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『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』  作者: 焼豚の神!
第2章:『雷牙の狩場 ―覇雷獅王との邂逅―』
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第38話「集落の朝と新たな感覚」

お疲れ様です!


今回から最終調整日の《無銘の牙》の鍛錬回のお話に入ります!

「影葬の追跡シャドウ・レクイエム」の本番前の最終調整回を是非お楽しみください!


頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪


最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――


牙の刻が、これからも続いていきます!


宿の扉を押し開けると、朝の光が一斉に彼らを包み込んだ。

 冷たい夜気はすでに薄れ、街路には商人たちが準備を始める気配が漂い始めている。


 ナナシは刀を腰に差し直し、軽く肩を回した。

「行くぞ。今日は集落に足を運ぶ」


 その言葉に、ミミ、プルリ、ルルカの三人は顔を見合わせた。

 緊張と期待が入り混じった表情。昨日の訓練の疲労もまだ体に残っているが、それ以上に「今日が最終調整日」という意識が三人を前へと押し出していた。


「よーし! 今日こそバッチリ動けるようにするんだから!」ミミが元気よく尻尾を振る。

「ぼ、ぼくも……。がんばる……!」プルリは少し震えながらも、足取りを合わせた。

「……無駄な一歩は踏まない。それだけ心がける」ルルカの声は落ち着いていたが、瞳の奥は熱を帯びていた。


 四人は石畳を進み、街の外れに広がる小さな集落へと向かう。







■ 集落の朝


 集落に入ると、そこには素朴な生活の営みがあった。

 井戸端で水を汲む女たち、畑に鍬を入れる老人、走り回る子供たち。

 どれも昨日までに何度も見た光景だ。


 しかし――この日、三人の目に映る景色は、いつもと少し違っていた。


「……あれ?」ミミが耳を動かしながら小さく声を漏らす。

「どうした?」ナナシが振り返る。


「なんか……あの人、次に何するか分かっちゃった気がする」

 ミミの視線の先では、男が木箱を肩に担いでいた。

 その姿を見た瞬間、ミミは直感的に「彼がすぐ横の店先に向かう」ことを予感していた。


 果たして男は、まさにその通りの行動をとった。木箱を軽々と店先に下ろし、店主と短く言葉を交わす。


「す、すごい……! 本当に当たった……」

 ミミは目を見開き、尻尾をぴんと立てた。





 続いて、プルリが小さく声を上げた。

「……あれ。あの子……転ぶ」


 広場を駆け回っていた子供がいた。元気いっぱいに走っていたが、プルリにはその足運びの微妙な乱れが見えてしまった。

 直後、子供は石につまずき、前のめりに倒れそうになる。


 プルリは思わず(スライムボディー)を伸ばした。

 とろりとした身体が素早く伸び、子供の腕をそっと支える。


「わっ!? ありがとー!」

 子供は驚きと喜びを混ぜた声で笑い、再び駆け出していった。


 プルリはその場に立ち尽くし、自分の両手を見つめる。

「……なんで分かったんだろう。あの子が、転ぶって……」

 小さな声は震えていた。






 さらにルルカも、ふと足を止める。

「……あの商人、値を下げる」


 彼女の視線の先では、農夫と商人が取引をしていた。

 商人は強気に値を吹っ掛けていたが、その指先が無意識に揺れていることをルルカは捉えていた。

 その仕草を見た瞬間、彼女は「値を下げざるを得なくなる」ことを直感する。


 やがて商人は声を落とし、渋々値段を引き下げた。農夫は満足げにうなずき、握手が交わされる。


 ルルカは小さく眉を寄せた。

「……今までなら見過ごしていた。けれど、分かってしまった。――なんだ、これは」







■三人の戸惑い


 三人は互いに顔を見合わせた。

 偶然ではない。短い時間の中で、彼女たちは次々に人々の動きを「先読み」していたのだ。


「なんか……すごいことになってる……」ミミは耳をぱたぱた揺らしながら呟く。

「ぼく、こわい……。でも、なんか分かっちゃうんだ……」プルリの声はか細い。

「……これは直感じゃない。昨日までの訓練で……体が勝手に読んでいる」ルルカは冷静に言うが、その表情には困惑が浮かんでいた。


 三人の視線が一斉にナナシへと注がれる。

 ナナシはしばし沈黙した後、口を開いた。




「――それでいい」


 三人は目を瞬かせた。


「お前らが今感じているのは、成長の証だ。訓練の中で磨いた“牙”が、少しずつ鋭さを増している」


 ナナシは視線を集落全体へと向けながら続ける。

「人の仕草、呼吸、足取り……ほんの僅かな違和感を拾い、先を読む。それは戦場で命を分ける技術だ。今まで気づけなかったものを察知できるようになったのなら、それは確かにお前たちの力が伸びている証拠だ」


 その声は静かだが、確かな熱を帯びていた。


「――お前たちの牙は、確実に磨かれている。恐れるな。その力を、自分のものにしろ」




 ミミはぱあっと表情を輝かせ、尻尾をばたばたと振った。

「やった! ナナシに褒められた! わたし、ほんとに強くなれてるんだ!」


 プルリは胸に手を当て、安堵の笑みを浮かべた。

「ぼくも……役に立てるんだね。ちょっとだけでも……!」


 ルルカは静かに息をつき、剣の柄に手をかけた。

「……なら、この感覚を信じる。明日、きっと役立ててみせる」


 三人の瞳には、これまでにない光が宿っていた。

 恐怖だけに支配されていた顔ではない。

 ――新たな自信を得た戦士の顔だった。






■ナナシの内心


 ナナシは三人の反応を見て、胸中で小さく頷いた。

(……これなら、まだ望みはある。だが――)


 彼は心の奥で、二の牙のあの不可解な存在感を思い出す。

 目にしているのに全貌が掴めない、底知れぬ怪異。

 あれに勝つには、まだ足りない。


 だが、それでも。

 仲間たちが確実に“牙”を研ぎ澄ませている事実は、揺るぎない。


(――磨け。恐れずに、さらに磨け。お前たちが俺と肩を並べられるその瞬間まで)




 集落の人々のざわめきの中を、四人は再び歩き出した。

 昨日までと同じ光景に見えて、今日のそれは全く違う意味を帯びていた。

 仲間たちは自分たちの変化に戸惑いながらも、それを確かに“力”として受け止め始めていた。


 そして――明日。

 一の牙、二の牙と相まみえるその時、今日のこの感覚がどれほどの意味を持つのかを知ることになる。




――続く――



ここまでお読みいただきありがとうございます!


さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!


次話の投稿は、明日夕方17時10分の予定です!('ω')ノ


引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』

略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/

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