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第11話 「牙を磨く獣たち──限界の先へ」

お疲れ様です!


ナナシたちの時間軸では、まだ陽が登り切る前――新たに結ばれた「牙の誓い」を胸に、ナナシと三姉妹は今日も動き出します。


今回の舞台はナナシの秘密の訓練場。

鍛え、磨き、そして牙を研ぐ。


彼らの“朝練”は、ただの準備運動ではありません。

最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――

牙の刻が、始まります。

《黎明の刻〈クレーア〉》を過ぎ、大気に薄く朝の熱気が満ちる頃。

ナナシが鍛錬場に用意した訓練器具は、すでにうっすらと熱を帯びていた。


粗削りな木製の人型標的。

岩を積み上げただけの簡易的な筋力試験台。

そして、長い丸太と縄を組み合わせたバランス訓練用の一本橋。


まだ夜気の残る中、モンスター三姉妹――スライムのプルリ、コボルトのミミ、リザードのルルカは、朝飯の残り香を名残惜しそうに体に纏わせながら、ぎゅっと小さな拳を握り締めて立っていた。






「……よし、始めるか。」


ナナシの声に、三匹の目がきゅっと細くなる。

だが、そこに怖気はない。

あの寒い檻でも、ギルド前で投げつけられた石の痛みでもない。

これから迎える“痛み”は、生きるために必要なものだと知っているから。






「まずは基礎だ。体を作るのは、一にも二にも基礎だ。」


ナナシはそう言い残すと、三匹に縄を一本ずつ配った。

それは、人間の子供でもきついとされる重り付きの縄跳びだった。


「お前らはまず、縄を百回跳ぶ。飛べなかった分は倍にしてやる。」


「ぷる……ぷるぷる……とぶ……」


「ミミ……とぶ……がんば……る……」


「ルルカ……とぶ……とぶ……!」


小さな声だが、三匹は縄を握りしめると、それぞれの跳躍を始めた。



プルリの身体はぷるぷると揺れながらも、地面を小さく叩いて弾む。

ミミの耳はピョコンと跳ね、短い足で器用に縄を潜る。

ルルカの尻尾は後ろでバランスを取り、必死に縄に引っかからないように踏ん張った。




だが、百回という数は小さな彼女たちにとって途方もない数字だった。



跳び始めて二十回もすれば、プルリの体はじっとりと水気を失い、ぷるぷるが崩れそうになる。

ミミの足元はもつれ、何度も縄に引っかかりながらも、泣きそうな目を上げてナナシを見る。

ルルカの尻尾は息を合わせるように跳ぶたびにぶつかり、体勢を崩して尻もちをついた。


「ぷる……ぷるぷる……むずか……し……」


「ミミ……あし……いた……いたい……」


「ルルカ……とべ……ない……まだ……」





ナナシは腕を組んだまま、無情に言い放つ。


「失敗分は倍だ。いいか、誰も代わりには跳んでくれない。跳べるのは、お前だけだ。」


涙が浮かびそうになる三匹の目に、ナナシはそれでも背を向けない。


「次だ。」


縄跳びが終われば、今度は一本橋の訓練だ。

細い丸太の上を落ちずに渡り切る。

途中で揺れる丸太に耐え、風でバランスを崩さぬよう、体幹を支える。


「ぷる……ぷるぷる……ぷる……おち……ない……」


「ミミ……こわ……こわ……おち……ない……」


「ルルカ……しっぽ……しっぽ……つかう……」


だが三匹の体はすでに縄跳びで小さく震えていた。

ぷるぷると揺れるプルリは、丸太の途中でぐにゃりと形が崩れそうになり、

ミミは耳が揺れて集中が乱れ、何度も落ちそうになる。

ルルカは尻尾を必死に動かしながらも、足場がグラつくたびに鋭い爪を丸太に立ててしまう。


(――まだだ。ここで甘くすれば、外ではもっと酷い痛みが待ってる。)





ナナシは心の奥で呟いた。


「次だ、標的だ。」


縄跳び、一本橋、そして人型標的の打撃訓練。

プルリは水の弾力を活かして身体を弾丸のように飛ばし、ミミは短い爪で何度も木製の胴を切り裂こうとする。

ルルカは尻尾をしならせ、標的を叩き割る。





だが、どれもまだ力が足りない。

何度も弾かれ、爪がめくれ、尻尾が痺れる。


「ぷる……ぷるぷる……いた……ぷる……」


「ミミ……つめ……いた……つかれ……た……」


「ルルカ……しっぽ……しび……る……」


ナナシは腕を組んだまま言った。




「なんだ、もう限界か?」




三匹の小さな背が、びくりと揺れた。

プルリはぐにゃりと潰れかけ、ミミの耳はしょんぼりと垂れる。

ルルカの尻尾も、だらりと力なく垂れ下がる。


その姿を見て、ナナシは無造作に言葉を落とした。






「……今日はもうここまでだな。」


その一言に、プルリの体がぴくんと震えた。


「ぷる……ぷるぷる……ぷる……まだ……ぷる……!」


ミミも、へとへとの足で一歩前に出た。


「ミミ……まだ……でき……る……ミミ……つよ……なる……!」


ルルカの尻尾が、再び地面を叩いた。


「ルルカ……まだ……おわ……ら……ない……!」




三匹の声は弱く、震えている。

だが、その小さな声が鍛錬場の空気を一変させた。


ナナシは目を細めた。

炎のような、けれどどこか優しい光が瞳に宿る。





「……そうか。」


静かに、しかしはっきりと口元が緩む。





「なら、証明してみろ。」




プルリは水気を集め直し、標的に向けて飛んだ。

ミミは爪を立て、擦りむけた肉球で何度も打ち込む。

ルルカは尻尾を振り上げ、力の限り叩きつけた。




乾いた打撃音が鍛錬場に響く。

木屑が舞い、三匹の吐息が熱を帯びる。


(いい顔するようになったじゃねぇか。)


ナナシは小さく息を吐いた。





――牙を磨く獣たち。

限界の先にこそ、彼女たちの力は眠っている。




夜の寒さに凍えていたあの三匹が、こうして小さな牙を剥いている。


「よし。……もう一回だ。」


ナナシの声に、三匹は声を合わせた。


「ぷる……ぷるぷる……!」


「ミミ……やる……!」


「ルルカ……まだ……つよく……!」


夜明けの光が、鍛錬場を照らし始めていた。


――そして彼女たちの牙は、まだ鈍くとも確かに磨かれていく。


(続く)

ここまでお読みいただきありがとうございます!

朝の訓練はナナシと三姉妹にとって“信頼”を深める大切な時間。


小さな一歩が、やがて誰もが振り返る伝説の一頁になります。

次回、さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!


引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』

略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/


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