第8話「刻環の獣影と牙磨きの焚火」
お疲れ様です!2回目の投稿です!!
前話を読んでない方はバックバックです(/・ω・)/
ナナシたちの時間軸では、まだ陽が登り切る前――新たに結ばれた「牙の誓い」を胸に、ナナシと三姉妹は今日も動き出します。
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、始まります。
モンスターたちの咆哮が消えた後の森は、昼なお暗い樹海の奥で、かすかな木漏れ日を受けて静かに呼吸をしていた。
森の片隅に、ぽつりと小さな焚火が燃えている。パチパチと薪が弾け、ほのかに立つ煙の匂いが獣の血の残り香を溶かしていく。
ナナシは腰を下ろし、焚火の前で小さな鍋を温めていた。
その周りには、プルリ、ミミ、ルルカ――モンスター三姉妹が、それぞれ戦闘の疲れを癒すように丸まっている。
プルリは甲皮を小枝で叩いて音を鳴らし、ミミは耳をくるくると動かして周囲の音を拾い、ルルカは焚火の影に溶け込むようにして尻尾を振っている。
ナナシは腰を下ろし、焚火の前で小さな鍋を温めていた。
その周りには、プルリ、ミミ、ルルカ――モンスター三姉妹が、それぞれ戦闘の疲れを癒すように丸まっている。
プルリは甲皮を小枝で叩いて音を鳴らし、ミミは耳をくるくると動かして周囲の音を拾い、ルルカは焚火の影に溶け込むようにして尻尾を振っている。
鍋の蓋を開けた瞬間、湯気の奥から立ちのぼるのは、肉と野菜が煮崩れ、スパイスと干し肉の旨味が溶け込んだ濃厚な香りだった。
ナナシは深く息を吸い込むと、思わず小さく笑う。
「……この匂いだ。どこにいようが、戦場だろうが、旅の途中だろうが――腹が満たされてなきゃ、牙も砥げねぇからな。」
木の匙で鍋を混ぜると、コトコトと音を立てて肉が崩れ、野菜の色が煮汁に溶けていく。
プルリがそっと鍋に顔を寄せ、目を輝かせた。
「ぷる……たべ……?」
「ミミ……にお……すご……。」
「ルルカ……ぐぅ……。」
ルルカの腹の音が、しずかな焚火の音に紛れて鳴った。
ナナシはくくっと喉を鳴らして笑い、匙ですくって味を確かめる。
干し肉の塩気が、柔らかくなった芋と森のキノコの土の香りを引き立て、わずかに混ぜた森の香草が後味を締める。
噛むほどに獣の脂が滲み出し、舌に重たいコクを残した。
「……うん。上出来だ。」
ナナシにとって、どれだけ戦が続こうが、腹が空いていては意味がない。
満たした胃袋からこそ、まともな一撃が生まれ、牙も爪も鋭くなる――そう信じている。
「お前らも覚えとけ。いいか――空腹の牙は、折れる。」
匙を鍋に置き、木の皿を三つ並べた。
「だから、食う。戦うために、まず食う。」
煮込みを豪快にすくってプルリ、ミミ、ルルカの皿に盛り付け、自分の皿にも山盛りによそう。
「ほら、遠慮するな。遠征の始まりは、まずは腹拵えだ。」
プルリが「ぷる……いただ……」と言いかけて、口いっぱいに肉を頬張った。
ミミは熱さに耳を伏せながらも、勢いよく煮込みをすすった。
「ミミ……あつ……でも……うま……!」
ルルカは皿に顔を突っ込み、尻尾を大きく振って喉を鳴らす。
「ルルカ……じゅわ……しあ……!」
ナナシも匙を握り、自分の皿の煮込みを一口、口に運ぶ。
旅の空気、森の冷たい湿気、それを一気に追い出すように、獣の脂が胃に落ちていく。
――美味い。
どんな街の高級料理にも負けない。
焚火と、獣の血と、塩気だけで煮込んだこの一皿が、ナナシにとっては何よりの戦の糧だ。
「……よし。」
煮込みを咀嚼しながら、先ほどの戦いを思い返す。
ナナシは匙を置き、三姉妹に視線を向ける。
「食いながらでいい耳を貸してくれ……少し、確認しとくか。お前ら、今日の戦い……どうだった?」
プルリは小さな前足を胸に当てて首をかしげた。
「ぷる……まえ……より……つよ……。」
ミミは耳をピンと立てて尻尾を揺らす。
「ミミ……きけ……た……いろ……いろ……きけ……た……!」
ルルカは焚火の影から飛び出し、爪をチラつかせた。
「ルルカ……きれ……た……すば……!」
ナナシは頬をかすかに緩めて、頷いた。
