第16話「雷牙と影牙の遊戯(シャドウ・レクイエム 前奏曲)」
こんばんは!
本日3回目!
夜はすでに深く、沼地の空気は湿りを増していた。風は冷え、闇は水面を黒く塗り潰すように広がっている。
その中心――銀白の巨躯が悠然と立っていた。白雷の大銀狼。その毛並みは月光を弾き返し、尾はゆるやかに揺れている。だが、その周囲にまとわりつく闇は、ただの夜陰ではなかった。まるで生き物のように蠢き、足元から肩口までを這い上がり、時折脈動している。
ナナシは仲間たち――スライムのプルリ、コボルトのミミ、リザードのルルカ――と肩を並べ、その異様な存在を見据えていた。
ここに来るまで、幾度も試練の名を耳にしてきたが、それをこうして正面から突きつけられると、空気は言葉を失い、緊張だけが残る。
ヴァルグは尾をゆるりと振り、その双眸を細める。
「――これより話すは、《影葬の追跡》についてだ」
その声は雷鳴の前触れのように低く、湿地の奥まで響いた。
***
■ 影葬の追跡のルール
「まず第一に、制限時間は一刻――、いや一刻では貴殿らもきついか。では、我が主の三柱にちなんで、三刻を制限時間としよう。現世で言うところの三時間だ。その刻限のうちに、《ニの牙》を見つけ出し、名を呼び、存在を暴けッ!」
ヴァルグの視線は一人ひとりを順に射抜く。
「ただし、その間に我、あるいは我が影の分身に捕まれば試練は即座に終わる。触れられた瞬間、お前らは“影の口”に飲まれ、即時退場だ。肉体は無事だが、魂は雷の狭間を漂うことになる」
プルリがぷるぷると震えた。
「ぷ、ぷる……それって……痛い?」
「痛みよりも、帰還までの時間がもったいなかろうな。あれは退屈で長い、雷鳴の中の眠りだ」
ヴァルグの口元に、楽しげな牙の笑みが覗く。
「第二に、《影》に触れられたら失格だ。影は我が分身であり、爪牙そのものだと思え」
ルルカが小さく唸る。「影が分身……面倒な相手ね」
「第三に、《ニの牙》は気配断ちの権化のような獣だ。我でも、見つけ出すのが苦労する。目で見ようとするな、匂いを追おうとするな。やつは森に溶け、群れに紛れ、姿を幻のように消す」
ミミの耳がぴくりと動いた。「つまり、探すのはほぼ無理ってこと?」
「普通のやり方ではな」ヴァルグは頷く。
「第四――やつを見抜く唯一の手段は、性質を読むことだ。やつはひねくれ者。必ず近くで見ている。木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中。つまり、やつはお前たちのすぐ傍らに潜み、息を殺して見下ろしているはずだ。現に、お前たちが集落で救った村人にも化けていたぞ?」
「な……!」
「うそっ……」
「そんな……!」
プルリ、ミミ、ルルカの3体は驚愕していた。
そして、ナナシはその言葉を胸に刻んだ。――すぐ傍に、必ずいる。
「最後に、逃げ切るだけでも勝ちは勝ちだ。ただし、《ニの牙》を暴けなければ勝者は我が牙だ!」
***
■ 《ニの牙》の危険性
ヴァルグは低く笑い、その銀の尾を一度だけ払った。
「《ニの牙》は、斥候と搦手を得意とする。敵陣の心臓を抉ることを何より好み、見つけた獲物は決して逃さぬ。我でも、一度見失えば探すのは至難の業よ」
声に混じるのは、恐れではなく誇りだった。
「だがな……もう一度言う。やつは、性根がひねくれておる。獲物の近くで息を潜め、見守るのが趣味だ。お前たちの焦りや恐怖を観察する……それこそが、あやつの楽しみなのだ」
***
■ 駆け引きの始まり
ヴァルグは突然、足元の影を広げた。
「だが、この試練――夜中にやってしまえば、我らに有利すぎて話にならぬ。明日では対策のしようがなく、お前たちにとってもつまらぬだろう。ゲームバランスが崩れて面白みに欠ける」
巨狼の瞳が細く輝く。
「ゆえに、心優しい我から提案だ。三日後――明々後日の昼刻近く、十一刻から十三刻にかけての三時間を使って、この《影葬の追跡》を開始しよう。これなら貴殿らも英気と策を練れるであろう!」
ルルカが眉をひそめた。「三日後……ずいぶん余裕をくれるじゃない。」
「クカカ♬存分に対策せよ!」
ヴァルグは牙を光らせる。「我はそれを正面から噛み砕く!」
ナナシが慎重に問う。「もし、その提案を断ったら?」
ヴァルグは口角を吊り上げ、「それなら今すぐ挑むがよい。我の白雷の養分となるのみだ! フハハハハ♬」
***
■ 念話の伝達
ナナシは即座にミミへ視線を向けた。「ミミ……あれを使えるか?」
ミミは一瞬だけ迷ったが、うなずく。「まだ完全解除してないけど……やってみる!」
次の瞬間、ミミの耳が青白い光を帯びた。彼女の種族固有の未解放能力――《電気パス廻廊》。
微弱な雷気を利用し、仲間同士の脳へ直接思考を届ける念話だ。
――(聞こえるか? プルリ、ルルカ、ミミ)
――(ぷる……聞こえるぷる)
――(ええ……大丈夫よ)
――(うん、問題ないよ)
ナナシは念話で簡潔にまとめた。
――(今は夜中だ。ヴァルグの力が最も強まる時。即決すれば、全滅は必至。三日後の昼間なら影の勢いも幾分か落ちる)
――(つまり……提案を受けた方が有利ってことね)ミミの声が届く。
――(そうだ。それまでに《ニの牙》の探し方を詰める。あいつは必ず近くにいる。その癖を利用する)
――(ぷるりも賛成ぷる!)
――(私も異論はないわ!)
――(ミミも異論はないよ!)
プルリ、ルルカ、ミミが短く答えた。
***
■ 受諾と別れ
ナナシは念話を切り、ヴァルグに向き直った。
「……その提案、受けよう」
ヴァルグは満足げに鼻を鳴らす。
「では決まりであるな! 今日はもう休め。つかの間の平穏を味わい、さらに牙を研げ!」
銀狼の尾が一閃。闇が彼の体を包み込み、輪郭を曖昧にする。
「では三日後、再び会おうぞ?牙の子らよ!フハハハハハ♬」
低い声が残響し、ヴァルグの巨体は影に溶け、夜そのものへと還っていった。
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沼地には静けさが戻った。
だが、三日後の昼、牙と牙が交わる“遊戯”が待っている。
その時、勝つのは雷牙か、無銘の牙か――。
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――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今日はもう打ち止めです!
また明日よろしくお願いいたします!('ω')ノ
明日も朝6時30分から投稿予定です!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/




