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『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』  作者: 焼豚の神!
第2章:『雷牙の狩場 ―覇雷獅王との邂逅―』
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第1話「獣王子との邂逅を求めてー牙は磨いて力を蓄える!ー」

お疲れ様です!


ナナシたちの時間軸では、まだ陽が登り切る前――新たに結ばれた「牙の誓い」を胸に、ナナシと三姉妹は今日も動き出します。


最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――


牙の刻が、始まります。

―黎明の刻、《鋼鉄の杯(スチール・ゴブレット)》にて―

 黎明の刻〈クレーア〉――。

 それは、この大陸で一日の始まりを告げる白の刻だ。



 東の空を薄く滲ませる光が、まだ夜の残滓を追い払えないまま、しんと冷えた朝靄の中にゆっくりと溶けていく。


 ここは辺境都市ミルハイドの冒険者クラン《鋼鉄の杯(スチール・ゴブレット)》。

 街道の分岐点に築かれた堅牢な石造りの建物は、まだ夜が明けきらぬうちから、すでに軋む扉の音と、ランタンの火が仄かに灯る温かな空気に包まれていた。


 カウンターの奥、忙しく帳簿をまとめる受付嬢のルーシャは、早朝にも関わらず既に数件の依頼処理を終えたばかりだった。

 栗色の髪を後ろでまとめ、白い作業服の裾をさっと直すと、軋む床を横切る気配に顔を上げる。


 そこにいたのは、漆黒のローブを羽織った長身の青年――ナナシと、彼にぴたりと寄り添う三姉妹のモンスターだった。


 三姉妹は他種族の者たちにとっては異形の存在だ。

 だが、このクランではもうすっかり顔馴染みの存在であり、ルーシャ自身も彼女たちの成長を陰ながら気にかけていた。


 掲示板の前――張り出された新しい討伐依頼に視線を落とすナナシの背に、プルリ、ミミ、ルルカが寄り添う。

 湿気を含んだ羊皮紙が、朝の微風にかすかに揺れている。


「……ついに来たか。」


 低く息を吐いたナナシの声に、ルーシャは一瞬、手を止めた。

 その目が向ける先――赤い封蝋で厳重に封じられた《緊急指定討伐依頼》の文字が、まだ冷え切った空気の中で不気味に赤黒く滲んでいるようにさえ見えた。


 ルルカの尾がコツコツと床を叩く。プルリが瞳を細め、ミミは不安げに指先を噛んだ。


 そしてナナシの隣、がっしりとした体躯の男――元斥候のバズが声をかけた。


「見たか、ナナシ。とうとう“獣王子”だ。お前んとこの牙……試される時が来たんじゃねぇのか?」


 ナナシは鼻で笑うと、掲示板の封蝋に触れもせず、視線をルーシャに向けた。


「……ルーシャ、封を解け。内容を確かめる。」


 思わずルーシャは眉をひそめる。

 この封蝋は通常の依頼とは異なり、誰かが手を挙げるまで封が解かれない特別指定討伐――すなわち、未だ誰も手を挙げていないのだ。


「ナナシさん……本当にやるつもりなんですか……? “獣王子”は、ただのホブゴブリンの親玉じゃありません。群れを束ねる森の王……《雷牙の咆哮【バリシャ】》の眷属だって……。」


