第15話「真実と虚実の狭間と提案の影!」
お疲れ様です!
いよいよ《獣王子ビーストロード》編の真骨頂が動き出します!
そしてナナシたちがさらに奮闘します!
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
夜の闇はまだ深く、雷の残響が空を静かに震わせていた。
白雷の大銀狼――《獣王子ビーストロード》こと【ヴァルグ・ゼオグレイン】は、沼のほとりに悠然と佇み、その瞳は星明かりの下でも冷たく冴え渡っていた。
彼の視線の先には、ナナシと三姉妹の姿。
緊張しながらも、確かな意志を持って銀狼の言葉を待ち受けていた。
***
ビーストロードは静かに息を吸い込み、夜の闇に溶けるような声で口を開いた。
「よかろう。話そう。我が主――《雷爪の咆哮バリシャ》様と、我らが属する《刻環十二聖王座アルザ・セイ=クリオス)》について――」
その語りはまるで重い鐘の音のように、聞く者の胸の奥を打った。
「刻環十二聖王座―― それは、時と命の環を守る十二の王の座。数千年以上前の混沌の時代に創られ、今なお、世界の均衡を保ち続けている。」
ナナシは訝しげに問いかける。
「……世界の均衡とは、具体的に何を指す?」
「夜と昼、季節の移ろい、命の誕生と死、因果の巡り……それらすべてが『刻』であり、その刻を乱す者が現れれば、世界は崩れる。
十二の王はそれぞれ異なる“刻”を司り、乱れた環を修復し、時の流れを守る存在だ。」
続いてルルカが震える声で尋ねた。
「がる……かげのけものたちは、それをまもってるの……?」
ヴァルグは頷き、目を細める。
「その通りだ。守るだけでなく、乱そうとする者に牙を剥くのも我らの役目だ。」
そして、ミミが小さく首を傾ける。
「いま、バリシャさまが顕現したのは……なぜですか……?」
「闇が、再び“刻”の狭間に芽吹いたからだ。
均衡を揺るがす何かが、確かに蠢いている。
バリシャ様が動く時は、必ずその前触れがある。今が、まさにその時だ。」
ナナシは息を潜め、問いかけた。
「……その“闇”とは、何なのですか?」
ヴァルグは尾を一振りしながら、答えた。
「混沌の根源……我々十二聖王座に属する者が封じねばならぬ存在。
だがそれは、ただの敵ではない。刻の一部でもある。
闇があるからこそ、光が存在する。ゆえに我らの戦いは、世界の真理に触れる試練なのだ。」
プルリの小さな声が響いた。
「ぷる……わたしたちも、しれんのなかですか……?」
「そうだ。貴殿ら《無銘の牙》も、この時代の選ばれし試練の担い手。
勇気と覚悟、絆と意志が――“刻”を動かす。」
ナナシは一歩前に出て、改めて尋ねた。
「ヴァルグ殿。貴殿の名と、役目を今一度教えてほしい。」
銀狼はゆっくりと目を閉じ、低く静かな声で告げた。
「我が名は《ヴァルグ・ゼオグレイン》。
《雷爪の咆哮バリシャ》様の側近、《一の牙》。
白雷の大銀狼、闇を探り、敵を裂くことが我が務めだ。」
***
ナナシたちがその名を胸に刻もうとした瞬間――
ヴァルグが尻尾をひらりと振り、無邪気な笑みを浮かべて言った。
「さて、ここからは我からも一つ、尋ねよう。
我の影をどうやって全て集め、縛り、突破した?その秘密を是非、聞かせてくれ!」
ナナシが静かに口を開く。
「ここにいるミミの能力で集落の影に潜む残響を収集し、プルリの細胞分裂能力とルルカの尾翼影座で、影を縛った。お互いの影を結びつけ、連動させることで、ヴァルグ殿の影を分断し、罠を破ったんだ。」
ミミも静かに言葉を添えた。
「わたしは影の感覚を通じて動きを読み解き、残響を拾い集めた。
影の連鎖を断ち切らせなかったことが勝因の一つだよ。」
ルルカは頷きながら付け加える。
「影が繋がっていると知っていたからこそ、私たちの心も繋がり、動きを合わせられた。」
プルリも勇気を振り絞って言った。
「うん!みんなでつながって、つかまらなかった……!」
ヴァルグはしばらく黙り込み、やがて大きな声で笑い始めた。
「クカカカ♬ 我もまだまだだな。そんな弱点がよもやあったとは!実に愉快である!!!」
その笑みは喜びと興奮に満ちていた。
***
「ははは、実に面白い。感謝するぞ、牙の子らよ。
せっかく現世に顕現したのだから、早々に帰るのも味気ない。……むしろ、これからが本番だ。」
そう言ってヴァルグは口元に鋭い牙を覗かせ、ニィ〜と嗤う。
その一言に、空気が一気に張り詰めた。
「退屈な言葉のやり取りで終わるつもりはない。少し我らと遊びをしようではないか。」
ナナシが鋭く問いかける。
「我らと遊び……とは?」
ヴァルグは目を輝かせて応じた。
「名付けて、《影葬の追跡》。影の鬼ごっこだ!
我が分身と影を使った追跡遊戯。制限時間はこれから考える。
お前たちは我が同胞の《もう一つの牙》を探し出し、同時に我から制限時間いっぱい逃れねばならぬッ!」
ナナシの目が鋭く光る。
「もう一つの牙、だと……?」
ヴァルグは爪を舐めるように掲げて言った。
「そうだ。我らは、【雷爪の獣王バリシャ】様の牙として動いている。牙とは本来、2本生えているものであろう?我が《一の牙》なら、当然《二の牙》もいる。そして――貴殿らは既に、|そ奴《二の牙|》《・》に出会っている。」
「な……!」
「うそっ……」
「そんな……!」
「気付かぬのも無理はない。奴は気配を絶つ達人。
今もこの場に潜み、我らの会話を見守っているのだ。」
プルリが震えながら訊ねた。
「ぷる……もし……つかまったら……?」
ヴァルグの微笑は鋭さを帯びて冷たく光った。
「その時は……お前たちの魂も、肉も、血も、すべて我が供物となる。
雷へと還るための、牙の糧となるのだ!さあ、この遊戯受けるか!?勇敢なる牙の子らよ!!」
闇と雷の咆哮が交わる夜。
遊戯であり、試練であり、命の選別――
《影葬の追跡》が幕を開けようとしていた。
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
3回目の投稿は夜21時30分の予定です!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/