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第9話「朝練と牙の刻」─

お疲れ様です!


ナナシたちの時間軸では、まだ陽が登り切る前――新たに結ばれた「牙の誓い」を胸に、ナナシと三姉妹は今日も動き出します。


今回の舞台はナナシの秘密の訓練場へ向かうお話。

鍛え、磨き、そして牙を研ぐ。


彼らの“朝練”は、ただの準備運動ではありません。

最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――

牙の刻が、始まります。

まだ空は薄闇をまとい、

街路の石畳は夜露を飲み込んでひんやりと息をしていた。


黎明(クレーア)の刻》。

人と魔物が新しい一日を刻み始める、この大陸の特別な朝の名。


ナナシの家の中――

暖炉の残り火にわずかな明るさが差し、

三つの小さな寝床が、ごそりと音を立てた。






「……ぷる……ぷる……ねむ……」


ぷるりと小さく震えるのは、スライムのプルリ。

眠気に勝てず、寝床の端でぺたんと潰れている。


ミミは耳をぴんと立てようとして、くしゃみをひとつ。


「ミミ……まだ……ねむ……く……」


リザードのルルカは尻尾を重く床に打ちつけて、

どうにか目を開こうとしている。


「ルルカ……おき……る……つよ……なる……」


ナナシは苦笑を漏らしながら、鍋を火にかけた。

この眠そうな三匹を、あと一刻で立派な牙に育て上げるのだ。


「――ほら、寝てんじゃねぇ。

顔を洗ってこい。寝ぼけたままじゃ、口に飯を運ぶ余裕もねぇぞ。」


ぷるぷる、と震えながらプルリが這い、

ミミは耳を掻きながら小さな足を引きずる。

ルルカだけは一度目をこすり、ぎゅっと両の掌を握って気合いを入れると、

とことこと小さな爪を畳に引っかけて水桶へ向かった。







外の水桶に張った水は、夜の冷気で指先に刺さるようだ。


「ぷる……つめ……ぷるぷる……」


「ミミ……さむ……おき……る……」


「ルルカ……しゃき……なる……」


顔を洗った三匹が戻ってくる頃には、

ナナシの鍋からは異世界風の湯気が立ちのぼっていた。





---

■これぞ朝飯《ハルの膳》


卓に並んだのは、

大陸の農民たちが古くから食べてきた《穂実(ホノミ)》の炊き立て飯。


一粒は小指の先ほどの大きさで、炊き上げれば、

ふっくらと白い湯気をまとい、噛めば甘い香りが口の奥に広がる。


ナナシが大鍋を木杓子で混ぜると、

湯気の向こうでぷるりとプルリが小さく鳴いた。


「ぷる……ぷるぷる……いい……にお……」




隣では、出汁の香りが部屋を満たす。

根魚(コンオ)》の干し身と、

紅根(アケネ)菜》を細切れにして煮込んだ味噌(ミソ―リュー)汁。


味噌はこの国の北方で編み出された保存食で、

獣肉の油に合うよう塩気と香りが強い。


干し身の脂がゆっくりと湯に溶け出し、

刻んだ《青葱(セイソウ)草》が彩りと香りを添える。


ナナシは三匹の椀に、まず《ホノミ》をよそった。



木の器に盛られたそれは、素朴でありながら、

目の前で湯気が踊るだけで腹の奥がぐうと鳴く。






味噌汁を注ぐと、立ち上る湯気が三匹の鼻先をくすぐった。


「ぷる……ぷるぷる……おい……し……」


「ミミ……おなか……なる……」


「ルルカ……あったか……すき……」


ナナシは自分の膳を持ち上げ、

箸代わりの木の枝を手にした。


(……さて、どれどれ。)


一口、炊き立ての《ホノミ》を口に運ぶ。


噛むほどに、穀物の甘さが舌に広がる。

腹の底が、夜明けを迎えたのを知ったように温まる。


「……あぁ、いいな。炊きは上出来だ。」


次に味噌汁をすする。

根魚の塩気と味噌の旨み、根菜の甘みが湯の中で一つになる。


「……ふむ。こっちは……」


木の枝で底を探ると、干し身がほろりと崩れた。


「……もう少し味噌を足してもよかったな。

少し塩が甘いが……まぁ、これも悪くねぇ。」






三匹も小さな手で湯気をはふはふとかき分けながら、

口いっぱいに《ホノミ》を含む。


「ぷる……ぷるぷる……しあわ……」


「ミミ……おいし……ミミ……つよ……なる……」


「ルルカ……ナナシ……つく……る……すき……」


ナナシは苦笑した。


(……まったく。お前らの胃袋、底なしだな。)


