第36話「影を追う者たち ― 訓練と修正の果てに」
お疲れ様です!
今回から、また《無銘の牙》の鍛錬回です!
頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
朝から続いた特訓は、昼を回ってもなお終わる気配を見せなかった。
クランハウスの中庭。
陽射しは強く、地面には三人の足跡と剣の軌跡が無数に刻まれている。
ナナシは木陰に立ち、腕を組んで仲間たちを見渡していた。
「――もう一度だ。気配を探せ。視覚だけに頼るな」
ルルカは剣を握り直し、呼吸を整える。
ミミは耳をぴんと立て、尻尾を揺らしながらきょろきょろと視線を走らせる。
プルリは小さな身体で全身の神経を研ぎ澄まそうとしていた。
ナナシは一歩踏み出すと、すぐに影へと溶け込む。
風の流れに身を任せ、物音を最小限に抑える。
彼が立っていた場所には、ほんのわずかに空気の動きが残るのみ――。
「っ……!」
ルルカの眉間に汗が浮かぶ。目を凝らし、視線を巡らせるが、影はすぐに揺らぎ、確信には至らない。
「左! 左に行った!」
ミミが叫び、すぐに駆け出す。だが、そこにはもうナナシの姿はない。
「うそっ!? たしかにいたのに……!」
プルリは両手を胸の前に構え、必死に気配を追うが、すぐに頭を抱えてしまった。
「消えた……どこ……? 全然分からないよ……」
――その瞬間。
「後ろだ」
声と同時に、ナナシの手刀がミミの首筋すれすれに止まった。
「っ……!」
ミミは尻尾を逆立て、地面に両手を突く。
ルルカは咄嗟に振り返ったが、剣は虚空を切り裂くだけだった。
プルリは目を潤ませ、悔しそうに唇を噛む。
「また……ダメだった……」
■ ミーティング① ― 失敗の分析
ナナシはすぐには責めず、仲間たちを集めた。
中庭の端、ベンチに腰掛け、三人を正面に座らせる。
「今のは、気配を探す前に“慌てて動いた”のが原因だ」
ナナシの声は低く、しかし穏やかだった。
ミミは肩を落とす。
「だって……見えた気がしたんだもん……」
「“気がした”で動くのは悪くない。だが、そのまま突っ込めば餌食になる。見えたと思ったら、まず呼吸を合わせろ。確信に変わる瞬間を待つんだ」
ルルカが頷く。
「……確かに、わたしも焦っていた。剣を振る前に一呼吸置けば、違ったかもしれない」
プルリはおずおずと手を挙げる。
「ぼく、気配を探そうとしたけど……何も掴めなかった。耳も目も、ぜんぜん役に立たなくて……」
ナナシはその言葉に小さく笑った。
「気にするな。お前の感覚は、磨けば必ず武器になる。小さい体で周囲の変化に敏感なんだ、誰よりも早く“違和感”を覚えるはずだ。今はまだ、経験が足りないだけだ」
プルリの瞳に少し光が戻る。
「……本当?」
「ああ。だから、次は“違和感”を感じたらすぐ言え。方向が合っていなくてもいい。情報を出すのが、お前の役割だ」
「……うん!」
■ 再挑戦① ― 情報共有の訓練
訓練は再び始まった。
ナナシは再び影へと溶け、三人は周囲を警戒する。
「今、右……かも!」
プルリが叫ぶ。
「了解!」ミミが駆ける。
「まだ早い!」ルルカが制止しようとした瞬間――
「――悪くない」
ナナシの声が三人の間から響いた。
姿を現した彼は、わずかに口角を上げている。
「今のは外れたが、プルリの“違和感”は正しかった。お前が声を出したことで、ミミも動けたし、ルルカも抑えられた。三人で役割を回した。それでいい」
三人の表情が変わる。
少しずつだが、掴めてきている――その実感が芽生え始めていた。
■ ミーティング② ― 呼吸の重要性
昼下がり、汗で衣服を濡らした三人は、再びベンチに腰掛けた。
ナナシは水筒を回しながら、言葉を続ける。
「呼吸を合わせろ。三人が別々のリズムで動けば、奴に隙を突かれる。……いいか、吸う、吐く、そのリズムを揃えるんだ」
ルルカが真剣に頷く。
「剣術も、呼吸で力を引き出す……。三人で呼吸を揃えれば、動きも重なるはず」
ミミは尻尾を振りながら、隣のプルリを見て笑う。
「じゃあ、わたしたち息を合わせてみよっか! 吸って――吐いて!」
ぷるぷる震えながら、プルリも真似をする。
「すー……はぁー……!」
ナナシはそれを見て小さく頷いた。
「その調子だ。……次は呼吸を合図にして動け。声を出さずとも、意識が揃えば動きが変わる」
■ 再挑戦② ― 小さな進歩
再び影へと潜むナナシ。
彼らの周囲を風が流れる。
ミミの耳がぴくりと動く。
ルルカが呼吸を整える。
プルリが小さな声で呟いた。
「……こっち」
三人の視線が同時に走る。
次の瞬間――ナナシが影から抜け出した場所は、彼らの視線とほぼ重なっていた。
ミミの叫びと同時にルルカが踏み込み、プルリが横へ回る。
ナナシは軽く受け流して影へ消えたが、その目は笑っていた。
「いい……今のは、確かに“掴んでいた”」
三人の胸に、確かな達成感が広がる。
まだ未完成、まだ遠い。
だが、確かに歩みは前へ進んでいる。
訓練を終えた後、夕餉の席で。
三人は箸を進めながら、今日の成果を振り返った。
「呼吸を合わせるの、意外と楽しかった!」ミミ。
「……少しずつでも、見えてきた気がする」ルルカ。
「ぼく……役に立てたのかな?」プルリ。
ナナシは静かに飯を噛みしめ、短く言った。
「役立った。今日一日で確実に進歩した。……二の牙に勝つための“糸口”は、もう掴んでいる」
三人は目を見合わせ、ゆっくりと笑みを交わした。
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
次話の投稿は、明日夕方17時10分の予定です!('ω')ノ
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/