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第6話「黎明の行軍《ドーン・マーチ》」

お疲れ様です。

数ある物語の中から、今日もナナクラの世界に足を運んでくださり、ありがとうございます。


夜明け前――薄紅に染まる空の下、ナナシたちは《グラン=フォルティア》へ向けて出発の準備を整える。

峠を三つ越える過酷な道のり。そこには、刺客・落石・濃霧、そして“王家の目”が待ち受ける。

それでも彼らは進む。

信頼を糧に、絆を繋ぐ《シグナル・サークル》の力を胸に――。


黎明の息吹とともに、一行の新たな旅が始まる。

夜明け前の空が、薄紅に染まり始める。

宿場町の屋根が静かに光を受け、一行は既に馬と荷を整えていた。夜露の残る地面に、蹄の音がわずかに響く。


「……夜は短かったな」

ナナシは呟き、肩にかけた外套を整える。吐く息は白く、肌を撫でる空気は冷たい。


第一王女セレスティアは、夜明けの光を背に微笑んだ。

「ええ。でも清々しい朝だわ。旅の始まりにふさわしい空気ね」


護衛騎士隊長エリナは、剣の鞘を叩きながら頷く。

「全員、装備確認を終えろ。首都《グラン=フォルティア》まで、長い道のりだ。気を引き締めていけ」


ナナシは頷きながら、一歩前へ出る。

「殿下、ひとつ確認しておきたい。――こっから中央首都までは、どんなルートで進むんです?」


その問いに、セレスティアは微笑みを保ったまま地図を広げる。羊皮紙には、昨日説明した王国全土の道筋が描かれている。


「私たち《リュミナリエ》から《グラン=フォルティア》までは、約百二十リーグ――およそ三百六十キロ。

三つの峠を越える必要があります。順に、黄昏峠、風鳴峠、そして霧隠峠。どれも一筋縄ではいかない場所です」


エリナが地図を指差す。

「最初の黄昏峠は西部山脈の入口だ。傾斜が急で、夜間の落石も多い。慎重に進まねばならん。

次の風鳴峠は強風地帯。尾根を渡る際は、刺客の待ち伏せにも警戒が必要だ。

そして霧隠峠――ここは、濃霧で視界が奪われる。音で敵を察知するしかない。最後の難所だな」


従者のメイド、クラリッサがやわらかい声で補足する。

「それぞれの峠は約四十リーグごとに位置しております。つまり、一つ越えるごとに約三日の行程。

道中では野営を二度、そして各峠の手前で一度の拠点設営を予定しております。

なお、王家の観察官がどこかで私たちを見ている可能性もございますので、常に隊列を整え、秩序を保つことが重要ですわ」


ミミが耳をぴんと立てて首をかしげた。

「つまり……誰かに見られながら旅するってこと? やだなぁ、落ち着かないや」


プルリは不安そうに体をぷるぷる震わせる。

「峠って怖いとこなの……? 落とし穴とか、刺客とか……いっぱい出るの?」


ルルカが冷静に答える。

「出る。だが、我らが守る。ワタシたち【無銘の牙】の役目だ」


ナナシは頷き、少し考え込んだあと、仲間たちに目を向けた。

「……よし。じゃあ出発前に一つ提案がある」


皆の視線が彼に集まる。ナナシはミミの方を向いて言った。


「ミミ、お前の《電気回廊パス(シグナル・サークル)》を使えるな?

あれを全員に繋げておけ。念じるだけで情報を共有できるようになる。

もし襲撃があっても、敵に気づかれず連携が取れる。効率もいい」


ミミは耳をぴくぴく動かしながら、ぱっと笑顔を見せた。

「うんっ! ご主人様、それならすぐできる! 全員を電気の糸でつなげば、頭の中で“声”を届けられるよ!」


セレスティアが感嘆の息を漏らした。

「そんな便利な術があるのね……すばらしいわ。ぜひお願いするわ、ミミ」


クラリッサが感心したように微笑む。

「通信魔法を仲間全員に適用できる個体は、非常に稀少です。旅路の安全性が大きく高まりますわね」


ミミは胸を張り、両手を合わせて呪文を唱える。

「――電光のリンクよ、仲間をつなげ、響け《シグナル・サークル》!」


ぱちん、と小さな青い光が弾け、全員の頭にわずかな電流が走る。

プルリが「ぴりっ」と声を上げた。

「……わっ、くすぐったい!」


ナナシは目を閉じ、頭の中で確かめるように念じる。

(……聞こえるか?)


即座にミミ、プルリ、ルルカ、そしてセレスティアの声が重なった。

(うん!)

(はいっ!)

(聞こえる)

(ふふっ、不思議な感じね)


ナナシは満足げに頷き、セレスティアに視線を向ける。

「これで通信は問題なしだ。姫様、最後の確認をお願いします。峠越えの順と進行隊列、それで間違いないですね?」


セレスティアは静かに頷く。

「ええ。最初に黄昏峠を越え、風鳴、霧隠の順。

隊列はエリナが先導、あなたと仲間たちは中央。私はクラリッサと後方を守るわ」


「了解。じゃあ、行こうか」


ナナシが一歩踏み出すと、朝の光が峠の方角を照らす。

プルリたちが元気よく続いた。


「ご主人様、出発っ!」

「耳をすませば、風の歌が聞こえる!」

「進もう、目的地へ!」


セレスティアは馬の手綱を取り、微笑みながら呟いた。

「さあ――寅の地の誇りを胸に。未来を切り拓く旅の始まりよ」


一行は朝霧の中へと進み出す。

静寂を破る蹄の音が、やがて峠への道に消えていった。


――続く――

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


夜の静寂を抜け、朝霧の中を駆け出す一行。

その蹄音が、確かに“物語の歯車”を動かし始めた。

峠を越えるたびに、仲間との絆は試され、想いはさらに強くなる。

この先で彼らを待つのは、ただの試練ではない――王国の命運を揺るがす戦いの始まりだ。


次回、「黄昏峠の異変」。

霧と影の中で、最初の牙が姿を現す――。



ぜひ次回もお楽しみに!

感想やブックマークをいただけると、とても励みになります。



さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!




次話の投稿は、明日朝方6時30分の予定です!('ω')ノ




引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』


『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/

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