第45話 「影葬の追跡(シャドウ・レクイエム)会場への道行き」
お疲れ様です!
さあ、今回から「影葬の追跡」の本番開始となります!
彼らがどこまで「一の牙」&「二の牙」に己の牙を突き立てることができるのか!!!
こうご期待ください!!!
また、頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
石畳の朝道は、いつもなら朝露に濡れて静けさを帯びている。
だが、その日の空気は違っていた。
村全体が――張り詰めた弦のように震えていた。
ナナシと三姉妹が宿の扉を開け、通りに足を踏み出すと同時に、その異様な空気が四人の全身を包み込んだ。
普段の朝なら、農夫が鍬を担ぎ、子どもたちが笑いながら走り回り、井戸端では婦人たちが世間話をしている。
だが今日、村人たちは立ち止まっていた。
鍬を肩にかけたまま、井戸の桶を下ろしたまま。
彼らの視線は、一様にナナシたちへと注がれていた。
声は小さい。だが、囁きは確かに響いている。
「……あの四人が」
「本当に……挑むのか」
「勝てるわけがない。けれど……」
「いや、ひょっとしたら……」
希望と絶望。
期待と恐怖。
相反する想いが渦を巻き、空気そのものがざわめいているようだった。
*******
最初に違和感を覚えたのは、ミミだった。
立ち並ぶ村人たちの声が、耳に刺さるように飛び込んでくる。
単なる囁きではなく、その奥にある「心の揺れ」までもが、鮮明に感じ取れるのだ。
(……怖い。でも信じたい。――そんな気持ちが、全部聞こえる)
ミミは思わず耳を伏せ、尻尾をぎゅっとまとめた。
これまでただの雑音だったものが、今はひどく生々しい感情として押し寄せてくる。
それは重く、苦しい。だが同時に――彼女の胸に、戦士としての実感を芽生えさせた。
一方、プルリは違う角度からその「重さ」を感じ取っていた。
村人たちの仕草。肩の震え。視線の向け方。
それらが、これから彼らがどう動くかを、先んじて伝えてくるように思えた。
(……あのおばさん、声をかけてくれる。あの子は、すぐに泣き出す。……どうしてわかるんだろう?)
胸の奥がざわついた。
けれどそのざわめきは、不安だけでなく、新しい力を手にした喜びも含んでいた。
ルルカはさらに冷静だった。
爬虫類の瞳で群衆を見据え、一つ一つの動きを追い、心で整理する。
歩幅、視線、腕の振り――。
それらすべてが「未来の動き」へと繋がっていく。
(これが……読めるってこと。戦場で剣を振るう前に、敵の呼吸を感じ取れるのと同じ感覚……。村人の怯えや希望ですら、私にも見える)
彼女は口を結び、決意を胸に固めた。
*******
三人の様子に気づいたナナシは、足を止めることなく口を開いた。
「……気づいたな」
三人が揃って振り向く。
ナナシの口元には、ごく僅かな笑みが浮かんでいた。
「これが“成長”だ。一昨日までなら、ただの視線にすぎなかったはずだ。それを“重さ”として感じ取れる。お前らの牙が研ぎ澄まされた証拠だ」
その言葉に、プルリは小さく息をのむ。
ミミの耳がわずかに震え、ルルカの瞳は静かに輝きを増した。
「怖がるな。それは力だ。影を読む力。命を奪う牙を持つ相手に、唯一抗える感覚だ。……誇れ!」
ナナシの声は低く、だが確かな熱を宿していた。
三人の胸に、誇りがじわりと広がる。
道の両側に集まった村人たちは、黙って彼らを見送る。
誰も大声を出さない。
それは応援の声を飲み込むことでしか、この緊張に耐えられないからだった。
だが――小さな声は、確かに届いていた。
「どうか……生きて」
「お前たちに未来を託す」
「牙を……あの牙を折ってくれ」
三人の耳に、その一言一言が鋭く響く。
プルリは唇を噛み、ミミは胸に手を当て、ルルカは無言で視線を前へ向ける。
そして彼女たちは理解した。
自分たちの戦いは、自分たちのためだけではない。
この村人たち――彼らの祈りを背負って進む戦いなのだ、と。
会場への道
石畳は会場へと続いている。
まだ遠いが、ざわめきと重苦しい気配がすでにそこから漂ってくる。
「……大丈夫。私たち、やれる!」
プルリが震える声で、だがはっきりと言葉を口にした。
「うん。絶対勝って……帰ってくる!」
ミミは尻尾をきゅっと握り、涙を堪えながらも笑顔を作った。
「油断はしない。だけど……もう、恐れるだけの私じゃない!」
ルルカは真っ直ぐに前を見据えた。
ナナシはそんな三人の背を見て、深く息を吐いた。
(そうだ……それでいい。勝てるかどうかじゃない。俺たちの“牙”がどれほど研がれたかを示す、それだけだ)
その思いを胸に、四人は一歩、また一歩と進んでいく。
村人たちの祈りを背に――。
そして、「影葬の追跡」の舞台へと。
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
次話の投稿は、明日夕方17時10分の予定です!('ω')ノ
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/