような声だった。
その響きだけで、【無銘の牙】の面々の背筋に冷たいものが走る。
次の瞬間、二の牙はさらに言霊を紡ぐ。
「――《奈落よ逆巻け、記憶を反転し、恐怖を糧に魂を刈り取れ》」
重苦しい低音が、大地の奥底から響く。
闇が震え、空間が裏返る。虚と実、光と影、記憶と忘却が絡み合い、すべてが逆さまにひっくり返るような感覚に襲われる。
「《アビス・リヴァース・オブリビオン(奈落逆廻・忘却顕現)》!」
*******
呪の完成と同時に、戦場全体が変貌した。
地面は波打ち、空は裂け、逆さまの城郭が天に浮かぶ。石垣や塔がねじれ、歪んだ影を落とす。
闇色の狼が現れる。続いて、ねじれた四肢を持つゴブリン、巨躯のオーク、牙を剥く猪――いや、それらはもはや「種族」の名では語れない。
影から生み出されたそれらは、記憶と恐怖を喰らい、精神を削り取る《精神喰らいの影》だった。
「ひゃ、ひゃわっ……怖いよぉ……!」
プルリがぷるぷると震え、透明な体を小刻みに揺らす。影兵の咆哮に体の形が崩れかけた。
「大丈夫、怖がってる場合じゃないよ!」
ミミが吠えるように叫び、短剣を握り直す。
「ここで怯んだら、本当に呑まれちゃうよ!」
「……冷静に。幻は幻。だが、噛まれれば現実になる」
ルルカが鋭く言い放った。爬虫類じみた瞳が、虚実を切り裂くように細められる。
その声にナナシは頷く。
「お前ら、冷静に対処するぞ。惑わされるな!」
彼の声は、迷いを吹き飛ばす鋼の響きだった。
二の牙は飄々と嗤う。
「ククク……どうした? 牙を研ぎ澄ませるどころか、心ごと折れそうではないか。
さぁ、震えろ。笑え。泣け。貴様らの心は、すでに我が影の宴に囚われた」
闇の軍勢が咆哮し、戦場は轟音と狂気に満ちる。
その時、雷鳴を纏った巨影が現れた。
一の牙――ヴァルグ・ゼオグレイン。白雷の大銀狼が、二の牙の放つ奈落の中を歩む。
「フフ……見よ、おぬしらよ」
その声音は誇り高く、同時に冷徹だった。
「これぞ試練。牙を名乗る者ならば、この軍勢をどう凌ぐか示してみせよ。
貴様らが真に牙足るならば――我らを退け、奈落をも越えてみせるがいい」
雷鳴を孕んだ声が戦場を揺らす。
試練という言葉には、仲間としての情は一切ない。彼もまた牙。鍛えるためならば情け容赦など不要ということだ。
「……やれやれ、面倒なのは嫌いなんだがな」
ナナシが大剣を構え、影を斬り裂く。その一閃は闇の海に確かな光を刻む。
「幻に惑うくらいなら……自分の目と、耳とこの拳を信じる!」
ナナシが低く呟いた。
次の瞬間、彼の肩が大きく動いた。
放たれた拳が、影オークの巨体を正面から粉砕する。
轟音。
闇が砕け散り、周囲が一瞬だけ沈黙した。
「う、嘘……あのオークを……拳ひとつで……」
ミミが絶句する。
「……やっぱり、ご主人様の腕は……ただ者じゃない……!」
プルリが感嘆と不安を混ぜて声を漏らす。
「ナナシ……その力……」
ルルカが目を細めた。確かめるように、噛み締めるように。
その光景は、戦場に新たな緊張を生んだ。
*******
――“ナナシの剛腕”。
仲間たちでさえ噂でしか知らなかった二つ名が、闇を砕くたび、形を帯び始めていた。
二の牙はさらに笑みを深める。
「良い……その絶望を越えてなお抗うか。だからこそ牙は美しい。
だが――抗えば抗うほど、深き奈落は甘美だぞ」
一の牙ヴァルグが雷のように吠えた。
「フム。おぬし名はなんと言ったかな…。」
ヴァルグの問いにナナシは微笑しながら、
「名なんてないさ。みんなからはナナシって呼ばれてるから、ナナシでいい。」
「そうか。ならば示せ、ナナシ! 貴様の剛腕は虚か、真か!
我ら牙の同胞を名乗るに足るか、ここで決するがよい!」
雷鳴と闇、試練と恐怖。
二人の牙が同時に牙を剥き、戦場は心理と力の限界を競う死闘へと変貌していく。
【影葬の追跡】終了まで、
残り二十三環(23分)。
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
次話の投稿は、明日夕方17時10分の予定です!('ω')ノ
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/