第12話「影裂きの刻、《獣王子》を喚ぶ咆哮」
お疲れ様です!通勤&通学お勤めご苦労さまです!!
今話では、ナナシたちがどうやって《獣王子ビーストロード》の影を穿ち、裂け目を出現させ、影を砕くことができるのか!!!
ナナシたちが奮闘します!
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
夜の深い時刻――異世界でいう「漆闇の刻」。
空は沈み、風も鳴かぬ。静寂すら凍てつくような、異界の闇に包まれた。
そこは、“沼”と呼ばれるにはあまりに不気味な場所だった。
黒い水が、まるで生きているかのようにゆらめき、腐葉の匂いが微かに漂う。
月の光すら遮られ、光なき世界に一滴の銀も差し込まない。
「……ここだ」
ナナシが低く呟いた。
その声は、剣のように鋭く、深く夜を切り裂いた。
次の瞬間、大剣がその腕から振り下ろされ、音もなく水面を裂いた。
冷たい波紋が静かに広がり、闇の中にひとしずくの緊張を落とす。
その刹那、
遠雷が、地平線の彼方で鳴った。
空を横切る閃光。
ナナシの双眸が、影の深奥に光を見た。
「見えた……これは“ただの影”じゃない」
闇に蠢くもの。
それは、村人たち一万の“影”――記憶、恐怖、怨嗟、そして祈り。
それらが幾重にも積み重なり、一枚の漆黒の衣へと編み込まれていた。
《黒衣奉纏》――
それは影を繋ぎ、纏い、魂ごと形を得る禁忌の魔術。
まさに“残響”の坩堝。
「……獣王子が、自身の影だけでは足りず、村人すべての“想い”を素材にしたのか……」
その一言に、空気が変わる。
プルリが前足で沼をかき回す。
「ぷる……ぬまのした……ひっぱられてる……なにか……うごいてる……」
ルルカの翼が微かに震え、毒のような囁きを放つ。
「くさい……これは……ひとのなきがお……いっぱい……」
ミミの耳が震え、そしてその瞳が閉じられた。
彼女はその“静寂”に耳をすませた。
「ミミ……きこえる……むらびとのこえ……みんな、なにかを……さけんでる……」
影は“残響”。
影は“魂の棲処”。
「ミミ、“声”を俺の武器に乗せろ。お前の“残音転回”、俺の一撃に宿せ」
ナナシの命に、ミミが頷く。
その耳が蒼白に輝いた瞬間、沼の底から影が湧き上がる。
屋根の隙間、石の裏、血の染み込んだ土の奥から――
ありとあらゆる“影”が集結する。
それは、泣き声であり、呻きであり、慟哭であり、絶望。
だが同時に、それは“願い”だった。
ナナシが手にした三種の武器――大剣、メイス、バトルアックス。
それらが蒼白く、まるで魂そのもののように輝き始める。
「ミミ……つなげた。みんなのこえ、ナナシにとどけた……」
「……プルリ、ルルカ、援護を頼む」
「ぷる、ひく!」
プルリが泥の中に深く爪を突き立て、巨大な何かを引きちぎるように引っ張る。
「ルルカ……きる!」
空を舞うルルカが旋風のごとき尾で沼を斬る。
黒衣の“つなぎめ”が破れ、術式が音を立てて崩れていく。
雷光のように閃く光が、漆黒の衣を裂いてゆく。
「今だ……!」
ナナシが、己の魔力すべてを注ぎ込む。
「これが、俺たちの一撃だ受けて見ろッ!!」
武器が咆哮し、影の核を粉砕する一撃が放たれた。
轟音。
空気をも震わせる衝撃。
バチリッツ!
バチリ!!
ズガガガガ!!!!
影が障壁となして立ちはだかる!
そして、プルリ、ミミ、ルルカから援護されたナナシがさらに力を籠める!
「いい加減、さっさと割れちまいなぁ!!!でやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「「「があ……ああ……ああ……あ!!」」」
そして、ついに...
『ばきりっ!』
『バリンッツ!!!!!!!!」
空間が裂ける音がした。
目の前の影に、確かな楔を穿ち、そして一か所のひび割れから波紋のように侵食していく。
つまり、今宵
数千年ぶりに影が“壊れた”。
プルリ、ミミ、ルルカが即座に距離を取る。
ナナシも、大剣を軸に後退。
黒衣が裂けていく。
幾重にも縫われた怨嗟と悲鳴が、風に乗って解き放たれる。
その合間、ねっとりとした重低音の声が、闇から響いてきた。
「……まさか、我の影が破られる日が来ようとはな」
その“声”は、影そのもののようだった。
浮かび上がった笑みだけが、恐怖の具現だった。そして、
黒煙が地を裂き、空へ昇る。
「喜べ。そして誇れ……! 我の《黒衣奉纏》を破った者など、未だかつて「バリシャ様」以外におらぬわ!現世においては存在せぬ!貴殿らが初めてだ!」
「ゆえに貴殿らを讃えよう。我、自らが顕現せん!」
「フハハハハハハハハハハハハァッ!!!」
その咆哮とともに、銀の牙が黒煙を裂いた。
鋭利。
獰猛。
美麗。
そしてその歯の奥から漏れる、野獣の呼気。
「……実に、数千年ぶりである」
沼の中心。
黒煙の中から、銀毛の獣がゆっくりと姿を現した。
その姿、咆哮、目覚め――
すべてが、神話のごとく荘厳で、禍々しい。
次話――【獣王子、顕現す】
――続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
実に数千年ぶり!
ついに「影」が破られました!
そして【獣王子】が現世に現れます!
こうご期待ください!
小さな一歩ですが、やがて誰もが振り返る伝説の一頁になります。
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/