表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』  作者: 焼豚の神!
第2章:『雷牙の狩場 ―覇雷獅王との邂逅―』
35/127

第11話 「影裂きの沼、煌めく爪と咆哮の牙」

お疲れ様です!通勤&通学お勤めご苦労さまです!!


さあさあ、いよいよ出てきましたよ!

キーマンが!!!!


最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――


牙の刻が、始まります。

――

◆ 「影を突破する謎解き」


夜は深燈の刻を過ぎ、沼地には息を潜めた獣のような冷気が満ちていた。

雲間を縫う月光すら、闇の底で蠢く何かに怯えるかのように、その輪郭を滲ませている。


古びた村の外れに、《無銘の牙》の四つの影が泥の上を滑った。

ナナシの背に揺れる短剣の柄が、夜気を吸い込み、微かに光を帯びる。

プルリ、ミミ、ルルカの三姉妹は獣のごとき本能を研ぎ澄まし、わずかな風のうなりすら聞き逃さぬように耳を伏せた。


「……居るな。」


低く絞り出されたナナシの声に、プルリが爪先を泥に沈めた。

ミミの耳が沼の湿り気を裂き、ルルカの尾が沼面を薙ぐ風に溶け込む。


沼の中央――黒く淀んだ水面に、仄かな銀色が瞬いた。

それは月光ではなかった。

水底で蠢く《何か》が、自らを“ここに在る”と示すために放つ、獣の煌めきだった。


「影は……そこだ……。」


プルリが低く唸る。


ナナシが顎を引く。


「――掛かれ。」


獣の影が、子供の姿を借りて沼の中央に立つ。

その小さな背は、雷禍の爪を孕む銀狼の虚像。

それが静かに笑った。


刹那、空が裂けた。


雷鳴と共に、水面が爆ぜる。

ナナシが地を蹴った瞬間、三姉妹の牙が同時に閃いた。


「ぷる……かむ……!」


「ミミ……ひらく……!」


「ルルカ……さく……!」


影が裂け、沼に稲妻のような光条が迸った。

ナナシの豪腕が影を抉る。

確かな手応え――だが、影は割れない。

裂けたかに見えた黒は水のように滑り、再び縫合されたかのように形を戻した。








《獣王子ビーストロード》。

銀狼の幻影は、子供の皮を被ったまま、その瞳に僅かな嘲笑を灯す。


「……足りねぇ。」


ナナシの額に冷や汗が滲む。


三姉妹もまた、爪と牙を振るった刹那の虚無感に、尾を低く垂れた。

爪は届く。牙も通る。

だが核心を穿つ何かが、決定的に欠けている。


――ただの獣ではない。


プルリが震える声で呟く。


「ぷる……かげ……ふえる……。」


ミミの耳が夜気を震わせる。


「ミミ……かげ……わかれる……。」


ルルカの瞳が沼の縁を睨んだ。


「ルルカ……ちる……。」


ナナシは僅かに目を伏せた。






――黒衣奉纏。


思考の隅を過ぎった言葉は、古い聖典の頁の端に書き込まれた忘れられた術の名だ。

《主の影を千切り、世界に散らす》。

それが《獣王子》の生存術にして、隠れ蓑。

《刻環十二聖王座》の眷属のひとつ――雷爪の咆哮バリシャ

その顕現を許さぬための、知恵と影の魔。


「……これが黒衣、黒い影と。」


ナナシが呟く。


雷が再び空を裂き、沼が閃光に呑まれた刹那、影の子供の形が笑った。



『愚かよな――届かぬ刃を振りかざすとは。』



その声は音ではなく、頭蓋を震わせる囁きだった。

プルリが吠える。


「ぷる……つかまえ……!」


だが影は裂けず、三姉妹の牙をすり抜ける。

ミミが耳を裂き、ルルカの爪が水を斬るが、雷禍の爪は沼の泥の奥で嗤うだけだった。


ナナシが息を呑む。


「……一旦、引くぞ。」


誰も言葉を返さず、四つの影は沼を離れた。

泥を蹴り、獣のように息を合わせ、一気に森の縁を駆け抜ける。


月が雲間から顔を覗かせた時、村の集落の灯が遠くに滲んだ。






――


一時退避。


集落の仄暗い納屋に、ナナシと三姉妹は息を潜めていた。


獣の血の匂いと、夜気の湿り気が混ざる。

ナナシが短剣を磨きながら呟いた。


「……あの影は《村人全員の影》に潜んでやがる。」


プルリの尻尾が震える。


「ぷる……みんな……かげ……?」


ミミが小さく耳を伏せた。


「ミミ……きく……?」


ナナシは頷く。


「そうだ。村の灯の下で、奴は影を裂いて潜った。俺たちはずっと、表の影だけを追ってたってことだ。」


ルルカの爪が柱を叩く。


「ルルカ……みつける……!」


ナナシは納屋の梁を見上げた。


「――村の影を集めるしかない。」


プルリが声を潜めた。


「ぷる……どうする……?」


ナナシは口元だけ笑った。


「村人全員に会って、聞き出す。影が裂けてるなら、必ず残滓があるはずだ。全て繋いで、本体を引きずり出す。」


雷鳴が遠くで轟いた。


その夜、《無銘の牙》は村を割るように散った。





――


静宵の刻。


集落の灯りは、まだ夜更けの生温さを含んでいる。


ナナシは干し肉屋の裏で老人と向き合った。


「……おじい、何を見た?」


老人の目の奥で、月光が滲んだ。


「……あの沼の獣さ。いつだって影は裂かれる。だが全部は残っちゃいない。誰かの灯の中に紛れて生き延びる。」


