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第19話「牙を磨く獣たち──初めての称賛」

お疲れ様です!


ナナシたちの時間軸では、まだ陽が登り切る前――新たに結ばれた「牙の誓い」を胸に、ナナシと三姉妹は今日も動き出します。


最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――

牙の刻が、始まります。

――《黎明の刻》。


まだ朝陽も顔を出さぬ静けさの中、ナナシの家では、小さな準備の気配がそっと動き出していた。


「ぷる……ぷる……なん……で……おき……る……?」


「ミミ……まだ……ねむ……い……」


「ルルカ……ふとん……きもち……」


三匹の獣たちが、布団の上で目をしぱしぱさせている。





ナナシは彼らの寝床の隅に腰掛け、にやりと笑って声をかけた。


「起きろ。今日は、お前らの『大金星』の報告に行く。」


「ぷる……ほう……こく……?」


「ミミ……ほう……しゅう……?」


「ルルカ……おか……ね……?」


ナナシは、プルリの頭をくしゃりと撫でると、低く告げた。


「そうだ。倒した分の報酬を受け取る。これが、冒険者としての『生きる証』だ。」


三匹は顔を見合わせ、尻尾や体を小さく揺らした。




――

■準備


収納箱(カイシュウボックス)には、すでにホブゴブリンの頭と証票が詰められている。


血抜きは済ませてあるが、まだ魔獣特有の生臭さが微かに漂う。


ナナシは革の手袋を締め直すと、奥で荷造りをする三匹を見やった。


プルリは背中に小さな布袋を背負い、ミミは肩に斜め掛けの紐袋をかけている。ルルカは小さな腰袋を腰鱗に巻き付けて、尻尾でそっと固定していた。


「……よし。忘れ物はないな?」


「ぷる……だい……じょぶ……!」


「ミミ……いけ……る……!」


「ルルカ……おか……ね……ほし……!」


ナナシは小さく笑い、木箱を片手で担ぎ上げた。


「じゃあ、出るぞ。クランは久々だからな……お前ら、しっかり挨拶しろよ。」






――

■街へ



森を抜け、獣道を越えると、遠くに石造りの砦のような建物が見えてくる。


《冒険者ギルド〈鋼鉄の杯(スチール・ゴブレット)〉》。


この街では、冒険者が集い、魔物を討伐し、報酬を得る場所――いわば、冒険者にとっての根城だ。


門をくぐると、まだ朝早い時間帯にもかかわらず、玄関ホールには人影がちらほら見えた。


大剣を背負った若い男、傷だらけの盾を磨く壮年の冒険者、受付前で書類に目を落とす少女。


木の床が軋む音に、三匹は小さく肩を寄せ合い、緊張で尻尾を揺らした。


「ぷる……おお……い……ひと……」


「ミミ……どき……どき……」


「ルルカ……ひと……こわ……」


ナナシは後ろを振り返り、顎をしゃくってやった。


「大丈夫だ。胸張ってろ。お前らは――誇れる牙を手にした。」







――

■受付での邂逅


カウンターには、青いリボンをつけた栗色の髪の受付嬢が一人、書類を整理していた。


ナナシが近づくと、すぐに顔を上げ、ぱっと花が咲くような笑みを見せる。


「あら……ナナシさんじゃないですか! ずいぶん久しぶりですね。」


「おう、ルーシャか。相変わらず暇そうだな。」


「ひどいですよ、仕事中ですってば!」


ルーシャは頬を膨らませつつ、ちらりとナナシの背後を見やった。


「……後ろの子たち、もしかして……?」


「こいつら、俺の従魔だ。」


プルリ、ミミ、ルルカは慌てて頭を下げた。


「ぷる……ごあい……さつ……」


「ミミ……よろしく……」


「ルルカ……ぺこ……」


ルーシャは目を丸くし、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。


「……かわいい……! え、まさか従魔契約したんですか?」


「ああ。そいつらが――今回の『獲物』の主役だ。」


そう言って、ナナシは収納箱をどん、とカウンターの横に置いた。







蓋を開けると、ホブゴブリンの頭と、しっかりと刻印の入った証票が覗く。


受付前にいた数人の冒険者たちが、ざわっと空気を震わせた。


「……え、ホブゴブリン……もしかしてゴブリン小隊ですか!?」


「小隊ってことは……何匹だ……?」


「後ろの……あの小さな魔物たちが……?」


ルーシャは書類をそっと机に置き、ゆっくりと言葉を探す。


「……ナナシさん、まさか、これ……この子たちが倒したんですか!?」


ナナシはにやりと笑って、後ろの三匹に目をやった。


「そうだ。こいつら三匹で、俺は手は出してねぇ。」



ざわっ――


カウンター奥の受付嬢たちや、順番待ちの冒険者が一斉に顔を上げる。


「嘘だろ……」


「まだ小さな魔物じゃねぇか……」


「訓練されりゃ……ホブゴブリン小隊も落とせるのか……?」


プルリが不安そうにナナシを見上げる。


「ぷる……ぷる……だい……じょぶ……?」


ナナシは、そっと頭を撫でてやる。


「胸張っとけ。これがお前たちの牙の証明だ。」


ルーシャは、目を丸くしたまま書類を引き寄せ、ペンを走らせた。


「すぐに鑑定と報酬の計算をしますね……! お疲れ様でした!」


三匹は互いの体を寄せ合い、小さく尻尾を振りながら顔を見合わせた。


「ぷる……がん……ば……た……!」


「ミミ……ほう……しゅう……!」


「ルルカ……おか……ね……!」


その小さな声は、確かにクランの空気に新しい風を吹き込んでいた。


(続く)



ここまでお読みいただきありがとうございます!

遂に、モンスター三姉妹がクラン内で認められ始めました!


今回は、その第一歩です。(^^♪


小さな一歩ですが、やがて誰もが振り返る伝説の一頁になります。

次回、さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!


引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』

略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/



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