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『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』  作者: 焼豚の神!
第2章:『雷牙の狩場 ―覇雷獅王との邂逅―』
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第47話 「《影葬の追跡》──猶予の三分」

お疲れ様です!


さあ、物語のボルテージがどんどん上がってきましたよ!!


「影葬の追跡シャドウ・レクイエム」!


彼らがどこまで「一の牙」&「二の牙」に己の牙を突き立てることができるのか!!!


こうご期待ください!!!


また、頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪


最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――


牙の刻が、これからも続いていきます!

 ――赤黒い月が、空に浮かんでいた。


 結界に閉ざされた異空間は、息苦しいほどの静寂に包まれていた。

 濃く立ち込める霧は生き物のようにゆらめき、視界を覆い隠す。目を凝らしても先は見えず、すぐそばの岩壁ですら影と溶け合い、どこまでが現実でどこからが幻なのか、境界が曖昧になっていく。


 大地はひび割れ、鋭く尖った断崖が幾重にも積み重なる。黒ずんだ岩肌には禍々しい模様のように影が走り、あたかも血管のように脈打っていた。朽ち果てた枯れ木は斜めに傾き、枝が鉤爪のように空を引っかく。その間を吹き抜ける風は冷たく湿り、腐敗した土の匂いと鉄のような生臭さを運んでくる。


 まるで世界そのものが、狩りという一つの行為のためだけに姿を変えた――そんな錯覚を覚えさせる舞台だった。


 その中心に、巨躯がそびえていた。


 一の牙、ヴァルグ・ゼオグレイン。

 獣と人の狭間にあるような異形の幻獣。その体躯は人二人を縦に重ねてもなお届かぬほどで、鋼鉄をも砕くと謳われる顎を持ち、分厚い肩と腕には幾筋もの傷跡が刻まれている。その姿は動かぬ岩のように堂々と立ち尽くし、ただ存在するだけで周囲を圧倒していた。



 彼は腕を大きく広げ、観衆と挑戦者を見渡すようにして吠える。


「――見よ、これが“遊戯”の会場だ!」


 その声は雷鳴のように響き渡り、観衆の心臓を直接叩きつける。緊張がさらに膨れ上がったところで、ヴァルグは低く嗤い、続ける。





*******





 彼の眼光はまるで雷光。赤黒い月を背にしながら、濃霧を貫き、闇そのものを切り裂くように鋭く光る。


「――よいか!」


 その咆哮が空間を揺らした。

 耳を劈く低音は、まるで大地そのものが唸っているかのようで、岩壁が震え、霧が波打ち、外から見守る観衆までも思わず身を竦ませる。


 観衆は息を呑み、眼差しを釘付けにされた。

 誰もが知っている。これから始まるのはただの儀式ではない。命を削る試練であり、己の存在価値を証明する“牙”の闘争だと。


 ヴァルグは一瞬の沈黙を与え、その静寂ごと空気を支配した。

 そして、牙を覗かせるようにして宣言する。


「改めて――《影葬の追跡シャドウ・レクイエム》の規則(ルール)を告げる!」


 その声と同時に、霧の向こうから不気味な笑いが木霊した。


「ククク……規則だと? どうせ聞いたところで、お前たちに勝ち目はない……」


 二の牙の声だった。

 姿は見えない。ただ声だけが、四方八方から染み込むように響いてくる。背後からも、頭上からも、まるで影そのものが語りかけているかのように。


 挑発の気配に、ナナシの瞳が僅かに細められる。仲間の小さな震えや呼吸の変化を即座に察知しながらも、彼は一言も発さず、ただ様子を窺った。


 ヴァルグは霧の嘲笑など意に介さぬ様子で、一歩、重々しく地を踏み鳴らす。

 その瞬間、大地が震え、石屑がぱらぱらと崩れ落ちた。


「この遊戯の本旨は――単純だ!」


 宣言は稲妻のごとく響き渡る。


「制限時間は一刻(1時間)。二の牙が影に潜む! お前たち《無銘の牙》の役目は、その影を追い、捕らえ、そして()()()()|》《・》()()()()()()こと!どうにかしてな!これが、貴殿らの完全勝利の条件である!」


