第14話「牙を磨く獣たち──帰還と休息」
お疲れ様です!
ナナシたちの時間軸では、まだ陽が登り切る前――新たに結ばれた「牙の誓い」を胸に、ナナシと三姉妹は今日も動き出します。
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、始まります。
初めての血の匂いを刻んだ密林道から、ナナシと三匹の従魔はゆっくりと帰路についた。
ぷるぷると震えながらナナシの背にくっついて跳ねるプルリ。
尻尾を時折振りつつ、足取りの重いミミ。
疲れたのか、ときどき立ち止まっては息を吐くルルカ。
それでも、三匹の瞳はどこか誇らしげに輝いていた。
ナナシは道すがら、ふっと笑った。
あの小さな身体が初めての“牙”を手にしたことが、彼の胸にも小さな火を灯していた。
――
家に戻ると、いつもの木造りの小さな扉を開け放ち、まずは汚れた体を休めさせた。
「よし、まずはステータスを確認してみろ。」
ナナシの声に、三匹が小さく「ぷる…」「ミミ…」「ルルカ…」と頷く。
ナナシが手を翳すと、簡易的なステータスプレートが薄い光と共に浮かび上がる。
■ プルリ Lv.1 → Lv.2
・HP:12 → 14
・魔力:23 → 25
・耐性:微増
・特性:【溶解】【擬態】(維持)
■ ミミ Lv.1 → Lv.2
・HP:16 → 19
・攻撃:11 → 14
・敏捷:12 → 13
・特性:【追尾嗅覚】【夜目】(維持)
■ ルルカ Lv.1 → Lv.2
・HP:18 → 20
・攻撃:15 → 18
・防御:10 → 12
・特性:【尻尾打撃】【鱗再生】(維持)
小さな変化だが、確かに数値は上がっている。
「ぷる……ぷるぷる……ぷる……つよ……なっ……た……!」
「ミミ……つよ……ミミ……もっと……!」
「ルルカ……これ……つぎ……がんば……!」
三匹は小さな声でお互いのステータスを指さし合いながら、まるで子供のように跳ねたり尻尾を振ったりしている。
ナナシは微かに笑って腕を組んだ。
「これが血の味だ。怖かっただろうが、牙を振るった分、ちゃんと強くなる。忘れんなよ。」
ぷるぷる震えるプルリが小さくナナシに擦り寄った。
「ぷる……ぷるぷる……ナナシ……ぷる……すき……」
ミミも小さな爪でナナシのズボンをちょいちょいと引っ張った。
「ミミ……つぎ……もっと……がんば……!」
ルルカは尻尾を畳の上でとんとんと叩き、目を細めた。
「ルルカ……つよ……ナナシ……まも……る……」
――
「さて……まずは汚れ落とすか。」
ナナシはそう言って、魔暖炉の火を少し強め、大きめの風呂にお湯を溜めこんでいく。
普段は一人だから、あまり長湯はしないが、今日は特別だ。
ゴブリンの血と泥を落とすには、大量のお湯と湯船が必要だ。
「ほら、順番に入れ。」
湯を沸かすと、プルリが真っ先にとぷりと飛び込んだ。
「ぷる……ぷるぷる……あったか……ぷる……」
小さな水音に混じって、ぷるぷると体を伸ばしたり縮めたりしている。
湯に溶けてしまいそうなほど、気持ちよさそうだ。
ミミは少しおっかなびっくりで足をつけると、すぐに「ふぅ…」と声を漏らした。
「ミミ……あった……か……きもち……」
ルルカは一瞬湯に鼻先をつけて匂いを嗅いでから、そっと湯に浸かる。
「ルルカ……きもち……いい……ぽか……」
ナナシはそれを見届けながら、自分の腕に巻いた包帯を外す。
従魔契約の跡はまだ薄く残っていたが、痛みはもうない。
(こいつらが、俺の命を繋ぐ。俺はこいつらの命を守る。)
心の中で、小さく誓いを重ねる。
――
湯上がりには、ふわふわの布で三匹の体を優しく拭いてやる。
プルリは拭いてもすぐぷるぷるに戻るが、火照った体が心地よいのか、ナナシの膝で丸く揺れている。
ミミは耳をナナシの指で撫でられると、小さな声で「きもち…」と呟く。
ルルカは喉を小さく鳴らしながら、尻尾をとんとんと床に叩いていた。
――
風呂を終えたら、次は腹を満たす番だ。
「今日は頑張ったんだ。いいもん食わせてやる。」
ナナシはそう言って、保存していた白銀米と大根に似た“タルダ根”、魚の干物“ギルス干し”を取り出す。
「よし、今日は“白銀炊き”と“タルダ根味噌汁”、それに“ギルス干しの炙り”だ。」
焚き火台に鍋をかけ、白銀米をといで火にかける。
白銀米は炊き上がると、ふわりと甘い香りが立ち上がる。
魔物の体でも消化しやすいよう、少し柔らかめに炊きあげるのがナナシ流だ。
味噌汁は、タルダ根を薄く切り、獣骨の出汁で煮込む。
香草をひとつまみ、味噌を溶かすと、立ち上る湯気にミミの鼻がひくひくと動いた。
干物のギルスは、外側をぱりっと炙り、内側はふっくらと。
塩をひとつまみ、ほんの少し柑橘“ユカの実”を搾って香り付けする。
ナナシは箸を握り、一口。
(……ん、白銀米は悪くねぇな。柔らかすぎないし、甘みもちゃんと出てる。)
タルダ根の味噌汁を啜ると、鼻の奥に獣骨のコクが残る。
(……味噌があとひと匙多くても良かったな。次は少し濃い目にしてみるか。)
ギルス干しをかじると、表の焦げ目の香ばしさと中の脂が舌に絡む。
(……お、こっちは上出来だ。ユカの香りも正解だな。)
プルリが小さな身体を揺らしながら、ご飯をぷるぷると飲み込む。
「ぷる……ぷるぷる……おいし……」
ミミはご飯粒を口の端につけたまま、尻尾を振る。
「ミミ……うま……もっと……!」
ルルカは尻尾をとんとんと叩き、ギルス干しを大事そうに齧っている。
「ルルカ……うま……つぎ……もっと……つく……」
ナナシは口元を小さく緩めた。
「おう。明日も食わせてやる。その代わり――」
ぷるり、とプルリが小さく揺れた。
「ぷる……?」
ミミとルルカもぴたりと動きを止め、ナナシを見つめる。
「もっと強くなれ。その分、腹いっぱい食わせてやる。」
三匹は声を揃えて、小さく鳴いた。
「ぷる!」「ミミ!」「ルルカ!」
夜は更けていく。
獣たちは小さな布団に潜り込み、満ちた腹を抱えて眠りにつく。
ナナシは最後に残った一膳を平らげると、小さく笑った。
(――明日は、どんな牙を磨いてやるか。)
暖炉の火がぱちりと音を立て、静かな夜が獣たちの眠りを包み込んだ。
(続く)
ここまでお読みいただきありがとうございます!
特訓の成果が出たようでよかったですね!
今回は、ナナシと三姉妹にとって“信頼”を深める大切な時間。
小さな一歩が、やがて誰もが振り返る伝説の一頁になります。
次回、さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/