第7話「牙を磨く道すがら」
おはようございます!
いよいよ《獣王子【ビーストロード】》の調査開始です(/・ω・)/
ナナシたちの時間軸では、まだ陽が登り切る前――新たに結ばれた「牙の誓い」を胸に、ナナシと三姉妹は今日も動き出します。
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、始まります。
東の空にうっすらと雲が流れ、
街道を抜けた風が森の香りを運んできた。
ナナシの一行は、
その道の先を睨みながら静かに歩を進めていた。
目指すは《東の深森【シルヴァ・オリエンス】》。
噂に上がった《獣王子》――
刻環十二聖王座の一柱にして【雷爪の咆哮バリシャ】の側近とされる
魔物の調査。
ギルドの掲示板に赤封蝋で貼られた《緊急指定調査依頼》を手にしてから、
すでに半日ほどが経っていた。
背中に荷を背負い、腰には短剣。
視線は絶えず森の奥へ。
道の脇を進む三姉妹――
プルリは甲皮をわずかに鳴らし、
ミミは耳を前後に動かしながら森の囁きを拾い、
ルルカは時折影に潜っては、周囲の獣道を確かめて戻ってくる。
ナナシはそんな三匹を横目に、
鼻で小さく笑った。
(……牙も、爪も、少しはモノになってきた。)
――
■ 遭遇
木漏れ日の隙間を抜けると、
前方の茂みがわずかにざわめいた。
プルリがいち早く反応し、
甲皮の隙間を鳴らす音で合図を送る。
「ぷる……くる……!」
ミミが耳を立てた。
「ミミ……おと……よむ……!」
ルルカは影へ滑り込み、
ひそやかに後方へ回り込む。
茂みの奥から現れたのは――
森に潜む《苔猪》の群れだった。
大人の人間ほどの体躯を持つその猪たちは、
苔の生えた分厚い皮膚を擦り合わせ、
牙をむき出しにして突進する。
ナナシは一歩退き、
剣の柄に手を掛けながらも三姉妹に声を投げた。
「おい――どうする?」
プルリが、ミミが、ルルカがそれぞれ視線を交わし、
獲物を狩る牙を確かめるように息を整えた。
「ぷる……まえ……うけ……!」
「ミミ……おと……にがさ……!」
「ルルカ……うしろ……かむ……!」
ナナシの口元にわずかに笑みが浮かんだ。
「……いいだろ。やってみろ。」
――
■ 連携の牙
最初に動いたのはプルリだった。
苔猪の牙がこちらへ向いた瞬間、
プルリは甲皮をきしませながら真正面に躍り出る。
分厚い前足で地面を叩き、
突進を受け止める。
「ぷる……とめ……!」
ガリガリッ――!
苔猪の牙がプルリの防具にめり込み、
火花を散らした。
だが、彼女の甲皮の奥に埋め込まれた鉄板が、
その衝撃を全て殺す。
ミミは後方で耳を震わせ、
苔猪の咆哮を解析するように音を集めた。
「ミミ……おと……ふる……!」
鳴き声と足音の混ざるタイミングで、
残りの個体が側面から回り込もうとした瞬間――
ルルカが影から弾け出た。
「ルルカ……かむ……!」
影に溶けた姿は、
次の瞬間、苔猪の脇腹に爪を突き立てる。
肉が裂け、鳴き声が上がった。
プルリは防御だけではない。
正面の牙を受け止めたまま、
頭突きを繰り出す。
「ぷる……あた……!」
ズドン――!
