【第3話】名は、灯火のように
第3話もよろしくお願いします!
夜明け前の森は、静けさと薄明かりに包まれていた。
ナナシの拠点、かつての砦跡では、焚き火の名残がかすかに燻り、寝息の代わりにスライムのぷるぷるという音と、コボルトとリザードの寝返りが聞こえていた。
「ん、うぅ……あったかい……」
スライムが目を開けると、ナナシはすでに起きて焚き火に薪を足していた。背中越しに、何かを考えているようだった。
「オハヨ……ごしゅじん……じゃなくて、ナナシ」
「……起きたか。傷の具合は?」
「うん! すごく、よくなってる。ぷるん、って……もとどおり!」
コボルトも「きゅん……」と小さく鳴いて目をこすり、リザードは「シャア……」と尻尾を軽く揺らして起き上がった。
「さて……落ち着いたところでだ」
ナナシは三匹を焚き火の前に集め、腕を組んで唸った。
「お前ら、名前がないって言ってたよな」
「……うん。ワタシ、“しけんたいエーサン”って、よばれてた。あのふたりも……ばんごう、とか、ののしり……だけ」
「コボルト! ホエロ! ばっかり……こわい、ことば……」
「ワタシ、エルジュウニ……ラベル、はられた。しょうひん、みたい……だった」
ナナシは静かに焚き火の炎を見つめた。
「……なら、付けるか。俺が」
「えっ! ホントに? ナナシ、なまえ、つけてくれるの?」
「まぁ、名前の一つぐらい、考えてやらんでもない」
三匹が期待に満ちた目で見つめてくる。
ナナシは軽く肩をすくめると、真剣な顔で言った。
「よし。まずはお前」
彼はスライムを指差した。
「お前は青いから、“アオイノ”だ」
「…………え?」
「で、そっちの犬っぽいのは、“イヌッコロ”。」
「……………」
「で、トカゲは“モドキ”だな。リザードモドキっぽいし」
三匹は揃って凍りついた。
スライムが一拍置いて震えながら言う。
「ナ……ナナシ、それ……ナマエ?」
「なんだ? いい名前だろ。特徴を押さえてて覚えやすい」
「ぜったい、イヤー!!」
スライムが地面でバウンドし、コボルトは耳を伏せて「クゥゥゥン……」、リザードは「シャアア!」と尾を振り回して抗議した。
「なんだよ。お前らに文句言われる筋合いねえぞ」
「ぷる……もすこし、かわいい、なまえ……ほしい……」
「じゃあ、もっと“人間らしい”名前がいいってか」
ナナシは鼻を鳴らしながら腕を組んだ。
「……分かった、ならこうしよう。お前が“タロウ”、お前が“コブロウ”、
お前が“トカゲヤロウ”だ!」
ナナシが、どうだいい名前だろうと自信を漲らせて3匹を見ていて、冗談で言っているわけではないことを3匹は悟った。
「………………」
沈黙。
スライムの目が虚ろになり、コボルトが倒れ込み、リザードの口から
「シャア……」と魂が抜けたような声が漏れた。
「お、おかしい……。いい名前だろ」
ナナシは少し首を傾げる。
「……ナナシ、それ、ぜんぶ“オトコのナマエ”……わたしたち、“メス”……」
「……あと、さいごの、ナマエじゃない……ばっかことば……」
「悪口じゃねぇ。立派な名前だ」
「ガチで、いってるぅ!?」
ぷるぷるぷるぷると震えながら、三匹は明らかに距離を取り始めた。
ナナシは頭をかきながら、面倒そうに呟く。
「ったく……分かったよ。だったら、お前らが考えろよ。好きにしろ」
三匹はしばらく黙り込んだ。
やがて、スライムがぽつりと呟く。
「……でも……ホントは……ナナシに、つけてほしい……」
「うん……ごしゅじん……ナナシ、が、いい……」
「ナナシ……ナマエ、ほしい……つけて……」
ナナシは少し驚いた顔をしたが、すぐにふっと息をつき、彼らを見やった。
「……しょうがねぇな」
彼は焚き火の灯に照らされながら、じっと三匹を見つめた。
「……お前、スライム。よくぷるぷる動くよな。……だから“プルリ”ってのはどうだ?」
スライムが一瞬きょとんとし、それから小さく跳ねた。
「……プルリ……プルリ……すき……!」
「次、犬っぽいお前……お前、耳ぴこぴこ動くよな。……“ミミ”でいいだろ」
コボルトは「きゅ!」と鳴いて耳をぴょこんと立てた。
「ミミ……ミミ、ワタシ? ミミ、かわいい!」
「最後。リザード。お前……さっきから地面でシャーシャー、るららら~って動くの、なんか印象強いんだよな。……“ルルカ”、どうだ?」
リザードは目を細めて尻尾を揺らし、低く呟いた。
「ルルカ……ルルカ……きれい……ワタシ、スキ……」
三匹がそれぞれ、自分の名を小さく口にして確かめ合う。
「プルリ……プルリ、だ。ナマエ、ある……」
「ミミ……ミミ、スキ……!」
「ルルカ……ワタシノ……ナマエ……」
その表情には、照れくささと嬉しさ、そしてほのかな安堵があった。
「……じゃあ、それでいい。文句もねぇだろ」
ナナシがぼそりと呟くと、三匹は一斉に彼に向かって、にぱっと笑った。
「うんっ! ナナシ、ありがと!」
「アリガト! ずっと、よぶ!」
「……ナナシ……カンシャ、する」
名もなき者たちが、名を得た。
それは小さなことかもしれない。
だが、名は心を繋げる灯火だ。
この夜明け、彼らの小さな世界に、確かな一歩が刻まれた。
(続く)
お読みいただきありがとうございます!
「第3話:名は、灯火のように」、いかがでしたか?
ナナシの天然発言に3匹が翻弄される回でしたね!
やはり、名前は大事よ?ナナシ君や。
しかも女の子に向かって、ヤロウって( *´艸`)
でも、最後はちゃんとした名前を付けて挙げて、3匹喜んでましたね!
今後もナナシの無骨な優しさにもぜひご注目ください!
あと、コメントやご感想、とっても励みになります!
よければ一言でも残していってくださいね('◇')ゞ
また、次話より、投稿時間を変更いたします。
20時10分→「17時10分」に変更します!
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』略して『ナナクラ』を引き続きよろしくお願いいたします(^^)/