ナナシは短剣を握る。


「――何を残してる?」


老人は口を開いた。


「……泣き声だ。影は声を残す。」





――


その頃、プルリは井戸端で娘と向かい合っていた。


「ぷる……なに……みた……?」


娘は怯えた瞳で首を振る。


「見てない……でも……夢で……銀色の狼が……母さんの影を食べてた……。」


プルリの尻尾が震えた。


「……ぷる……あつめる……!」






――


村の納屋に、夜明け前の風が吹き込む。

火の気は絶やされ、吐く息は白い。

ナナシは膝を立てて座り込み、膝に短剣を横たえた。

プルリ、ミミ、ルルカは囲むように彼の周りにうずくまっている。


沼地で得た手応えの無さと、村で集めた欠片のような言葉の数々が、ナナシの脳裏で絡まり、ゆっくりと結び目を作り始めていた。



「……声を残す。」


ナナシが小さく呟くと、ミミが尻尾を振った。


「ミミ……きいた……こえ……。おばあ……わらう……こえ……。」


プルリが頷く。


「ぷる……こども……ゆめ……おおかみ……。」


ルルカは梁に登り、鋭い瞳で暗い天井裏を睨む。


「ルルカ……かげ……しる……。」


ナナシは顎に手を当て、ぼそりと続けた。




「黒衣奉纏……影を裂いて潜む……。つまり影は、一つの器じゃない。主の姿を映すのは、あの銀狼の殻だけじゃない……村人一人ひとりの影だ。」




そうだ。

干し肉屋の裏で、老人が吐いた言葉――“灯の下に紛れて生き延びる”。

この村全体が、“あの影”の肉であり、皮であり、血脈であり、爪だ。


()()()()()()()()()()()()()()()()()



それが、《雷爪の咆哮バリシャ》を顕現させる鍵。


だが、どうやって?


ナナシの目の奥で、雷禍の閃光の残響が走った。


「……全部の影を集める。」


言葉が形になる。

その声に、プルリが耳を震わせる。


「ぷる……どう……あつめる……?」


ナナシは短剣の柄を握り直した。


「影は声を残す。つまり、影の裂け目は、残響の中に刻まれてる。」


彼の声は低いが、獣の爪が岩を削ぐような鋭さを宿していた。


「《黒衣奉纏》は、主の姿を散らすための秘術。だが、裂かれた影には必ず“芯”が残る。全てを溶かすことはできねぇ。……だから影は、村人の囁きや夢の形を借りて、僅かな記憶を吐き続ける。」


ナナシはミミを見た。


「お前の耳なら、残響を集められるな?お前の耳が突破口になるかもしれねぇ!」


ミミは小さく頷く。


「ミミ……きける……!」


プルリの尾が泥のように地を叩く。


「ぷる……あつめる……!」


ルルカが梁の上で、わずかに牙を覗かせた。


「ルルカ……つなぐ……!」


ナナシは目を閉じた。

沼の冷たい泥に浸かるように、意識の奥で銀色の狼の嘲笑が蘇る。





――届かぬ刃を振りかざすとは。


届かせる。

振りかざすだけではない。

噛み裂く。


「……残響を繋ぎ、影を一つに束ねる。」


ナナシの言葉に、三姉妹の瞳が夜の奥で光った。


「……村の灯の下に散った影は、村人一人一人の中で形を変えてる。声で残ったそれを、全部掬い取る。」


ナナシは立ち上がった。

梁の上の埃がわずかに落ちる。


「俺とプルリは村の中心を回る。ミミは耳で全ての残響を繋げ。ルルカは匂いと爪で“偽の影”を削ぎ落とせ。」



ナナシの背に、古びた短剣が銀の鈴のように震えた。




外はまだ夜だ。

だが遠雷が微かに響いている。

あの咆哮は、刻環十二聖王座《雷爪の咆哮バリシャ》の鼓動だ。


村の灯が呼ぶ。

影の奥で黄金の虎が嗤っている。


――雷爪の牙は、咆哮の向こうで息を潜めている。




ナナシは静かに目を伏せ、息を吐いた。


「影を裂くぞ。必ずだ。」


プルリ、ミミ、ルルカが獣のように低く声を重ねた。


「ぷる……かむ……!」


「ミミ……さく……!」


「ルルカ……つなぐ……!」


その声が納屋の中に響いた時、遠くで雷鳴が割れた。

夜気を裂き、村の屋根を滑り落ちる稲妻が一閃した。


それはまるで、遠くで虎が笑ったようだった。


《雷爪の咆哮バリシャ》。

刻環十二聖王座の一柱。

雷鳴を纏い、黄金の毛皮を揺らし、刻を統べる銀狼の主。


その牙を引きずり出すため、《無銘の牙》の狩りが始まる。


夜の底、獣の呼気と雷鳴が交わる。


雷爪の咆哮が、もうすぐこの闇に実体を与える。


裂け目の向こうで、銀の狼が低く吠えた。



――続く――




ここまでお読みいただきありがとうございます!


次話では、ナナシたちがどうやって《獣王子ビーストロード》の影を穿ち、裂け目を出現させることができるのか!!!


こうご期待ください!



小さな一歩ですが、やがて誰もが振り返る伝説の一頁になります。


さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!


引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』

略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