第15話「牙を磨く獣たち──初めての敗北」
お疲れ様です!
ナナシたちの時間軸では、まだ陽が登り切る前――新たに結ばれた「牙の誓い」を胸に、ナナシと三姉妹は今日も動き出します。
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、始まります。
黎明の光が森の端を染めた頃、ナナシは静かに森の奥へ足を踏み入れた。
その背後には、すでに五日間の鍛錬を耐え抜き、確かな成長を刻んだ三匹の従魔――
スライムのプルリ、コボルトのミミ、リザードのルルカ――が、小さく息を切らせながらついてくる。
五日前に比べれば、その足取りは力強く、眼差しには獣の光が宿りつつあった。
ステータスも確かに成長を刻んでいる。
■ プルリ Lv.2 → Lv.4
・HP:14 → 18
・魔力:25 → 30
・特性:【溶解】【擬態】【魔力吸収(低)】
■ ミミ Lv.2 → Lv.4
・HP:19 → 24
・攻撃:14 → 19
・敏捷:13 → 17
・特性:【追尾嗅覚】【夜目】【急所感知(低)】
■ ルルカ Lv.2 → Lv.4
・HP:20 → 26
・攻撃:18 → 24
・防御:12 → 16
・特性:【尻尾打撃】【鱗再生】【硬鱗化(低)】
「これなら、もう一匹二匹のゴブリンくらい、余裕で叩けるだろう。」
ナナシが振り返って目を細めると、三匹は同時に頷いた。
「ぷる……ぷる……まけ……ない……」
「ミミ……つよ……ゴブ……かむ……!」
「ルルカ……たお……す……まも……る……」
林の奥、倒木の向こうに小さな影が蠢くのが見えた。
数匹のゴブリン。そして、その中央に、一際大きな影――
背中にボロ布を纏い、手には骨の杖を握るホブゴブリンが立っている。
「……面白ぇのが混ざってんな。」
ナナシは目を細め、顎をしゃくった。
「行け。お前らの“牙”を見せてみろ。」
三匹は小さく鳴いて、林を駆けた。
――
ゴブリンの群れに突っ込むのは、まずミミだった。
素早い足で翻弄し、爪で喉をかすめる。
その隙に、ルルカが後ろから尾を叩きつけてゴブリンを弾き飛ばす。
プルリは一歩後方で体をぷるぷると膨らませ、魔力を纏わせている。
「ぷる……ぷるぷる……とけ……る……!」
小さな体から伸びた触手が、弾かれたゴブリンの脚に絡み、じわりと溶かしていく。
小競り合いのような戦いは、三匹にとってはもはや恐れるものではなかった。
だが――
「ギィッ!」
ホブゴブリンが杖を掲げた瞬間、空気がピリリと裂けた。
雷光のような魔力が弾け、プルリの触手を弾き飛ばす。
「ぷる……!?」
ミミが驚きの声を漏らす間に、ホブゴブリンは何事か呪文を吐き、足元のゴブリンに赤黒い光を纏わせる。
強化されたゴブリンが吠え、勢いを増してミミに迫った。
「ミミ……くる……!」
爪を振りかざすが、相手の力は想定以上だ。
弾かれ、地面に転がるミミ。すかさずルルカが前に立つ。
「ルルカ……まも……!」
しかしホブゴブリンは再び杖を振り、地を這う火花を放つ。
火花がルルカの足元で弾け、硬鱗を貫く熱に、ルルカは苦しげに声を上げた。
プルリはなんとか起き上がり、再度触手を伸ばすが、魔力の奔流に触れるたびに溶解液が霧散していく。
「ぷる……ぷるぷる……とど……か……ない……!」
ミミが立ち上がり、息を荒くしながらも再度前へ出る。
だが、相手の強化されたゴブリンの牙が、ミミの肩に食い込んだ。
「ミ……ミミ……!」
必死の形相で尻尾を打ちつけたルルカが、ようやくゴブリンを弾き飛ばす。
だが、その間にホブゴブリンは後方へ下がり、再度魔力を練っている。
ナナシは遠目に目を細めた。
(……まだダメだ。足りねぇ。技も、息も、恐怖も。)
「戻れ!」
一喝の声に、三匹は名残惜しげに睨みつつも、よろけながらナナシの背後へ戻った。
ホブゴブリンはしばし睨んだ後、残ったゴブリンを引き連れ森の奥へ姿を消した。
静寂が戻る。
三匹は荒い息を吐き、地面に座り込んだ。
――
ナナシは木の幹に背を預けて腕を組んだ。
「……さて。今の敗因はなんだと思う?」
プルリが小さく震えながら言葉を探す。
「ぷる……ぷる……ちから……たり……ない……」
ミミは爪をじっと見つめる。
「ミミ……はや……でも……あた……ら……ない……」
ルルカは両手の鱗を擦りながら、ゆっくり口を開く。
「ルルカ……まも……れ……ない……もっと……かた……く……」
ナナシは三匹を順番に見つめ、静かに言葉を投げた。
「そうだ。相手は群れで来た。しかも一匹が強化した。その上で魔法まで使った。」
三匹は顔を上げる。
「ぷる……?」
「ミミ……?」
「ルルカ……?」
「力だけじゃ足りねぇ。速度だけでも、硬さだけでもダメだ。お前たちの“強み”を見極めろ。
足りねぇのは何だ。どうすりゃあいつらに勝てる?」
三匹は互いに顔を見合わせ、また自分の身体を見下ろした。
プルリが最初に震えながら声を出す。
「ぷる……ぷる……とけ……とど……か……ない……ぷる……なが……く……とど……く……」
ナナシは頷く。
「距離を制す、か。いい。お前はもっと魔力を伸ばせ。」
次にミミが息を整え、小さく牙を鳴らした。
「ミミ……もっと……はや……よけ……さけ……あた……る……!」
ナナシの目が細まる。
「動きの質を上げる、か。いいだろう。」
ルルカは尻尾を叩き、小さくうなった。
「ルルカ……かた……い……もっと……いた……く……ない……」
「防御を極める、だな。」
ナナシは三匹の頭を順に叩いた。
「足りねぇのはそこだ。あのホブゴブリン、次はお前たちが叩く。
明日からまた鍛えるぞ。距離、速度、防御。徹底的にだ。」
三匹は息を荒くしながらも、小さく声を重ねた。
「ぷる!」「ミミ!」「ルルカ!」
林の中に、小さな誓いの声が重なる。
(――牙を磨け。次は、勝つ。)
ナナシの目が細く笑みを刻むと、森を吹き抜ける冷たい風が、獣たちの決意をすくい上げた。
(続く)
ここまでお読みいただきありがとうございます!
小さな一歩が、やがて誰もが振り返る伝説の一頁になります。
次回、さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/