第32話「影の牙 ― 二の声」
おはようございます!
今回は、《二の牙》の回です!
頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
刃を構えたまま、ナナシは呼吸を整えていた。
暗がりの奥から現れたその影は、形を保っているようでいて、輪郭が波打ち、掴みどころがない。
ただ瞳だけが光り、こちらをまっすぐ射抜いている。
――その瞬間、声が響いた。
低くも高くも聞こえる、不思議な声色。男のようでもあり、女のようでもある。
「そんなに怯えなくていいだろう?」
声は、耳ではなく頭の奥に直接響いたように錯覚させる。
ミミの耳がぴくりと震え、ルルカは肩をすくめる。プルリの微笑みもわずかに引きつった。
■ 会話の始まり
影は続ける。
「それに、まだやらないさ」
その口元は笑っているようにも見えたが、次の瞬間には消え、ただ闇に溶けていた。
「一の牙が言ったろう? あと二日あるんだ。
その間に楽しみを奪ったら――面白くないだろう?」
囁くようでいて、雷鳴のように重い響き。
ナナシは眉をひそめ、刀を僅かに下げることなく影を睨み続けた。
「……貴様が“二の牙”か」
影の輪郭が一度だけ揺らぎ、形を変えた。
背の高い男のようにも、しなやかな女のようにも見える。
「名前なんてどうでもいい。ただ、牙は牙。そうだろう?
お前たちが来ると聞いたから……顔を見に来ただけさ」
■ 摩訶不思議な存在
ミミが息を呑んだ。
「……見えてるのに、全然分かんない……! 匂いも……混ざって消えてる……!」
ルルカも顔を強張らせた。
「確かに……視線は合ってるのに……どこを見れば“本体”なのか……掴めない」
プルリは無邪気な笑顔を崩し、珍しく真剣な声を漏らした。
「……まるで夢みたいだね。起きているのに、形が揺れている」
ナナシの胸にも戦慄が走っていた。
(……目で見ている。気配もある。なのに、切っ先を向けても――当たる確信が持てない……!)
彼は己の直感に逆らわず、刀を握り直す。
■ 刹那の余韻
影はおどけるように肩を揺らし、再び声を響かせた。
「今日はたまたまだ。……そうだな、偶然、顔を合わせただけ」
その声色は穏やかでさえあったが、不気味な冷気が同時に空間を満たす。
「次はどうなるか分からない……。せいぜい、牙を研いでおくことだな」
そう言い残し、影はふっと消えた。
輪郭が煙のように崩れ、ただ空気に溶けていく。
沈黙が広がった。
ミミは尻尾を逆立てたまま硬直し、ルルカは拳を握りしめる。プルリはゆっくり息を吐き出し、胸を押さえた。
ナナシだけが刀を下ろさず、消えた闇の奥を睨んでいた。
(……あれが“二の牙”か。確かに、一の牙とは違う……“形のない恐怖”そのものだ)
彼は刀を鞘に納めると、仲間たちを見渡した。
「……今日は引く。だが、二日後。いや、正確にはあと一日か。そのとき奴らと必ず、牙を交えることになる」
誰も反論はしなかった。
ただ胸の奥に、冷たい影の余韻を残したまま――四人は静かにその場を後にした。
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
また2回目の投稿は、夕方17時10分の予定です!('ω')ノ
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/