第22話 「朝餉と方針」
お疲れ様です!
今回から鍛錬パートに入ります!
そしてナナシたちがさらに奮闘します!
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
鍛錬場から宿へ戻ったナナシは、まだわずかに白む街並みを背に、静かに扉を押し開けた。
早朝の冷えた空気の名残を纏いながらも、彼の額には汗がにじみ、呼吸はほんのり荒い。
武器は壁に立てかけ、軋む床を足音を立てずに渡る。
部屋の中はまだ夢の余韻に包まれていた。
窓際のカーテンから差し込む柔らかな陽光が、床と寝具を薄金色に染めている。
静かに耳を澄ますと、仲間たちの寝息が規則正しく響いていた。
ナナシは小さく笑みをこぼす。
(……よく寝てやがる。ま、昨日のあれだけの緊張と消耗じゃ当然か)
***
■ 寝ぼけた朝
最初に動きを見せたのは、ベッドの端に置かれたぷよんとした半透明の塊。
「……ん……ふにゅ……」
スライムのプルリだ。丸い体がぷるんと揺れ、少し形を崩してはまた元に戻る。
その動きがまるで「もうちょっと寝たいよ〜」と訴えているようだった。
「おはよ、ナナシ……もう、起きてたんだ……?」
「おう、ちょっと体を動かしてきた」
プルリは「ふにゅ〜」と形を変えて毛布に潜り直したが、寝直す気配はなかった。
続いて、毛布の山からぴょこっと飛び出したのはコボルトの耳。
「……ふぁぁぁぁ〜……もう朝?」
毛布を頭までかぶったまま、ミミが目をこすっている。寝癖で右耳がぺたんと折れていた。
「おはよう、ミミ。朝だ。起きたら飯にするぞ」
「……飯……?」
その一言で、ミミの瞳が半分覚醒する。毛布を勢いよく蹴飛ばし、ぴょんとベッドから飛び降りた。
最後に、壁際のベッドから尻尾がするりと出てきた。
「……もう朝か……」
ルルカだ。低い声で呟き、ゆっくりと上体を起こす。その金色の瞳が光を反射して細くなる。
こうして《無銘の牙》の面々は、眠りの国から現実へと引き戻されてきた。
***
■ 朝の台所戦線
「よし、全員、朝飯作るぞ」
ナナシは袖をまくり、宿の共有キッチンへと向かった。
今日の献立は既に頭にある。
「体を温める野菜と肉のスープ、焼きたてのパン、それと卵と野菜の炒め物だな」
「スープは私が混ぜる〜」とプルリ。
その体の特性を生かし、鍋の中でスプーン代わりにぷよんと動く。
だが混ぜすぎるあまり、早速スープの表面に小さな泡がぷくぷく浮き始めた。
「おい、プルリ。混ぜすぎだと味が濁るぞ」
「え〜、でもこのほうが早く混ざるよ?」
「料理も戦いも、急ぎすぎると失敗するんだ」
「じゃあ、アタシはパンをこねる!」とミミが小麦粉袋を抱えた。
しかし粉を開けた瞬間、勢いあまって自分の鼻先に白い粉をつけてしまう。
「……ぶはっ、やっちゃった」
「粉は敵じゃない、落ち着いて扱え」
「はーい……」
一方、ルルカは黙々と火加減の調整をしている。
「ルルカ、火力が強すぎると焦げるぞ」
「……わかっている。だが弱すぎても旨味は出ない」
その真剣さは、もはや戦場で敵と向き合う時と同じだった。
***
■失敗と笑い
スープの味見をしたナナシは眉をひそめる。
「……塩が足りないな」
「あ、それ私が入れる!」とプルリが勢いよく塩瓶を傾けた。
どぼっ、と予想以上の量が鍋に入る。
「おい待て! それは戦場で爆弾投げるのと同じ量だ!」
「ひゃあ、ごめんなさい〜!」
ミミのパンも形がいびつだ。
「……なんか、ドラゴンの爪みたいになった」
「まぁ、形より中身だ。食えれば勝ちだ」
「えー、せめて丸くしたい!」
そんなドタバタの中でも、ルルカの炒め物だけは完璧だった。
「火加減……完璧」
その静かな自信に、皆が「やっぱりルルカだな」と頷いた。
***
■食卓と会議
やがて、香ばしい匂いがキッチンを満たし、料理が並べられた。
野菜と肉の旨味が溶け込んだスープ、ミミ作の不揃いなパン、ルルカが仕上げた炒め物。
テーブルに座ると、ミミが耳をぴんと立てて言う。
「いただきまーす!」
全員が声を揃えて、朝食が始まった。
食後、ナナシは真顔になった。
「さて、今日の方針だ」
プルリがスプーンを止め、ミミが耳をぴくりと動かし、ルルカは箸を置く。
「三日後、ヴァルグが来る。それまでに、奇襲や不意打ちに対応できる訓練を積む」
「つまり、隠れてくる敵を見つける訓練だね?」とミミ。
「ああ。《ニの牙》は特に厄介だ」
ルルカが低く続ける。
「……奴は、気配を断つのが得意だ」
「そうだ。だから今日は街中で試す。互いに隠れ、見つけ、追い詰める……ゲーム形式だ」
プルリが小さく跳ねる。
「負けたら何かあるの?」
ナナシはにやりと笑った。
「もちろんある。勝ったやつは晩飯のリクエスト権、負けたやつは後片付け当番だ」
ミミとプルリが「絶対勝つ!」と叫び、ルルカは「……勝つ」と短く答えた。
***
■ 決意の朝
朝食の席には、やがて真剣な空気が満ちた。
食器の音が止み、全員の目に光が宿る。
「三日後までに牙を磨く」
「生き残るために」
「……そして勝つために」
ナナシは椅子から立ち上がり、仲間たちを見渡した。
「よし、準備だ。今日も牙を研ぐぞ」
その瞬間、窓から射し込む朝日が、四人の影を長く伸ばした。
それは、未来へと続く道の始まりを照らすようだった。
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/