第33話「地下空間の邂逅 ― 二の牙とその残響」
お疲れさまです!
今回は、《二の牙》の回です!
頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
※冒頭のお話は前回のエピソードの最後の文章を模写しています。先に進みたい方は、スクロールして飛ばして頂いて全然大丈夫です!('ω')ノ
****************
地下の回廊は、ひたすらに冷たかった。
水滴がぽたり、ぽたりと響き、石壁に反響するたびに心をざわつかせる。
ナナシたちが一歩踏み出した瞬間――炎が揺らいだ。
松明の火が風もないのに震え、その隙間に“声”が忍び込んだ。
「……そんなに怯えなくていいだろう?」
その声は低くも高くもない。
男の声のようでもあり、女の声のようでもある。
耳に届くのに、方向が分からない。
どこからともなく滲み、まるで闇そのものが語りかけてくるかのようだった。
「まだやらないさ。一の牙が言ったろう? あと二日あるんだ」
その言葉に、プルリの小さな身体がびくりと震える。
ミミは歯を食いしばり、尾を膨らませて警戒した。
ルルカは唇を結び、指先に冷たい汗を感じていた。
ナナシは一歩前に出る。
気配を探ろうとする。
……だが、そこに「居る」と分かっているのに、目に映る輪郭が形を結ばない。
黒い影が人の形を取ったかと思えば、風が集まり人影を形作ったかのようにも見える。
確かに目で捉えているのに、頭がその全体像を理解できない。
その異様さに、誰も言葉を発せなかった。
影の存在は、沈黙を楽しむように間を取り、笑った気配を漂わせる。
「ふふ……楽しみを奪ったら、面白くないだろう。今日は――たまたまだ」
その声は軽く、冗談めいていた。
だが、底には一切の温度がなかった。
人の情を拒絶する“無機質な虚無”だけが響いていた。
次の瞬間、影は霧のように崩れ、跡形もなく掻き消えた。
■一の牙の声 ― 雷の煽り
静寂を破ったのは、重々しい轟音だった。
雷が遠くで鳴るような響きが、石壁を震わせる。
「……ほう、珍しいな」
白雷の大銀狼が現れ、巨大な狼が地下を圧する。
《一の牙》――ヴァルグ・ゼオグレイン。
その金色の眼光が、影の消えた闇を愉快そうに射抜いていた。
「いつも興味なさそうにしているお前が、自ら出向くとはどういう了見だ?
興味でも出たのか? んん〜?」
挑発的な声に、空気がざわめいた。
ほんのわずかに、残り香のような気配が影から返る。
「……お前に言われる筋合いはないさ」
「筋合い? くく、まぁいい。だがどうした?
いつもの冷めたお前なら、こんな小僧どもを覗く真似はしないはずだが」
「ただ……ほんの少し、見てみたくなっただけだ」
ヴァルグは口の端を吊り上げた。
「見てみたくなった? ふん、らしくもない。
さては――怯えたか? それとも……惹かれたか?」
挑発する狼に、影の牙はしばし沈黙し、淡々と答えた。
「怯え? 違う。惹かれた? それも違う。
……ただ、“この影を斬れるかもしれない”と思ったのさ」
■二の牙の内心 ― 揺らぐ影
姿を消したその奥で、《二の牙》は独りごちていた。
(……彼らは未熟だ。脆い。
だが……一瞬、確かに私を“見る”視線があった)
誰も触れられない。誰も気づかない。
存在を掴ませぬことは、呼吸と同じ――自分の宿命。
だからこそ、誰かに“見られる”などあり得ないことだった。
(ナナシ……あの人間、いや半獣人なのかあ奴は。フム...。。。。あの瞳、ほんの刹那だけ、私を捕らえたな。――それが、どうしようもなく胸をざわつかせる)
心臓が軋む。
それは恐怖ではない。
だが、欲望とも違う。
理解できない熱が、胸の奥に灯っていた。
(くだらない……私は試練。牙そのもの。
彼らが強くなるために立ちはだかる“影”でしかない。
だが――もしも、もしも……)
その思考は、口にすることさえ憚られた。
だが二の牙は、確かに感じていた。
孤独に沈む己の奥底に、
初めて“期待”のようなものが芽生えていることを。
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
また次の投稿は、明日朝6時30分の予定です!('ω')ノ
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/