第30話「二日目の街 ― それぞれの足跡」
お疲れ様です!
今回は、《二の牙》の対策回です!
頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
朝の鐘が鳴り響くと同時に、石畳の通りが一気に色を取り戻した。
露店の軒先に吊るされた果物や布地、香辛料の匂いが風に混ざり、人々の掛け声が連なる。
ミミは耳をぴんと立て、尻尾を振りながらその喧騒に飛び込んだ。
「お魚屋さん! あ、パンの匂い! あっちはお肉!」
彼女の動きは猫そのもの。興味の赴くままに駆け回り、露店の品を覗き込んでいく。
しかし彼女の目的は食材ではない。
「昨日、街で騒ぎがあったって聞いたんだけど……」
耳をそばだて、通りの噂話を拾い集めるのが役目だった。
老婆が「夜の鐘のあとに、不審な影を見た」と話している。
商人が「倉庫から少しずつ物資が消えている」とぼやいている。
若者たちが「裏路地で武装した連中を見た」と囁いている。
それぞれは断片的で信ぴょう性に乏しい。だがミミは感覚で「危ない匂い」を嗅ぎ分けることができた。
(……やっぱり、裏の動きがあるんだ。ナナシが言ってた“牙を隠す影”って、きっとここにも潜んでる)
足を止め、彼女は露店の端で耳をそばだて続ける。
群衆のざわめきの中から、次の手がかりを探して――。
■文献調査 ― プルリの静かな時間
一方、街の中央にある古びた文庫。
厚い扉を押し開け、ひんやりとした空気に包まれながらプルリは中へ入った。
高い本棚が整然と並び、窓から差す光が埃をきらめかせる。
「ぷる……」
声を潜め、プルリは自分の体を椅子に沈めた。柔らかい身体はじわりと広がり、本と机に馴染む。
彼女の目的は古い記録の中から、街に潜む「異変」の兆候を探すこと。
積み重ねられた日誌をめくると、数年前から倉庫荒らしや失踪事件がぽつりぽつりと記されている。
「……ふむ。最近だけじゃなくて、もっと前から“何か”はあったみたい」
さらに古文書を読み進めると、ある言葉が繰り返し登場する。
――「牙持つもの」
それは盗賊か、獣か、あるいは人の暗喩か。記録は曖昧で、真相をつかませない。
プルリはページに指を滑らせながら、ぽつりと呟いた。
「ナナシが言ってた“牙”……偶然じゃないかも」
頭の中で点と点が結ばれ始める。だがまだ線にはならない。
「もっと調べなきゃ……」
彼女はさらに深い棚へと進み、埃まみれの記録を抱えて席に戻った。
■ ギルドでの情報収集 ― ナナシの歩
重厚な扉を押し開くと、冒険者ギルドの喧騒が広がった。
酒場を兼ねた大広間には朝から武装した者たちが集い、情報と依頼が飛び交っている。
ナナシは人々のざわめきに惑わされることなく、静かにカウンターへ歩み寄った。
「街で最近起きていることを知りたい」
受付嬢の目を真っ直ぐに見据え、低い声で告げる。
彼の名はすでに知られていた。剣の冴えを目の当たりにした者もいる。だからこそ、受付嬢は一瞬ためらったが、やがて小声で答えた。
「……裏路地で、武装集団が暗躍しているという噂があります。ただ……誰も正体を見たことがない。足跡も消えてしまう」
さらに別の冒険者が口を挟む。
「俺の仲間も、夜に影を追ったが……気づけば後ろを取られていた。あれはただの盗賊じゃねえ」
ナナシは眉をひそめる。
(やはり、“気配を断つ者”が潜んでいる……)
情報を聞き出すだけでなく、ギルドの掲示板にも目を向ける。そこには失踪や物資盗難の依頼が並んでいた。その中に一枚だけ、違和感を放つ依頼があった。
――「市場地下に潜む影を調査してほしい」
ナナシはその紙を手に取り、静かに息を吐いた。
(……地下、か。昨日ルルカが予想した通りだな)
■教会 ― ルルカの探求
白い尖塔の教会は、朝日を浴びて神々しく輝いていた。
ルルカは扉を押し開け、祈りの声に包まれた空間へ足を踏み入れる。
修道女が優しく迎えるが、彼女はすぐに核心を突いた。
「この街で最近、不審なことはありませんか」
修道女は困ったように微笑む。
「人々は恐れています。夜になると、街角で影を見たと……。ですが、私たちの祈りでは追い払えない」
さらに奥へ進むと、古びた石碑があった。
そこには「影に牙あり、影に呑まれし者は戻らず」と刻まれていた。
ルルカは目を細め、静かに指先で石碑をなぞる。
(影の牙……。まるで、ナナシの言葉をそのまま刻んだようだ)
記録と伝承が重なり合い、何かが浮かび上がりつつあった。
■ 夕暮れの再会
日が傾き始めた頃、四人は宿に戻った。
それぞれが掴んだ手がかりを持ち寄り、卓を囲む。
ミミは市場の噂を並べ立て、プルリは古文書の記録を広げる。
ルルカは教会での伝承を語り、ナナシはギルドの依頼を卓上に置いた。
四つの情報は不思議なほどに重なっていた。
「影」「牙」「地下」「足跡を消す者」――
静まり返る室内で、ナナシは仲間を見渡す。
「……次の狩場は決まったな。地下だ」
三人は息を呑み、やがて頷いた。
橙色の光が窓から差し込み、四人の影を長く伸ばす。
それはまるで、これから潜む“影の牙”に挑む覚悟を刻むようだった。
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/