 言葉が大気を震わせ、観衆がざわめいた。恐怖と興奮が入り混じり、喉の奥から漏れ出す声が波のように広がっていく。


 だがヴァルグは、そこで言葉を止めなかった。


「――だが」


 わずかに口角を吊り上げる。その牙が月光を反射して輝いた。


「それだけでは、面白みに欠けるだろう?」


 ナナシはその言葉を聞き、眉をひそめた。

 彼は短く吐き捨てる。


「……また何か仕掛けてくるか」


 その予感は的中する。


 ヴァルグは大きく両腕を広げ、地鳴りのような声で宣言した。


「二の牙が影に消えた瞬間――お前たちには三分間の猶予を与えよう!」


 その言葉が放たれた瞬間、影がざわめいた。

 霧が深く渦を巻き、二の牙の姿は完全に掻き消える。気配すら掴めず、空気のどこかに潜んでいることだけが分かる。


 ただ、残されたのは嘲弄の笑い。


「ククク……三分だと? 短くはないか?早々につかまってしまっては話にならんぞ。まあ、精々見つけられるものなら、やってみせよ……」


 その声音は甘美で、耳の奥を撫でるように絡みつき、聞く者の心を揺さぶる。


 プルリの身体が小さく揺れ、透明な表皮が細かく波打った。

 ルルカは奥歯を噛み締め、獣のような低い唸りを漏らす。

 ミミは耳をぴんと立て、四方から響く音を拾おうと集中した。





*******





 だがヴァルグは、彼らの緊張を楽しむようにさらなる言葉を放つ。


「よく聞け!」


 その声は雷鳴。


「三分の猶予が過ぎたその時――我と、我が《影狼シャドウ・ハウンド》の群れが、お前たちを狩りに加わる!」


 観衆から、悲鳴に近いどよめきが上がった。「こんなこと初めてだ」、「いつものルールと違う。これじゃあ、彼らも喰われてしまうではないか!!」、「ん!(合掌して神に祈る村人)」


 その光景を見守っていた村人たちは思わず顔を覆い、子どもは泣き声を上げる。だが誰も目を逸らせはしなかった。



「影狼に捕まるとは――すなわち、影が全身を纏い尽くすことを意味する」


 ヴァルグの声は冷酷な宣告。


「その瞬間、お前たちは異空間へ転送され――遊戯から退場となる!

 そして、全員が捕まった瞬間ゲームオーバーだ。我らの勝ちとなり、

 貴殿らは我らの影の糧になるというわけだ!!」



 観衆は凍りついた。

 その仕組みを想像するだけで、影に捕らわれ消えていく様が頭に浮かび、誰もが背筋に氷を這わされたような感覚を覚えた。


 プルリはその映像を想像してしまい、思わずぐっと体を縮めた。


(……影に捕まったら……消えちゃう……)


 小さな心の声が震えとなって滲み出る。


 だがヴァルグはさらに、残酷な余白を与える。


「だが!」


 声を張り上げ、獰猛な笑みを浮かべる。


「影狼を倒してしまっても構わぬ! もっとも……容易ではないがな!」


 その笑みは猛獣そのもの。

 恐怖と同時に、観衆までもぞくりとさせる異様な熱気を伴っていた。


 ――試練は、牙を試すためのもの。


 ナナシは三人を見回し、指先で素早くハンドサインを送る。

 動きは簡潔で迷いがない。


(“三分。痕跡を探せ。影の違和感を見逃すな”)


 ミミは深く頷き、耳を震わせた。微かに電流が走り、脳裏に響く声が仲間に共有される。


(……聞き分ける。風の音も、岩の鳴きも、あいつの息遣いも……全部!)


 ルルカは剣を強く握り込み、血が滲むほどに拳を固めた。


(追われる……? 上等だ。牙はもう研がれている……喰らいついてやる!)


 プルリは震えながらも、必死に仲間を見上げる。


(怖いけど……みんないるから怖くない!……一人じゃない! みんなと一緒に戦う……!)


 ナナシの胸の奥にも熱が宿った。


(……やはり、感覚はあるが視認はできないか。開始の合図と同時に動きながら、二の牙の存在証明を掴むしかない……)


 彼はさらにハンドサインを送る。


(“三分後、試練が来る。だが恐れるな。俺たちは《無銘の牙》だ”)


 三人は同時に頷き、瞳を鋭く光らせた。

 その様は、もう若き挑戦者ではない。

 狩る者として牙を研ぎ、戦場に立つ者の顔だった。





*******




 結界の外、集落の人々は固唾を呑んで見つめ続けていた。

 この遊戯が単なる見世物ではないことを、誰もが知っている。

 これは生き残りをかけた試練であり、“牙”を持つ資格を示すための儀式。


 希望と恐怖が渦巻き、歓声にも似たざわめきが夜気を揺らした。


 赤黒い月がより強く輝きを増す。

 霧はさらに濃さを増し、空間の輪郭が溶け落ちていく。


 ――時間は残酷なまでに、刻一刻と過ぎていく。


 三分。

 その間に二の牙の影の揺らぎを見つけ出すことができるのか。


 そして三分を過ぎれば――ヴァルグと影狼の狩りが始まる。


 会場全体に走る緊張は、もはや呼吸すら許さぬほどだった。


(――狩りが始まる)




――続く――



ここまでお読みいただきありがとうございます!


さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!


次話の投稿は、明日夕方17時10分の予定です!('ω')ノ


引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』

略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/

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