第28話「夜明けの街 ― 牙を研ぐ始まり」
お疲れ様です!
今回、朝ルーティーンのナナシ回です!
頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
まだ陽が昇り切る前の街は、深い眠りの残滓に包まれていた。
昨夜までの喧騒はすでに影を潜め、空気そのものが凍りついたかのように静まり返っている。
石畳の道は露を宿し、黒ずんだ石の一つひとつが淡く光を反射する。街灯は役目を終えたかのように、その灯芯から最後の炎を揺らし、やがて消える。と同時に、白い靄がゆっくりと広がり始めた。まるで世界そのものが眠りから覚めようとしているようだった。
宿の窓はまだ冷たい。曇りガラスに薄い息を吹きかければ、霜のように曇りが広がるだろう。外の冷気は隙間から流れ込み、夜の余韻を漂わせていた。
■ナナシの目覚め
その部屋の中で、最初に目を開いたのはナナシだった。
瞼を上げた瞬間、彼の眼差しには眠気という言葉は存在しない。ただ深い静謐の中で、一瞬にして研ぎ澄まされた意識が宿る。
彼はゆっくりと体を起こす。長い布団の擦れる音さえ、まるで剣が鞘から抜かれるかのように鋭く響いた。
昨夜は仲間たちと食事を取り、笑い合い、軽く冗談を交わした。その余韻はまだ心に温もりとして残っている。だが――ナナシにとって、夜の温もりはすでに過去のものだった。
彼の胸にあるのはただ一つ。今日もまた、牙を研ぐという事実だ。
目を細めながら窓の外を見やる。夜明け前の空はまだ青黒く、遠くの空が薄紅に染まる兆しを見せている。
静かな街並みを包む空気を吸い込み、ナナシは心の奥で呟いた。
(……今日も、牙を研ぐ一日を始めるか)
■仲間たちの寝姿
ナナシは立ち上がり、仲間たちを振り返った。
部屋のあちこちに布団やベッドが並んでおり、それぞれが寝息を立てている。
まず目に映ったのは、ミミだった。
彼女は寝相がとにかく豪快だ。布団を蹴飛ばし、尻尾で自らをぐるりと巻き込んで丸くなっている。
猫のように器用に身体を折り畳みながらも、耳はぴくぴくと動いており、夢の中でも何かと戦っているのかもしれない。時折「んにゃ……!」と小さな声を漏らし、無意識に手を振り上げる。その姿は愛らしいと同時に、戦士の血を感じさせるものでもあった。
プルリは対照的に、全身がとろけるようにベッドの端へ広がっている。
体質ゆえに柔らかく、まるで水が容器に広がるように、ベッドの隅から隅までを占有していた。口元はゆるみ、心底幸せそうな寝顔を浮かべている。ときどき「ぷるる……」と寝言を洩らし、泡がはじけるように小さな音を立てる。その音は、夜明けの静寂の中で不思議と温かみを増していた。
ルルカは規律正しい寝姿をしていた。
布団の中にきちんと収まり、呼吸は静かで一定。まるで兵士が休息の時でさえ乱れぬ姿勢を保つかのようだ。しかしその額の端が時折ぴくりと動く。夢の中で戦っているのか、過去の記憶を追っているのか――ナナシには知る由もなかった。だが彼女の眉間に浮かぶ微かな皺は、眠りながらも戦う彼女の心を映していた。
三者三様の寝姿。
それらを見渡したナナシの心には、不思議な静けさと共に、確かな決意が芽生える。
■ナナシの決意
刀の柄に手をかけ、ナナシは腰を正した。
呼吸を整え、一度深く息を吸い込む。外気が肺を満たし、内側から身体を目覚めさせる。
彼にとって朝は特別な時間だった。
昼や夜は戦いや喧騒に巻き込まれる。しかし、夜明けの一瞬――その静寂の中でしか、自分自身を研ぎ澄ますことはできない。
(牙は一度研ぎを怠れば鈍る。戦いにおいて鈍った牙は死を招く。それは己だけではない。群れをも巻き込む)
仲間たちを見やる。
無防備に眠る彼らを守れるのは、自分の力だけだ。だからこそ、己の牙を常に磨き続ける必要がある。
ナナシは窓を開けた。冷たい風が部屋に流れ込み、カーテンをはためかせる。外の空気は透き通っており、街の匂いと大地の匂いを運んでくる。
その一瞬、彼は深く息を吸い込み、全身を満たした。
刃を研ぐように、心の奥で自らを律した。
(戦いは今日も始まっている。仲間と共に生きるために……俺は今日も牙を研ぐ)
■夜明けの鼓動
街の遠くから、かすかな音が届いてきた。
市場の準備を始める者たちの足音。パンを焼く匂い。牛車を引く音。世界はゆっくりと動き始めている。
その気配を感じ取りながら、ナナシの心は一層研ぎ澄まされていった。
眠る仲間の姿と、目覚めつつある街。
その狭間に立つ自分こそ、牙を導く存在であることを自覚する。
空の端がわずかに朱に染まり始めた。
光が街を照らし、露を輝かせる。
それは、新しい一日の始まりを告げる狼煙のようだった。
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/