「……そうだな。お前らの連携は前よりずっと形になってきた。プルリの甲皮での受け、ミミの感知と指示、ルルカの影走り――誰が欠けても駄目だが、逆に三匹揃えば多少の雑魚ならまとめて狩れる。」
焚火がパチリと弾けた火の粉を、ルルカが前足で追いかけて跳ねる。
ナナシは続けた。
「だが……敵もバカじゃねぇ。お前らの牙が伸びりゃ、噛み砕けない骨を用意してくる。今回の雑魚も……普通の苔猪の群れじゃねぇ。気付いたか?」
プルリが小さく唸るように呟いた。
「ぷる……かた……かった……。」
「ミミ……おと……にぶ……かった……。」
「ルルカ……にお……ちが……。」
ナナシは、さすがだと内心で笑う。
「そうだ。おそらく、あいつらは強化されてる。《刻環十二聖王座》の一柱――【雷爪の咆哮】の眷属だろう。おそらく……その側近、あの獣王子と呼ばれるユニークモンスターの群れの一部だろう。」
焚火の光が、プルリの丸い目に映った。
「ぷる……バリ……シャ……?」
ミミが耳を伏せて、わずかに怯えた声を漏らした。
「ミミ……おお……きい……?」
ルルカが尻尾を膨らませて、低く唸る。
「ルルカ……かむ……?」
ナナシは火にくべた薪を組み替え、静かに言葉を選んだ。
「……バリシャは“刻を統べる王”の一柱だと言われている。だが姿を見た者はいない。言い伝えでは、
雷を呼ぶ爪を持ち、その咆哮は万の軍勢を失神させるとまで言われてる。」
焚火が、森の湿気を弾くように小さく音を立てた。
「そして……その側近の一体が獣王子。噂じゃ、強化ゴブリンの群れを従え、バリシャに代わって外の世界を探っているらしい。討伐というより調査だが……相手次第じゃ、こっちが獣になる必要がある。」
鍋の中身が煮立ち、香りが一層広がった。
プルリが小さく拳を作って、焚火の向こうにかざした。
「ぷる……たお……!」
ミミは耳を揺らして、鋭く息を吐いた。
「ミミ……きく……みつ……!」
ルルカは影の中で尻尾を跳ねさせる。
「ルルカ……かむ……まも……!」
ナナシは匙を取り、鍋を混ぜながら笑った。
「……いい目だ。だが、忘れんなよ。今回の相手は今までと訳が違う。やられるかもしれねぇし、戻れないかもしれねぇ。それでも……」
ナナシの声が焚火の音に溶けた。
「それでも、やるか?」
一瞬の沈黙。
だが、プルリが一歩前に出た。
「ぷる……やる……つよ……なる……。」
ミミが耳をピンと立て、真っ直ぐナナシを見た。
「ミミ……こわ……でも……きく……まも……。」
ルルカが影から飛び出して、ナナシの膝に頭を擦り付けた。
「ルルカ……かむ……ずっと……!」
ナナシは鍋の蓋を閉じ、焚火の薪を少し寄せた。
「……上等だ。いいか、お前ら。バリシャの依頼をこなしてクランに戻れたら……お前らはもう立派な冒険者だ。誰もお前らを馬鹿にはできねぇ。」
焚火の影が揺れ、三姉妹の小さな体が赤く照らされた。
「牙を磨け。爪を研げ。証明しろ……お前らが弱者じゃないってことをな。」
プルリが拳を握り、ミミが耳を震わせ、ルルカが低く唸った。
ナナシは木の皿に煮込みを盛り付け、三姉妹の前に置く。
「ほら、食え。腹が減ってりゃ戦えねぇ。まずはこれだ。」
「ぷる……たべ……!」
「ミミ……あつ……!」
「ルルカ……うま……!」
焚火のそば、小さな命が煮込みの湯気に埋もれて笑った。
ナナシは三匹の様子を見て、小さく息をついた。
――刻環十二聖王座。
その三番目に位置する一柱、雷爪の咆哮。
その牙を折れるのは、どこまで行っても“牙”と“爪”だけだ。
ナナシは木の皿を手に取り、湯気の向こうで、静かに決意を噛み締めた。
「……喰らい付くぞ。全部だ。」
焚火がはぜた音が、夜の森に響いた。
――つづく――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
遂に、モンスター三姉妹がクラン内で認められ始めました!
今回も、その第一歩です。(^^♪
小さな一歩ですが、やがて誰もが振り返る伝説の一頁になります。
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/