「知ってる。」


 ナナシは短く言い切り、三姉妹の方を振り返った。


「お前たち――どうする。」


 プルリが少しだけ首を傾け、丸い瞳を潤ませながらも、まっすぐ封蝋を睨む。


「ぷる……つよ……?」


 ミミが爪を握り締め、牙を覗かせて呟いた。


「ミミ……まけ……ない……!」


 ルルカは低く唸ると、尻尾を一閃させた。


「ルルカ……たおす……!」


 ナナシの口元がかすかに緩む。


「……なら決まりだ。」


「待ってください!」


 思わずカウンターから飛び出したルーシャの声が、冷えた空気を割った。

 その背後――奥の執務室から、重い木扉がきしりと開く。



 現れたのは、深い青の軍用コートを羽織った一人の女性だった。

 肩まで伸びた銀灰の髪をきっちりとまとめ、その鋭い眼差しには、冒険者として幾度も死地を潜り抜けた者にだけ許される凄みがあった。


 ミルハイド支部長――クラリッサ・ハーシュ。

 かつて銀等級(A)まで上り詰めた元冒険者であり、今や《鋼鉄の杯》を束ねる指揮官だ。


「……ルーシャ。落ち着きなさい。」


 クラリッサはゆっくりとカウンターに歩み寄り、封蝋に目を落とすと、ナナシと向き合った。




「ナナシ。久しいわね。“獣王子”をやるつもり?」


「情報が欲しいだけだ。……群れの調査と、端を潰すだけ。」


「端、ね。」


 クラリッサは無表情のまま、ふっと目を細めた。


「噂じゃ“獣王子”は《雷牙の咆哮「バリシャ》の側近の一体だと言われている。あなたの牙……いまのままで折れないかしら?」


 ナナシは無言で微かに肩を竦める。

 背後で、プルリがそっとルルカとミミの爪を握りしめていた。

 怯えるどころか、どこか誇らしげなその姿に、ルーシャの胸が少しだけ熱くなる。


「三姉妹はまだ《擬人化》の段階を超えていないはず。

 あの森に踏み込めば、群れを束ねる支配者の“刻”に触れるかもしれない。

 ……それでも行くの?」


 クラリッサの問いに、ナナシは真っ直ぐに答えた。


「刻に触れるのを恐れて牙を引っ込めるなら――初めから牙を持つ意味はない。」


 低く響くその声は、かつての銀等級のクラリッサにさえ一瞬、若かりし頃の血潮を思い出させる力を帯びていた。


 クラリッサは息を吐き、ゆっくりと封蝋へ手を伸ばした。


 パチン。


 赤い封蝋が割れる音が、静かなロビーに小さく響いた。






♢ 緊急指定討伐依頼《獣王子》♢

【依頼内容】

――東の黒獣森にて、《獣王子ビースト・ロード》と呼ばれる群れの支配種の目撃情報あり。

刻の聖典ゾディアック・グリモワールによると、当該個体は《寅刻トラトキ》に連なる雷爪の守護眷属である可能性が高い。


【目的】

1)群れの規模調査

2)強化ゴブリン群れの局地的殲滅

3)《獣王子》個体の所在確認(討伐は任意)


【報酬】

――調査結果に応じて変動。危険度AA相当。


【特記】

――調査対象区域は、《十二守護者聖典ゾディアック・グリモワール》に記された禁域の一部と重なる。慎重を要すこと。無理なら撤退も視野に入れること。







「……これが今回の全容よ。」


 クラリッサは依頼書をナナシに差し出しながら、ゆっくりと三姉妹を見渡す。


「プルリ、ミミ、ルルカ……あなたたちは、ここが“牙の試練”になる。

 この一歩を越えれば、ただの牙じゃない――真の牙になる。」


 プルリが小さく瞬き、震える声で応える。


「ぷる……つよ……なる……!」


 ミミも爪を握り直した。


「ミミ……まけ……ない……!」


 ルルカは尾を高く立て、低く唸る。


「ルルカ……たおす……!」


「……いい返事ね。」


 クラリッサは微かに笑うと、奥の執務室へ向かいながら背を向けた。


「ナナシ。必ず戻ってきなさい。あの森はただの森じゃない……刻に選ばれない者を喰らうわ。」


 ナナシは短く頷き、掲示板の前からルーシャを振り返る。


 ルーシャは胸に手を当て、かすかに笑みを浮かべた。


「……気をつけて、みんな。」


 外の扉を開けば、白み始めた空が、静かにその先の“刻”を示していた。


―刻の伝承と牙の物語、ここから始まる。―



ここまでお読みいただきありがとうございます!


遂に、モンスター三姉妹がクラン内で認められ始めました!


今回は、その第一歩です。(^^♪


小さな一歩ですが、やがて誰もが振り返る伝説の一頁になります。


次回、さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!




引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』


略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/



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