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『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』  作者: 焼豚の神!
第2章:『雷牙の狩場 ―覇雷獅王との邂逅―』
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第20話「牙と牙 ――月影の密約」

こんにちは!

本日2回目!

 ――森は眠っている。

 夜の帳は厚く、雲は月を覆わず、白銀の光が地表を滲むように照らしていた。

 空気は冷たい。冷たいが、ただの冷気ではない。肺の奥に入り込むと、呼吸の音すら吸い取ってしまいそうな、密やかな冷たさだ。


 獣道は、昼間の喧騒の痕跡をまったく残していない。鹿の足跡も、鳥の落とした羽毛も、風が削ぎ落とし、今は月明かりだけが静かに道をなぞっている。


 その静謐を、ただ一つの影が切り裂く。


 白雷の大銀狼――ヴァルグ・ゼオグレイン。

 背丈は成獣の熊を超え、毛並みは雪よりも白く、月光を浴びれば稲妻が迸るような光沢を放つ。

 爪は土を掴み、足音は一切響かない。風もないのに、彼の通る跡だけが微かに葉を震わせる。






***




■気配の接触


 その時、空気が変わった。

 温度は同じ、風もない――だが、森の呼吸が一瞬だけ止まったように感じる。


 《来ていたのか》

 ヴァルグの低くくぐもった声が、意識の中に直接響く。声というより、雷鳴が地の奥で唸るような感覚だ。


 《……クク♬ 貴殿の方こそ、呼びもしないのに勝手に話しかけてくるじゃないか?えぇ??》


 掠れた囁きのようだが、念話では凍てつく刃物のように輪郭がはっきりしている。耳ではなく頭蓋の内側に突き刺さる感覚。



 ヴァルグは歩みを止めない。瞳だけを左右に動かし、闇を探る。


 《あの牙の子らと会っていたのだろう》

 《牙の子ら、ねぇ……貴殿にしては優しい呼び方だ》



 鼻先で短く息を吐く。

 《試す価値はある、というだけだ。我らの牙を受け止められるか、とな》


 《……甘い》

 わずか二音のその言葉に、冷ややかな殺気が宿る。

 《相手は、牙を向ければ折れるだけ。折れる前に楽しむってだけの話だろ?所詮は。》


 《楽しむかどうかは、我の勝手だ》






***





■見えぬ存在


 ヴァルグは耳を澄ます。夜の森は静かだ――いや、静かすぎる。虫も鳥も、今は息を潜め、ただ月が地面を照らしている。


 《……で、お前はどこにいる》


 《ここ♬》


 冷たい風が、左耳の後ろを撫でた。

 振り向いた瞬間、そこには何もない。空間の歪みすら感じられない。


 《見せびらかしはやめろ》


 《おや?おや?ククク、そうカリカリしなさんな。ちょっとした戯れだ。貴殿が牙の子らに言ったみたいにな!それに、これがアンタに気づかれない自分を、確認しておきたかっただけ》


 《我を欺けても、あやつらにそれが通じるとは限らぬ》


 《……通じるさ。あの子ら、警戒心はあるけど、“見る”ことに頼りすぎだ》





***




■ 過去の牙の記憶


 沈黙。月光が一筋、ヴァルグの鼻先を照らす。


 《昔――我らがまだ“名も持たぬ牙”と呼ばれた頃、似た試練を受けた者らがいた》


 《覚えてるさ。雪原で三日三晩……》

 《ああ。奴らは我を避けることに成功した。だが、お前に背を取られて終わった》


 【???】の声に、微かな笑いが混じる。

 《貴殿(アンタ)も、あの時笑ってたじゃないか。珍しいことに》


 《面白かったからな。お前が仕留める瞬間を、正面から見たのは初めてだった》


 《じゃあ、今回も面白くしてあげるよ》





***




■試練の取り決め



 《三日後、我は再び奴らの前に立つ。その時、お前がどう動くかは自由だ》

 《最初からそのつもり。??は??のやり方で、楽しむ》


 《ただし――》

 ヴァルグの声が低くなる。獣の唸りではなく、山そのものが重く鳴る音。

 《遊びすぎて殺すなよ。試練は、奴らの牙を鍛えるためのものだ》


 しばし沈黙。

 やがて、【???】がくすくす笑う。

 《了解。でも、折れるのは時間の問題かもねぇ》


 《それを決めるのは、我らではない》





森の底で

 ヴァルグはわずかに鼻を動かす。

 夜露を含んだ苔の匂い。腐葉土の甘さ。遠くで流れる小川の湿気。

 そして――目の前には、まったくの無臭がある。そこにこそ【???】がいるはずなのに、痕跡がない。


 《……ふん》と低く息を吐く。

 《また会うぞ》

 《ええ、次はもっと近くで》


 次の瞬間、気配が霧散した。そこに存在していたかどうかも疑わしいほど、完全に。


月影を抜けて

 ヴァルグはひとり、森の奥へ歩き出す。

 月の光が背に回り、銀の毛並みは影に溶ける。

 その足取りは重くも遅くもない――ただ、三日後という刻を獲物の血のように温めながら、獣は静かに進んでいく。


 森は再び、何事もなかったかのように虫の声を取り戻した。





――続く――



ここまでお読みいただきありがとうございます!


今日はもう打ち止めです!

また明日よろしくお願いいたします!('ω')ノ

明日は夕方17時10分から投稿予定です!



さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!


引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』

略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/

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