第27話「牙を休める夜」
お疲れ様です!
今回、まったりリラックス回です!
頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
夕暮れの広場は、橙から藍へとゆっくり色を変えていく。
市場のざわめきも次第に落ち着き、露店の灯りがぽつりぽつりと街を照らし始める。
《無銘の牙》の四人は、訓練を終えたばかりでまだ汗が残る体を休めていた。
広場の片隅、石のベンチに腰掛け、冷たい水筒を回し飲みながら息を整える。
「……はぁー、やっぱ全力で走り回ったあとって足にくるね」
ミミが尻尾をぱたぱたと動かしながら、太腿を軽く叩いた。
その仕草を見て、プルリがにゅるんと腕を伸ばし、まるでマッサージのようにミミの脚を包む。
「マッサージするー? ぷにぷに~って」
「ひゃっ!? 冷たい! やめろってば!」
「ふふっ」
ルルカが小さく喉を鳴らして笑いを洩らす。その様子を眺めていたナナシは、肩を回しながら声をかけた。
「休憩はここまでだ。……ストレッチやるぞ」
仲間たちは思わず顔をしかめる。だがナナシの声は容赦ない。
戦いも訓練も終わった後、体を整えることまでが「鍛錬」の一部だと彼は考えていた。
「「「がう!!!」」」
プルリ、ミミ、ルルカは勢いよく返事をした。
■ 牙を休めるためのストレッチ
まずは足首を回す。次に腕と肩、そして背筋を伸ばす。
ナナシは一つひとつの動作を正確に示し、ミミやルルカが同じように真似をする。
「んぐぐ……体が固まってる気がする……」
「体幹を伸ばすといい。背骨を意識して反らせ」
「こう? う、うぅ……!」
ミミが変な声を出し、プルリがぷるぷる震えながら爆笑する。
「ミミの顔、赤い~! おもしろい!」
「笑わないでよ~! お姉は柔らかいからいいけどさ!」
「私はストレッチいらないかも。だって、全部ぷにぷに~」
「それは羨ましい限りだな」
ナナシが小さく苦笑しつつも、しっかりとルルカの姿勢を正す。
「ルルカ、尾の付け根を意識しろ。重心が傾いてる」
「……ああ。なるほど」
淡々としたルルカも、ストレッチの指導を受けると納得したように頷いた。
こうして全員が伸びを終える頃には、筋肉の張りもほどけ、心地よい疲労感が体を包んでいた。
「よし。今日はこれで鍛錬は終わりだ。次は……風呂だな」
「やったぁー!」
ミミが勢いよく尻尾を振る。その横でプルリは体をぷるんと揺らし、声を弾ませた。
「おふろ! あったかいお水! 大好き!」
■ 湯気の向こうの笑い声
宿に戻ると、大浴場にはもう人影が少なく、湯気が立ち込めていた。
木の桶に湯を汲み、体を洗い流してから、それぞれが湯船へと浸かる。
「あ゛ーー……生き返る……!」
ミミが湯に肩まで浸かり、耳を垂らして脱力する。
プルリは桶に入ってぷかぷかと浮かび、湯船の上を漂っていた。
「いいねぇ~、あったかぷにぷに~。ぼく、溶けちゃうかも」
「溶けたら困るだろ」
ナナシが笑いながら桶の縁を叩く。
一方、ルルカは黙って湯に浸かっていたが、その瞳はゆっくりと細まり、どこか安心した色を帯びていた。
湯気に包まれ、普段は無表情な彼の顔もわずかに柔らいで見える。
「……こうして温まると、戦いの時の余計な力みが消える」
「そうだな。筋肉は酷使すれば裂ける。だが、湯に浸かれば回復も早い」
「……お前、戦うために風呂入ってんのか」
ミミが呆れた声をあげるが、ナナシは真顔で答える。
「当然だ。飯と風呂と眠りは、牙を研ぐための土台だ。そこをおろそかにした者は、強者にはなれない」
その言葉は冗談めかしていなかった。
プルリもルルカも、自然とその声に耳を傾ける。
湯気の中、ナナシの瞳だけが真剣に光っていた。
■ 食卓という戦場
風呂上がりに身を清めると、四人は宿の食堂へと向かった。
木の机の上に並んだのは、香ばしい肉の煮込み、焼きたてのパン、野菜のスープ、そして香り立つ
香辛料の効いた一皿。
「わー! ごちそう!」
プルリがテーブルの上でぷるぷる震える。
ミミは目を輝かせ、フォークを握りしめていた。
ナナシは腕を組み、仲間たちを見回してから口を開いた。
「いいか。戦いは空腹ではできない。腹が減れば、動きが鈍り、判断も鈍る。牙を研ぐにはまず、腹を満たすことが必要だ」
「……つまり、たくさん食べろってこと?」
「そういうことだ」
その答えに、ミミの顔がぱっと輝く。
「じゃあ遠慮なく! いただきまーす!」
「い、いただきまーす!」
「……いただきます」
食堂に賑やかな声が響いた。
肉を頬張る音、パンをちぎる音、スープを啜る音。
それぞれが夢中で食べる姿を見て、ナナシは口元をわずかに緩めた。
「……そうだ。牙は飢えては光らない」
■ 胃袋と心を満たす夜
食事が進むにつれ、自然と笑い声が増えていった。
プルリがスープに体を突っ込もうとして叱られたり、ミミがパンを大きくかじりすぎて喉を詰まらせたり、ルルカが香辛料を入れすぎて目を細めたり――。
賑やかで、温かい。
戦場の緊張とは正反対の、安らぎに満ちたひとときだった。
ナナシはその光景を眺めながら、静かに思った。
(……牙を磨くのは戦いだけじゃない。こいつらと笑いながら飯を食う時間もまた、俺たちを強くする)
そうして夜は更けていく。
満腹と湯の温もりに包まれ、仲間たちは次第に眠気に抗えなくなっていった。
プルリがベッドでとろりと溶け、ミミが尻尾を抱いて眠り、ルルカが静かに目を閉じる。
その横でナナシは短く呟いた。
「……飯も、眠りも、牙を解く力になる」
そう言って、彼もまたまぶたを閉じた。
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/