第46話 「《影葬の追跡》──試練の幕開け」
お疲れ様です!
「影葬の追跡」いよいよ始まります!
彼らがどこまで「一の牙」&「二の牙」に己の牙を突き立てることができるのか!!!
こうご期待ください!!!
また、頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
結界の内部――。
そこに広がっていたのは、広場と呼ぶにはあまりに味気ない空間だった。
石畳は乾ききった骨のように白くひび割れ、わずかな風さえ吹かぬ。空気は停滞し、まるで時間が閉ざされたかのような閉塞感が漂う。草木も、生命の色も存在しない。そこにあるのは、ひたすらな虚無。
外から見守る村人たちは、張りつめた空気を肌に感じ取り、声を失っていた。まばらな吐息すら重く、誰もが喉を鳴らすのをためらう。
その異様な舞台の中央で、ナナシは瞳を細める。沈黙を切り裂くように呟いた。
「……こんな殺風景な場所でやるのか?」
その声が空気に溶けた瞬間、深い低音の笑いが広場を揺るがす。
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一の牙――ヴァルグ・ゼオグレイン。
鎧を思わせる鋼の顎をわずかに歪め、牙を覗かせて嗤った。その笑みは獲物を見つけた捕食者のもの。音は胸骨に響き、鼓膜ではなく魂を震わせるようだった。
「まさか! せっかくの“遊戯”だぞ? こんな無味乾燥な石畳の上で済ませるはずがあるまい。……会場は――これから用意する!」
その声は抑えられた低音でありながら、広場全体を圧迫するほどの威圧を孕んでいた。まるで頭上から巨大な岩盤が降りてくるかのような重圧。
ヴァルグはゆるやかに天へ片腕を掲げる。指先から滴り落ちるのは墨のように濁った光。空間そのものを侵食する闇が、掌から奔流のごとく注ぎ込まれていく。
彼の口から、朗々たる言霊が紡がれる。
「――我が名は【牙】、秩序を裂き、混沌を刻む刃なり。
虚空よ、呼吸を止めよ。大地よ、鎖を断て。
今ここに、血戦の檻を降ろせ。
《影葬の追跡》――開帳せよ!」
その瞬間、世界が呻き声を上げた。
足下の石畳がビリビリと震え、蜘蛛の巣のような亀裂が一斉に走る。隙間から噴き出すのは、黒曜の光柱。地響きが内臓を揺さぶり、耳の奥に残響が刺さる。
やがて空気が重油のように粘りつき、皮膚に貼りついて呼吸を阻害する。四方から吹き込む風は冷え切っており、頬にあたるたび氷の刃で斬られるようだった。
そして――。
頭上の空が「パキンッ」と乾いた音を立て、目に見えるほどの亀裂を走らせる。蒼穹は砕け散り、粉々に割れ落ちる。代わりに現れたのは、血のように赤黒く濁った夜空。そこに浮かぶ月は異様に大きく、歪んだ笑みを刻むかのような形をしていた。
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プルリは本能的に小さな身体を縮め、透明な体表を震わせる。
「……すごい……これ、空間そのものが……壊れて……作り変わってる……!」
ルルカは尾をゆるやかに揺らしつつも、冷静な声音を崩さない。
「想定の範囲内……強者は、これを当然のように行う」
ミミの長い耳は細かく震え、振動の周波数を正確に測定していた。
「……ナナシ、来る……! 結界が組み替わっていく……!」
ナナシは短く腕を振り、落ち着けと仲間へ合図する。
(恐れるな。これは舞台装置だ。俺たちは観客ではない、演者だ)
その瞬間、ミミの耳先から火花が散る。微かな電流が仲間たちを繋ぎ、細い糸のような感覚が意識に触れる。
(……思考を共有するよ!秘術「電気回廊パス」!。声にせずとも、互いの意志を伝えられる。敵に悟られずに動けるよ!)
プルリは心の中で歓声を上げた。
(さすがだね……ミミ!これなら、一緒に隠れても、動きを合わせられる……!)
ルルカも冷静に返す。
(合理的。戦場での反応速度が格段に上がる。的確!)
ナナシは微笑み、心で告げる。
(よし、これで奴らに一泡吹かせてやろう)
その時、異空間全体に濃霧のような声が広がる。
「なんだ?何か良い悪だくみでも思いついたか??ククク……面白い。私を“見つけられる”と言うのか? フハハハ!笑止ッ!!!」
姿は見えない。だがその声は四方から同時に降り注ぎ、背後にも耳元にも囁きかけてくる。まるで影そのものが意志を持ち、語り掛けてくるかのようだった。
挑発を受け、ナナシは口の端を吊り上げる。
「気をつけろよ……俺らを舐めてると、痛い目を見るからな...。」
三人の仲間もまた瞳を細め、昂揚に息を震わせる。胸に広がるのは恐怖ではない。燃え立つような熱。
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大地の震えは最高潮へと達し、石畳は完全に崩れ去った。
深い亀裂から噴き上がった光柱が交差し、四方を黒き檻のように閉ざす。地面はうねり、隆起し、断崖や岩山を築き上げていく。
鋭い岩壁が迷路のように立ちはだかり、その影が絡み合って複雑な迷宮を形作る。霧は粘性を帯び、生き物のようにまとわりついて視界を奪っていく。
ナナシたちが息を呑む中、空には赤黒い月がゆらめき、夜空全体を血に染める。
「……これが、“遊戯”の会場……!」
プルリの声は震えていたが、その奥には昂ぶる熱が隠しきれなかった。
ヴァルグは満足げに腕を組み、鼻を鳴らす。
「ふむ……悪くない。これなら“追跡”にふさわしい舞台だ。
さあ――ここからは、お前たちが牙を証明する番だ」
その奥から、二の牙の笑声が再びこだまする。
「影に紛れた私を……果たして捕らえられるかな?」
結界は完成した。
迷宮のように入り組んだ岩壁と霧。そこに張り巡らされた影が、新たな戦場のすべてを覆っていた。
ナナシは仲間たちへ再びハンドサインを送り、心の中で告げる。
(恐れるな。これは舞台。俺たちが示すのは“成長”した己の“牙”だ)
三人は深く頷き、それぞれの武器を固く握り締める。
こうして――《影葬の追跡》は、真の幕開けを迎えた。
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
次話の投稿は、明日夕方17時10分の予定です!('ω')ノ
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/