第48話 「《影葬の追跡》──開始、一分間の攻防」
お疲れ様です!
さあ、物語のボルテージがどんどん上がってきましたよ!!
「影葬の追跡」その開始のゴングが鳴り響きます!
彼らがどこまで「一の牙」&「二の牙」に己の牙を突き立てることができるのか!!!
こうご期待ください!!!
また、頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
ヴァルグ・ゼオグレインの低く重厚な声が、結界空間全体を震わせた。
「さて――《影葬の追跡》の遊戯、その開始を宣言しよう。」
その声が響いた瞬間、観衆たちは一斉に息を呑む。静寂はまるで刃のように鋭く張りつめ、僅かな足音や衣擦れすら耳障りに聞こえるほどだった。
ヴァルグは大地を踏み鳴らし、猛々しい笑みを浮かべる。
「ルールはすでに告げた通り。二の牙が獲物として姿を消す。お前たち《無銘の牙》は三分間の猶予のうちにそれを探せ。三分が経てば――我と影狼の群れが、お前たちを狩る。」
影狼という単語に、ざわりと観衆の間に恐怖の波が走る。彼らの中には過去にその名を耳にした者もいるのだろう。影に生まれ、影に生き、影を喰らう存在。捕まれば即座に異空間に引きずり込まれるその恐怖は、単なる幻獣の域を超えていた。
ヴァルグは口角を吊り上げ、嗤った。
「捕まらぬように必死に逃げ、なおかつ獲物を見つけねばならん。影狼は強いが、倒すことも許されているぞ? フハハ! 存分に足掻け!」
その嗤い声は地響きとなり、空間に反響して消える。
*******
その直後、どこからともなく滑らかな声が割り込んだ。
薄闇の奥から響くような声音は、不気味なほどに落ち着いている。
「では――お先に失礼するとしよう。」
二の牙の声に、《無銘の牙》の面々は一瞬身構える。
だが姿はどこにもない。ただ、薄い気配が空間に溶け込むように漂っているだけ。
「早々にやられる出ないぞ? フフフ……」
最後の言葉は嗤いを含み、霧の中に溶けた。
その瞬間、すべての感覚から彼の存在が掻き消える。
視覚はもちろん、匂いも音も、気配の揺らぎさえ残さない。
まさに「無」そのもの。
ナナシは片目を細め、低く吐き捨てた。
「……完全に消えやがったな。」
無銘の牙、動き出す
ヴァルグの声が再び響く。
「――さあ、猶予は三分。動け、小さき牙どもよ!」
その言葉を合図に、ナナシたちは一斉に散開した。
「行くぞ!」
彼の号令に、プルリ、ミミ、ルルカの三人は迷いなく頷き、それぞれの探索ルートへと走り出した。
結界の中の空気は重い。霧が濃く立ちこめ、地面は時折ひび割れたように軋み、耳を澄ませば遠くで低い唸り声が聞こえたような気がする。
だが、それらが実在の音なのか、それとも結界そのものが生み出す幻なのか、誰にも判別できなかった。
ナナシは後方に位置し、全体の動きを見守る。彼の役割は指揮、そして戦術の判断だ。
彼は素早く指を動かし、ハンドサインを出した。
(“ルルカ、右の高台を取れ。見晴らしを確保しろ。ミミ、左の茂みへ。索敵を拡げろ。プルリ、中央に留まれ。圧の流れを探れ”)
三人はすぐに理解し、それぞれの動きへ移る。
無駄のない連携。それは長い鍛錬の日々が培ったものだった。
ルルカは岩場を一気に跳躍する。竜人の脚力は凄まじく、爪先が地を蹴るたびに砂利が弾け飛ぶ。高台へと駆け上がる途中、彼女は鋭い嗅覚を働かせた。
(匂いは……混ざってる……血と鉄、獣、湿気……結界のせいか? いや……これは、わざと匂いを散らしてる……!)
彼女の喉が小さく唸る。だがそれ以上の痕跡は掴めない。
一方、ミミは耳を立て、全神経を集中させていた。
微細な電流を体から放ち、空気に広がる反響を探る。いわば生きたソナーだ。
(岩壁の向こう……小動物の反応。左奥は風が抜けてる。だけど……その奥に妙な“空白”がある……)
心臓が跳ねた。確かに異常がある。
だがその瞬間、頭の中に直接声が響いた。
「ククク……惜しいな。そこには何もいないぞ、小娘!」
ミミの全身に冷や汗が走る。
慌てて耳を伏せるが、既に気配は消えていた。
(……っ、揺さぶってきてる! 私の“電気回廊”に気づいてる……!)
彼女の呼吸が荒くなる。だが足は止めない。
中央では、プルリが地面に身を沈め、全身を小刻みに震わせていた。
その震えは恐怖ではなく、スライムの体組織を振動させて周囲の圧や流れを探る行為。
(……空気の流れ……どこかで止まってるっぽい……? 風があるのに、一部分だけ……温かい……)
彼女の感覚に微細な淀みが触れた。だが、それが二の牙か、結界の罠かは断定できない。
*******
ナナシは全体を見渡し、状況を即座に把握する。
(ルルカは匂いに翻弄されてる。ミミは揺さぶられた。プルリは淀みを掴みかけてる……まだ“点”だ。線で繋がなきゃ確証にならねぇ……)
彼は腰の短剣を抜き、岩肌に突き立てた。鋭い金属音が結界全体に響く。
その音を合図に、ミミが稲光を走らせる。
電気回廊パス――三人の思考を直接繋ぐための手段だ。
『……聞こえる?』ミミの声が脳裏に響いた。
『あぁ』ルルカの低い返事。
『……怖いけど、感じてる。流れが止まってる場所……』プルリが震えた声を送る。
『よし。いいか、惑わされるな。点じゃなく線で探せ。違和感が繋がったとこに、必ずやつの影が滲んでる』ナナシが言い切る。
言葉が一本の糸となり、四人を束ねた。
その時、再び二の牙の声が霧の中に漂った。
「フフフ……よくやるな。だが三分は短いぞ? 焦れ、迷え、そして捕らえられろ。」
声は四方から同時に響き、空間全体が囁くようにざわめいた。
ルルカの喉が低く鳴った。『……クソッ! こいつ、本当に全方位に声を飛ばして把握しにくくしている!』
ミミは奥歯を噛みしめる。『挑発してるんだよ……焦っちゃダメ! でも……もう一度送る、反響を!』
プルリが震える体で呟く。『……ご主人さま!変な淀み、やっぱりあるよ……!』
ナナシは短く応じた。
『よし、そこを軸に動け!あと二分――絶対に掴むぞ!!』
彼の声に三人の胸が熱を帯びる。
恐怖は確かにあった。だがそれ以上に、仲間の声が支えとなっていた。
やがて、もう一分が経とうとしていた。
霧は濃く、空気は重く、観衆の気配さえ遠ざかっていく。
だが確かに、三人の感覚は一つに収束し始めていた。
――その時、ほんの刹那。
空間の“裏側”に、濃すぎる闇が滲むのを全員が感じ取った。
「……っ!」
三人同時に顔を上げる。
そこにあったのは――二の牙の気配の断片。
わずかな、だが確かな影の痕跡。
一分が過ぎた。
残り二分。
狩りの幕は、いよいよ本格的に開かれようとしていた。
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
次話の投稿は、明日夕方17時10分の予定です!('ω')ノ
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/