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『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』  作者: 焼豚の神!
第2章:『雷牙の狩場 ―覇雷獅王との邂逅―』
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第62話 「―《深淵逆転忘却》と《鏡禍反照呪》の罠」

お疲れ様です!


さあさあ、スパートがかかってまいりましたッ!


エンジン全開で戦いに挑んでいる【無銘の牙」たち!!


「影葬の追跡シャドウ・レクイエム」開始そうそうお互いで高度な知能戦が繰り広げられております!


二の牙の挑発に乗らず、【無銘の牙】の面々はやつを出し抜くことができるのか!!!


彼らがどこまで「一の牙」&「二の牙」に己の牙を突き立てることができるのか!!!


こうご期待ください!!!


また、頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪


最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――


牙の刻が、これからも続いていきます!

 戦場に、ぞっとするほど冷たい声が再び響き渡った。

 二の牙が、再び言霊を紡ぎ始めていた。


「……映せ、映せ……心の澱を……

 牙を持つ者よ、己の牙に噛まれるがいい……

 過去に縛られ、未来を疑い、己を呪う幻影を……ここに顕現せよ……

 牙を信じぬ者は裂け、己を信じぬ者は砕け……

 ――《鏡禍反照呪スペクルム・ペルディティオニス》!」



 言霊が放たれると同時に、闇と光がねじれ合い、戦場の空気そのものが軋んだ。


 まるで世界の皮膚がひび割れ、その隙間から瘴気が漏れ出すかのような感覚。そして、術に狙われたのは三体の魔物達だった。



 スライムのプルリ、コボルトのミミ、リザードのルルカ――三体の眼前に広がったのは、かつての地獄。


 ――忌まわしい、施設の記憶だった。





*******





 白いスライムの身体が、ぶるぶると震え始める。

 視界に映ったのは、冷たく光を放つ培養槽。並んだ瓶の中に、幾百ものスライムが詰め込まれていた。

 そこに「名前」はなかった。あるのは数字とラベルだけ。


「試験体No.24、不要。処分。」


 無機質な声。

 直後に、瓶の中の仲間が泡立ち、廃液のように処分されていく。

 プルリはその光景を見ながら、ただただ「次は自分か」と怯えて震えていたのだ。


「ぷ、プルリなんて……弱いから……いらない……?」


 その時の冷たい声が、耳元で甦る。

 小さな心臓を締め付けるように、痛烈な言葉が突き刺さる。









 コボルトのミミの瞳に広がったのは、鉄格子の並ぶ収容棟だった。

 小さな彼女は、木箱のような檻の中で膝を抱えていた。

 食事は骨の欠片と腐ったパン。水は濁った泥水。


「この子犬は牙が小さい。兵にはならん。不要。」


 冷酷な研究員が吐き捨てる。

 次の瞬間、隣の檻の仲間が引きずられていき、悲鳴が途絶える。


 ミミは耳を塞ぎ、震えながら夜を過ごした。

 「捨てられる」恐怖だけが全身を満たしていた。


「いや……もう一人は……寂しいのはいや……! また閉じ込められるの……?」


 その声は震え、彼女の両手から力を奪っていく。









 リザードのルルカの瞳には、錆びた訓練場が広がった。

 彼女はまだ幼い体で、巨大な獣の前に立たされていた。

 「戦え。勝てなければ無価値だ。」

 そう告げられ、木剣を握らされた。


 当然、勝てるはずがない。

 吹き飛ばされ、踏み潰され、血を吐きながら転がる。

 見下ろす研究員の冷笑が突き刺さる。


「無力だな。役立たずのトカゲは処分だ。」


 その言葉が、今も胸を焼いて離れない。


「ワタシは……あの頃の……無力なトカゲに……戻るのか……?」


 膝が震え、剣先が落ち、影が絡みついてくる。


 三者三様の地獄が、まざまざと蘇る。


 心をえぐる過去は、ただの幻影ではなく、「生きた呪い(トラウマ)」として存在していた。







 二の牙は愉悦に満ちた声で囁く。


「クカカ……反転と反照。力を逆さに、心を鏡に。

 過去は忘れられぬ、未来は疑わしきもの。

 牙など虚ろな夢想……恐怖を見よ、絶望を噛みしめろ。」


 その声は、鋭い刃となって心臓を抉る。

 プルリは灰色に濁り、ミミは涙に沈み、ルルカは体を尻尾で守るように事務んの体に巻き付けて防御の体制をとってうずくまっていた。




「クカカ。折れたか。他愛もないわ。」

二の牙は静かにつぶやいた。




*******





 だが――ただ一人。

 ナナシは、獰猛な光を宿した目で戦場を睨み据えていた。


「……チッ。エゲツねぇことしやがる。

 あいつらのトラウマを蘇らせて、心ごと折るつもりか。

 そういうやり方、俺が一番嫌いなんだよ……二の牙。いや、《深淵逆転忘却》の怪物さんよ。」



 二の牙は二ィ~と嗤う。

「誉め言葉であるな……クカカカ♪」


 だがナナシは怯まない。

 胸の奥から声を絞り出すように、仲間に呼びかけた。



「聞けッ! お前らは弱くねぇ! あの施設でどんな扱いされようが、

今ここにいるのは俺と共に戦う《無銘の牙》だ!


 恐怖に噛みつかれるだけじゃ終わらねぇ! 噛み返してやるのが俺たちの真骨頂だろ!


 俺は知ってる。お前らと最初にクランの前で会った時から、心の芯が折れちゃいなかった!


 だから――立て! お前らの牙は、そんなものじゃないはずだ!


今まで俺と牙を研いだ日々を思い出せ!!」


 その声は稲妻のように胸を撃ち抜いた。





*******




 ミミの心に、あの日の記憶が重なる。

 檻の外から手を伸ばしてくれたご主人様――ナナシ。

 初めて与えられた温かいご飯の味。

 「お前は仲間だ」と言ってくれた声。



「……あたしは……絶対に、ルルカを疑わない……! 仲間を信じるって、決めたんだ……!」



 影のルルカが音もなく崩れ落ち、霧散する。


 プルリの心にも、初めて外の空を見た日の記憶が蘇る。

 青空の眩しさ、花畑の鮮やかさ、ナナシと仲間の笑顔。

 その全てが、灰色の体を再び瑞々しい体(水色ボディー)を輝かせた。


「ぷ、プルリは……弱いかもしれないけど……でも! 仲間を照らす光でいるんだぁぁ!!」


 影スライムが裂け、光の飛沫となって散った。




 ルルカもまた、心に蘇る。

 「無力」だと吐き捨てられた日々。

 だが今は違う。守るべき仲間がいる。共に戦う仲間がいる。

 その事実が、剣を再び握らせた。



「無力? 笑わせないで! ワタシは牙だ! 仲間を守るための、絶対の盾だッ!!」


 幻影を切り裂き、足元の影を一刀のもとに断ち切った。




 万影の軍勢がざわりと揺れる。

 二の牙の顔に、今までの愉悦とは違う影が走った。


 それは苛立ちか、あるいは――わずかな驚愕か。



「……クカハ。牙を噛み返すか。面白い……ならば、次は我が真に牙を剥く番だ。」


 闇が渦を巻き、狂気がさらに濃度を増していく。

 仲間の心は打ち破られた。

 だが戦場は、これからが本番だった。


 牙と牙が、本当の意味でぶつかり合う瞬間が、迫っていた。





――続く――



ここまでお読みいただきありがとうございます!


さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!


次話の投稿は、明日夕方17時10分の予定です!('ω')ノ


引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』

略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/

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