第17話「牙を磨く獣たち──再戦の刻」
お疲れ様です!
ナナシたちの時間軸では、まだ陽が登り切る前――新たに結ばれた「牙の誓い」を胸に、ナナシと三姉妹は今日も動き出します。
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、始まります。
――黎明の刻、深い霧の彼方で鳥の声が鳴き始める。
鍛錬場の空気には、雨上がりの湿気が漂い、土の匂いが立ち込めていた。
プルリ、ミミ、ルルカ――
三匹の小さな獣たちは、ナナシの前に並んでいる。
目には隈が浮かんでいる。連日の鍛錬の証だ。
けれども、その足取りは一歩たりとも揺らがない。
ナナシは腕を組み、ゆっくりと三匹を見渡した。
「……五日だ。よく耐えたな。」
プルリのゼリーの体が、小さく震えながらも膨らむ。
「ぷる……ぷる……もっと……とど……く……!」
ミミは鋭い爪を立て、尾をピンと立てた。
「ミミ……もっと……はや……ミミ……まけ……ない……!」
ルルカは鱗を小さく軋ませ、尾を土に叩きつける。
「ルルカ……まも……る……かた……い……まけ……ない……!」
ナナシは口の端をわずかに吊り上げた。
「いい目だ。」
腰に下げた短剣を抜き、鍛錬場の中心に突き立てる。
「……これなら、あのホブゴブリン共と再戦してもいいだろう。」
三匹は顔を見合わせた。
そして同時に、小さな声を合わせる。
「ぷる!」「ミミ!」「ルルカ!」
――
■再戦の地
深い森の奥。
一度敗北を刻んだ《獣痕の森》。
月を隠す雲が割れ、銀の光が苔むした地を照らす。
プルリ、ミミ、ルルカは、ナナシの背を追って小さく息を弾ませながら歩いていた。
一度踏み込んだ茂みは、先日の戦いの痕を残している。
折れた木々。踏み荒らされた土。散らばる赤黒い血痕。
ナナシは足を止め、三匹を振り返った。
「思い出すか?」
プルリがぷるんと体を揺らす。
「ぷる……ここ……たお……れた……」
ミミが耳を伏せ、尻尾を振る。
「ミミ……いた……かった……」
ルルカは鱗を鳴らし、低く唸る。
「ルルカ……まけ……ない……もう……」
ナナシは無言で頷き、手をひらりと振った。
「……行け。」
――
■再戦
先頭を切ったのはミミだった。
低く身を伏せ、闇に溶け込む。
木陰の奥に、粗野な笑い声が聞こえる。
「ギギ……ギャア……!」
――ゴブリンの小隊だ。その中心に、先日の因縁、ホブゴブリンの姿。
魔力の気配が肌を刺す。ホブゴブリンは牙を剥き、低い咆哮をあげた。
「グルル……ギシャアア……!」
ミミは牙を鳴らす。
「ミミ……やる……!」
プルリとルルカも左右に散開した。
森の影を縫って、三匹は小さく唸る。
ナナシは遠くの木の上から、瞳を細めて彼らを見つめた。
(……やれるか? いや、やってみせろ。)
――
■知恵と連携
先に動いたのはプルリだった。
ぷるん、と透明な体を伸ばし、低木の隙間から触手を走らせる。
「ぷる……ぷるぷる……とど……け……!」
ぷち、と音を立てて、先頭のゴブリンの足首を絡め取った。
悲鳴をあげる間もなく、溶解液がにじむ。
「ギィィ……!?」
そこへ、ミミが疾風のように飛び込んだ。
「ミミ……はや……あて……!」
背を丸め、爪でゴブリンの首を裂く。
返す刃のように、もう一体のゴブリンを飛び越え、後頭部を打ち抜いた。
「ギャアア……!」
だが――森の奥から、重い足音が迫る。
ホブゴブリンが吠えた。
右手には粗雑な棍棒、左手には小さな魔法陣が灯る。
「グルル……ギャオオ……!」
――炎の弾が、ルルカを目がけて飛んだ。
ルルカは咆哮を上げ、両腕を交差させる。
「ルルカ……まも……る……かた……い……!」
鱗が火花を散らし、熱を抑え込む。
だが完全には防ぎきれない。尻尾で土を叩き、衝撃を逃がす。
「ギッ……ギィィ……!」
ホブゴブリンが再度吠え、突進してくる。
――
■覚悟の咆哮
プルリが残った触手をホブゴブリンの足元へ伸ばした。
「ぷる……ぷるぷる……とど……け……とけ……!」
しかし、ホブゴブリンの棍棒がそれを振り払い、プルリは弾かれ転がる。
「ぷる……ぷる……!」
ミミが間髪入れずに飛び込む。
爪がホブゴブリンの腕を裂くが、分厚い皮膚は深くは裂けない。
「ミミ……まけ……ない……!」
ルルカが横から体当たりを仕掛ける。
鱗の塊が衝撃を伝え、ホブゴブリンの腹を叩く。
「ルルカ……まも……る……けす……!」
だが、重さの差は歴然だ。
ホブゴブリンが唸り声をあげ、棍棒を振り下ろす。
プルリが触手を再び絡めた。
ミミが背後から跳躍し、喉元に爪を突き立てる。
ルルカは正面から体当たりで膝を折らせる。
――息が合った。
ホブゴブリンの咆哮が、次第に低くなる。
棍棒が地に落ち、土を叩いた。
「ギ……ギャア……!」
最後の一撃は、三匹の声が重なった。
「プル!」「グルル!」「シャア!」
ホブゴブリンの首筋が裂け、血飛沫が葉を染める。
――勝った。
――
■獣たちの歓喜
ホブゴブリンの巨体が土に沈むと、三匹はその場に座り込んだ。
肩で息をしながら、互いの顔を見て、小さく声をあげる。
「ぷる……ぷる……かった……!」
「ミミ……かった……まけ……ない……!」
「ルルカ……かて……た……!」
ナナシは木の上からそれを見ていた。
ゆっくりと枝を踏み、地面に降り立つ。
血の匂いが漂う中、三匹が駆け寄ってくる。
プルリがぷるんと揺れながら、触手を差し出す。
ミミが牙を見せて、嬉しそうに尾を振る。
ルルカが小さく鳴き、尻尾で地面を叩いた。
ナナシは腕を組み、にやりと笑った。
「……やるじゃねぇか。」
三匹の瞳が輝く。
森の奥、赤く染まった土の上。
小さな獣たちの牙は、確かに鋭く光り始めていた。
(続く)
ここまでお読みいただきありがとうございます!
特訓の成果が出たようでよかったですね!
今回は、ナナシと三姉妹にとって“信頼”を深める大切な時間。
小さな一歩が、やがて誰もが振り返る伝説の一頁になります。
次回、さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/