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『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』  作者: 焼豚の神!
第2章:『雷牙の狩場 ―覇雷獅王との邂逅―』
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第19話「月明かりの誓い」

おはようございます!

本日1回目目の投稿です!!

部屋のランプは落とされ、窓から差し込む月明かりだけが、薄く床やベッドを照らしていた。

風は止まり、外の音も消え、まるでこの部屋だけが時間の流れから切り離されているかのような静寂が支配している。



ミミは毛布に潜り込み、天井を見つめながら、かすかに呟いた。

「……さっきの銀狼、マジでやばかったね」



声は小さいが、澄んだ空気に溶けるように、くっきりと耳に届く。


プルリはベッドの端で丸くなり、ぷるぷると震えながら同調した。

「ぷる……心臓、まだどきどきしてるぷる」


スライムの体が微かに揺れ、柔らかく光る。


ルルカは腕枕のまま、無言で天井を見据えていた。瞳にはまだ銀狼の鋭い眼光が焼き付いているようだ。



ナナシは仰向けになり、毛布を顎まで引き上げて口を開く。

「……やばかったのは事実だ。でも、生きて帰ってきた。今はそれが全てだ」


その言葉に、四人の間に一瞬だけ重く静かな空気が流れる。


「でもさ」

ミミが毛布の中で寝返りを打つ。

「ヴァルグの話、ちゃんと整理しとかないと、三日後マジでやばくない?」


「ぷる……ニの牙、ってやつは、すごくいやなかんじがするぷる」

プルリは独特の感覚で、あの得体の知れない“視線の感触”を覚えているらしい。全身がザワザワとするような感覚だ。


ルルカが低い声で続けた。

「気配断ちと搦手が得意……つまり、正面からの戦いを避けるってことだ。俺たちは待ち伏せされる覚悟をしないと」


ナナシは小さくうなずく。

「そうだな。ヴァルグの言葉をそのまま信じるわけじゃないが、“近くで見ている”ってのは本当だろう」


ミミがつぶやく。

「木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中……じゃあ、村の中にも潜り込めるってことじゃん……やだなあ」


その言葉に、部屋の空気はさらに重く冷たくなる。


一瞬の沈黙。だが、その静けさの中に、それぞれの思考が深く沈み込んでいく。


月光がベッドの白い布の皺に柔らかな影を落とし、部屋全体を銀色に染めていた。


「……プルリ、こわいぷる」

プルリの声はかすかに震え、まるで寝息のように弱い。



ナナシはゆっくりと毛布の中で片腕を伸ばし、プルリの小さな体をそっと抱き寄せる。

「怖いのはいい。怖いからこそ、生き延びようとするんだ」



ルルカは口元だけで笑い、力強く言った。

「俺も恐怖はある。でもそれは逃げたいって意味じゃない。生きるために戦うってことだけだ」


ミミは天井を見つめたまま、つぶやく。

「……絶対負けないよ。負けたら、あの銀狼に全部見透かされたまんま死ぬことになる。それ、超ムカつく」


ナナシは短く笑いながら返した。

「その意地、大事にしろ」





***





■各々の過去の恐怖体験――


ミミが静かに話し始めた。

「小さい頃、森で迷子になったことがある。夜になって、真っ暗で……あの時、聞こえたのは自分の足音と心臓の音だけだった。どこからか、誰かの呼吸も聞こえて……今思えば幻聴だったのかもしれないけど、あの時は本当に死ぬかと思った」


ナナシが静かに頷く。

「俺もだ。戦いに巻き込まれて、仲間が倒れるのを見た。恐怖で動けなくなった。でも、その中で戦い続けた仲間の声が支えだった」


プルリは体を少し膨らませ、ぽつりと語る。

「ぷる……液体の中に閉じ込められて、自由に動けなくなったことがあるぷる。あの時は、何もできなくて……ぷるぷる」


ルルカは少し顔をしかめて話す。

「捕まって、動きを封じられたことがある。あの時、奴らの視線が痛くて、呼吸さえ乱れてしまった」


その過去の恐怖が、今の彼らの強さの根底にあるのだと、それぞれが思い知らされた。







***





■訓練計画と模擬会話――


ミミが質問する。

「三日後までに何をすればいい?」


ナナシは即答した。

「まずは気配を消す訓練だ。俺たちの存在感を極限まで薄くする。次に、音を殺す動きを身につける」


プルリが小さく体を震わせながら言う。

「ぷる……プルリ、液状化できるから、地形を使って消えるのは得意ぷる」


ルルカが顎に手をやる。

「俺は足音を消すために尾の使い方を調整しないと。地面の振動でバレるかもしれない」


ミミは眉をひそめる。

「私は……鼻がいいってバレてるから、敵に気づかれやすいかも」


ナナシが言う。

「お前は逆に、敵の位置を先に嗅ぎ分けろ。それが罠避けに繋がる」


ルルカが少し笑う。

「罠を嗅ぎ分ける“鼻”か……妙に似合うな」


ミミはむくれて、でも少し嬉しそうに答えた。

「ふん、ありがとう」


彼らの間に軽い笑いが生まれ、緊張の糸がほんの少し緩んだ。






***






■夜の音と布団の感触――


時折、窓の外から虫の鳴き声が聞こえ、風鈴のように涼やかな響きを運んでくる。


毛布のふわりとした柔らかさが肌に伝わり、心をほぐしていく。


呼吸の音、毛布が擦れる音、小さな体の震え……そのすべてが静かな夜の時間を満たしている。


「……ねぇ、ナナシ」

ミミが小さく声をかける。


「ん?」

ナナシは目を閉じかけながらも応じた。


「もし三日後……みんなバラバラになっちゃったら、どうする?」


ナナシは少し間を置いてから答えた。

「探す。何年かかっても、必ず」


ミミは答えを聞いて、毛布の中で小さく笑った。


プルリはもうすっかり眠りについていて、細い寝息を立てている。


ルルカは薄く目を閉じたまま呟いた。

「……それなら安心だ」


静かな呼吸の音が、部屋いっぱいに広がっていった。


月明かりはやがて東の空に消えていき、彼らの心に静かな決意の光を灯し続けていた。


彼らはまだ長い戦いの途中にいるのだ。





――続く――



ここまでお読みいただきありがとうございます!


2回目の投稿は、夕方17時10分から投稿予定です!



さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!


引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』

略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/

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