第18話「牙を磨く獣たち──帰還と祝福」
お疲れ様です!
ナナシたちの時間軸では、まだ陽が登り切る前――新たに結ばれた「牙の誓い」を胸に、ナナシと三姉妹は今日も動き出します。
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、始まります。
――《宵闇の刻》。
森の奥で交わされた血の戦いは、静寂に溶けていった。
ホブゴブリンの死骸を背に、三匹の小さな獣たち――
プルリ、ミミ、ルルカは、血と泥にまみれた姿でナナシの背を追っている。
勝利の余韻が、まだ熱く胸に残っていた。
「ぷる……ぷる……つか……れた……」
「ミミ……はら……へ……」
「ルルカ……おふ……ろ……」
三匹が疲れ切った声を漏らすと、ナナシは苦笑しながら振り返る。
「贅沢言えるほどには強くなったってことだ。」
額にかいた血と汗を拭い、森の小道を抜ける。
朽ちかけた木橋を渡り、深い霧の先に小さな家が灯りを灯していた。
それが、彼らの帰る場所――ナナシの住処だった。
――
■帰還
自宅に着くや否や、三匹は我先に玄関に飛び込む。
プルリがぷるんと揺れて部屋の真ん中に鎮座すると、ミミは尻尾をぶんぶん振りながら床に転がり、ルルカは鱗をきしませて入口で一息ついた。
ナナシは扉を閉めると、額の汗をもう一度拭い、吐息をつく。
「……まずは風呂だな。」
三匹は同時に顔を上げ、瞳をきらりと輝かせる。
「ぷる……おふ……ろ……!」
「ミミ……あわ……!」
「ルルカ……あった……かい……!」
――
■湯気の中の安息
浴室に大釜を据え、薪をくべる。
湯気が立ち昇ると、木の壁に張り付いた水滴がぱちりと弾けた。
ナナシは桶を満たし、まずプルリを抱き上げる。
「お前は……溶けるなよ?」
「ぷる……ぷる……だいじ……ょ……ぶ……!」
ぷるん、と丸い体が湯に浸かる。透明な粘膜が湯面で煌めき、うっとりと小さく震えた。
「ぷる……あった……かい……」
ミミは大釜の縁に前脚をかけ、尻尾を湯の中で揺らす。
「ミミ……きもち……いい……」
ルルカは慎重に湯に腹を浸けると、鱗が湯気を吸って柔らかくなる。
「ルルカ……ぬく……ぬく……」
ナナシも腰布をほどいて、湯に肩まで浸かった。
背中に刻まれた従魔の紋様が、湯気に滲む。
(……こいつら、ほんとによくやったな。)
ナナシは湯の中で、小さく笑った。
――
■宵の献立
風呂を上がると、三匹は湯気にくるまれたようにふわふわとした顔で部屋に戻った。
ナナシは囲炉裏に火を移し、調理台に立つ。
「さて……今日はご馳走にしてやるか。」
鍋に川魚を並べ、腹に香草を詰める。
茸と山菜を刻み、塩と香辛料をまぶすと、鉄鍋にくべてじわりと火を通す。
「ぷる……いい……にお……い……」
「ミミ……はら……へ……った……」
「ルルカ……ぐる……ぐる……」
ご飯代わりの《雪穂麦》を鉄鍋で蒸し上げる。
もっちりとした食感に、粘りと甘味が口に広がる。
汁物は《岩根茸》と《青茎菜》を刻み、味噌代わりの《岩塩糀》で溶く。
だしの香りが部屋いっぱいに広がると、三匹の尻尾が揺れた。
ナナシは一口味見をする。
(……悪くねぇな。)
――
■食卓のひととき
木の器に盛り付けると、三匹は我慢できずに皿へと顔を近づける。
「ぷる……ぷる……!」
「ミミ……ぱく……ぱく……!」
「ルルカ……もぐ……!」
ナナシも箸を取り、ゆっくりと《雪穂麦》を口に運ぶ。
(……甘味、悪くない。だが、もう少し岩塩糀を足せば良かったか……。)
川魚の香草蒸しにかぶりつき、骨を器用に避けながら味わう。
(……皮目、いい焼き。茸は……うん、だし吸ってるな。)
汁をすすると、岩根茸の歯触りが心地よい。
(……これだ。負けを乗り越えた後の飯は、格別だな。)
三匹は口いっぱいに飯を詰め込みながら、尻尾を振っていた。
――
■牙を磨くもの
食後、囲炉裏の火が小さくなった頃。
ナナシはステータスプレートを取り出し、三匹を順番に呼んだ。
「さて……今日の戦果を見せてみろ。」
プルリが前に出る。プレートに触れると、淡い光が浮かび上がる。
【プルリ】
Lv:5
スキル:溶解触手(進化)、粘膜再生(NEW)、《吸着膜〈アブソーバー〉》(NEW)
「ぷる……ぷる……ふえ……た……!」
ミミも続く。
【ミミ】
Lv:5
スキル:強爪撃(進化)、聴覚感知(NEW)、《影走〈シェードラン〉》(NEW)
「ミミ……みみ……つよ……く……!」
ルルカが最後に、鱗をきしませて札に触れた。
【ルルカ】
Lv:5
スキル:鱗硬化(進化)、尾撃(NEW)、《守護鱗〈ガーディアンスケイル〉》(NEW)
「ルルカ……まも……る……もっと……!」
三匹は互いの顔を見合わせ、小さな体を寄せ合う。
「ぷる……ミミ……ルルカ……つよ……!」
「ミミ……ぷる……ルルカ……まけ……ない……!」
「ルルカ……ぷる……ミミ……まも……る……!」
ナナシは湯気の残る頬を掻きながら、小さく笑った。
「……あのホブゴブリンを越えたか。いい牙だ。」
囲炉裏の火がパチリと鳴った。
この夜、小さな獣たちは、また一つ確かな強さを刻んだのだった。
(続く)
ここまでお読みいただきありがとうございます!
特訓の成果が出たようでよかったですね!
今回も、ナナシと三姉妹にとって“信頼”を深める大切な時間。
小さな一歩が、やがて誰もが振り返る伝説の一頁になります。
次回、さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/