飯椀をからん、と置き、湯を一口飲んで立ち上がる。





---

■牙の刻、鍛錬の始まり


飯を終えた三匹を連れ、ナナシは木戸を開いた。

外の空気はまだ凛と冷え、肺に入ると背筋がしゃんと伸びる。


小さな裏庭を抜け、石畳の坂を一つ上がった先に、

ナナシがいつも剣を振るう訓練場があった。


朝の薄光を浴び、湿った砂地がうっすらと白んでいる。


「――ここが、俺が毎朝、牙を研いできた場所だ。」


三匹は小さく声を漏らした。


「ぷる……ここ……つよ……なる……?」


「ミミ……ナナシ……つよ……する……?」


「ルルカ……がんば……る……」






ナナシは笑みを見せず、真剣な目で三匹を見下ろした。


「――いいか。

お前ら、昨日まで檻の中で震えてた。

だが、もう違う。」


冷たい風が三匹の頬を撫でた。


「ここからは、牙を研ぐ。

強くなるために何が必要か、知っておくぞ。」


ナナシは自分の両手を胸の前で組むと、

そのまま体をひねり、肩をほぐした。


「基本を知らねぇやつは、必ず折れる。

強い奴でも、体を壊せば終わりだ。」


しゃがみ込んで三匹の目線に合わせる。






「鍛錬で大事なのは二つだ。

ひとつ、体を動かした後は必ず、

体をいたわる《伸ばし》をしろ。」


ルルカが小さく首をかしげた。


「ルルカ……のば……す……?」


「そうだ。動かした筋を伸ばせ。

硬くしてりゃ、次に折れるのはお前らだ。」


ミミが小さく尻尾を振った。


「ミミ……いたわ……る……がんば……る……」


ナナシは頷き、立ち上がる。


「もうひとつ――

自分の《芯》を知れ。」





腰に下げた魔具を操作すると、

ナナシの目の前に淡い光の板が浮かび上がった。


《ステータス・ウィンドウ》。

自分の能力値を可視化する古の魔法だ。


「お前らも、これから自分の芯を見るようにしろ。

闇雲に走っても、伸びねぇ。」


光の中に、ナナシの新しい数値が浮かんだ。



【ナナシのステータス】

ランク:金等級


二つ名:ナナシの豪腕


『能力値』

攻撃:★★★★★★★★☆☆

魔法:★★★★★★★☆☆☆

機動:★★★★★★★☆☆☆

防御:★★★★★★★★☆☆

多能:★★★★★★★☆☆☆

幸運:★★★★★★★☆☆☆

合計:41


種族:進化型オーク(第二段階)

性別:男性

髪:黒に銀の筋が混じる短髪。進化時に一部が金属質の艶を帯びた。

瞳の色:灰青と琥珀の二重瞳。

体型:しなやかで筋肉質。半獣人としての面影が残る。


備考:

かつては忌み子と呼ばれたオーク族。己を“人間へ近づける”と誓い、二度の進化を果たした。

第三段階《終極進化アポクリファ》の可能性を秘めており、物語全体の「進化の象徴」でもある。

仲間を守るためなら迷わず前線へ立つが、内心では「自分もまだ化け物ではないか」という恐れを抱いている。


使用武器:双剣ヴェルダイン

特性:《獣核共鳴》— 獣の本能と理性を同調させ、戦闘力を倍化。




■ 戦闘スタイル

型:重戦士型(パワー特化)/接近戦の鬼


得物:斧、大剣、メイスなど重量武器を好むが、素手でも戦闘可能


特徴:一撃で仕留める豪腕と、近距離での制圧力が武器



■ 補助能力

野生察知


気配探知


嗅覚・聴覚が人間の数倍(オーク獣人由来)


■ 特殊スキル

モンスター語の解読(独学)

└ 若い頃、言葉を持たないモンスターと共存した経験があり、

  本能で“鳴き声”や“動き”を聞き分ける。


■ 制限

魔法は一切使用不可。


代わりに《直感的戦闘》で攻防を即座に最適化する。


特異スキルEX:【豪腕解放オークバースト】使用条件:“獣の血”を解放。

擬人化進化×3段階(2/3)


【武技LV7】【体術LV5】【野営術LV6】

――その下に新たに追加された一行に、ナナシは目を細めた。


《従魔守護〈リンク・ガーディアン〉》NEW





(……契約の後に出やがったな。)


プルリが興味深そうに首を伸ばす。


「ぷる……ぷるぷる……それ……なに……?」


「これは……文面から推測するに、お前らと俺を繋ぐ力だ。

まだ使い道は分からねぇが……いずれ一緒に磨いていく。」





ナナシは腰に手を当て、三匹を見下ろす。


「いいか、プルリは魔力の核を伸ばせ。ミミは脚と牙の速さだ。ルルカは鱗と尻尾――守りを高めろ。そして、鍛えていて、さらに伸ばしたいものがあればそれを伸ばしていけ。それは、必ずお前たちを強くする糧になる。」



三匹がかすかに声を重ねる。


「ぷる……がんば……ぷるぷる……」


「ミミ……はや……く……つよ……」


「ルルカ……まも……る……おお……きく……」






ナナシは笑みを浮かべた。


「――よし、始めるぞ。

牙を研げ。

もう誰にも、檻には戻さねぇ。」


朝の光が、訓練場を赤く染めていった。


小さな牙はまだ脆い。

だが、これから刻まれる鍛錬の刃は、

確かに鋭さを増していく。


(続く)



ここまでお読みいただきありがとうございます!

朝の訓練はナナシと三姉妹にとって“信頼”を深める大切な時間。


小さな一歩が、やがて誰もが振り返る伝説の一頁になります。

次回、さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!


引き続き

『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』

略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/



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