「ぎゅもおおおおう!?”!」
衝撃が苔猪の脳天を打ち抜き、体勢が崩れたところに、
ミミの耳が震えた。
「ミミ……ひび……!」
共鳴する音が苔猪の鼓膜を打ち、
一瞬、意識が鈍る。
ルルカの影が再び跳ね、
後脚を切り裂いた。
ズシン……と苔猪の巨体が地面を揺らす。
すぐに残りの個体も、
プルリが受け止め、ミミが音を殺し、ルルカが牙を突き立てる。
牙と爪と音の連携。
かつてナナシが教えた基礎の、
その先の形が、今ここにあった。
――
■ ナナシの内心
ナナシは剣を抜かず、
ただじっと見届けていた。
(……以前なら、プルリが受け止めるだけで終わってた。
ミミもタイミングを外すことが多かった。
ルルカも単独で動きすぎて、孤立しがちだった。)
今の三姉妹は違う。
プルリが受け止めるだけじゃなく、
返す。
ミミは敵の呼吸を奪い、
ルルカが影を操る。
ナナシは小さく息を吐いた。
(……牙が、牙になってきた。)
――
■ 戦闘終了
苔猪の群れは、
地面に並んで動かなくなっていた。
プルリの甲皮は擦り傷だらけだが、
深手はない。
ミミの耳元も、擦り切れた皮をナナシが手当てしてやる。
ルルカは影から顔を出し、
まだ獲物がいないか森を見渡している。
「ぷる……まだ……?」
「ミミ……おと……しず……」
「ルルカ……もう……ない……」
ナナシは腰を下ろし、
倒れた苔猪の牙を短剣で確かめながら、
三姉妹を呼んだ。
「――集まれ。反省会だ。」
――
■ 反省会
獲物を囲み、
三姉妹はちょこんと並んだ。
ナナシは短剣を手の甲で拭い、
一本の枝を拾った。
「プルリ。」
「ぷる……?」
「正面の受け止めは悪くねぇ。
ただ、相手の牙の角度がずれたらどうなる?」
プルリは甲皮を鳴らし、首を傾げた。
「ぷる……ずれ……?」
「防具の隙間が裂かれる。
お前は重いから大丈夫だが、突進の反動は後ろに伝わる。
体勢を低くしろ。腰を落とすだけで力が逃げる。」
プルリは両手を広げて姿勢を真似した。
「ぷる……おと……す……!」
「そうだ。」
ナナシは枝を置き、
次にミミを見た。
「ミミ。」
「ミミ……?」
「お前は音で動きを止めたのは上出来だ。
ただ、鳴き声だけを狙うのは単調すぎる。
足音、草の擦れ、他にも潰せる音はある。」
ミミは耳を触りながら頷いた。
「ミミ……もっと……きく……!」
「そうだ。音を読め。殺せ。」
最後にルルカ。
「ルルカ。」
「ルルカ……?」
「影の動きは十分だ。
ただ、孤立するな。
お前が倒れてもプルリとミミは助けに行けねぇ。
影は繋げて動け。」
ルルカは尻尾をぴんと立てた。
「ルルカ……つな……ぐ……!」
ナナシは立ち上がった。
「いいか――お前らの牙はもう研ぎ始めたばかりだ。
鈍らせたら意味がねぇ。磨き続けろ。」
三姉妹は同時に吠えた。
「ぷる……かむ……!」
「ミミ……きる……!」
「ルルカ……さす……!」
ナナシは苔猪の牙を短剣で折り取り、
袋に詰めながら小さく笑った。
(牙を抜かれた奴らに、
牙を向けさせる。
――それが、俺の役目だ。)
森はさらに深く、暗くなっていく。
だが、その闇の先にあるのは――
《獣王子ビーストロード》の行方と《雷爪の咆哮バリシャ》の影。
牙を磨く道すがら、
三姉妹の目に宿る光は、
以前よりもずっと鋭かった。
(つづく)
ここまでお読みいただきありがとうございます!
遂に、モンスター三姉妹がクラン内で認められ始めました!
今回は、その第一歩です。(^^♪
小さな一歩ですが、やがて誰もが振り返る伝説の一頁になります。
今日は、筆のノリがいいのであともう1本投稿します!
投稿は17時10分予定です!
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/