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第8話【従魔契約】──誓いの牙

『ナナクラ』第8話にようこそ!

ナナシと最弱モンスター三姉妹が交わすのは、ただの主従ではなく――

お互いを生かし、守り合う“誓い”の契約。


牙を立てるのは敵ではなく、絆を刻むため。

ここから彼らの物語は、家族としても仲間としても、

より強く深く絡み合っていきます!(^^)/

従魔契約じゅうまけいやく

――それは、この大陸(リゼルダ大陸)で古くから伝わる、人と魔物の深い盟約の一つ。


「獣魔登録」が街での市民権や保護を与える“法的な証明”だとすれば、

「従魔契約」は魔物自身の意思と魂を、特定の人間に預ける“心の誓い”である。


あるじは、従魔の命と魔力を守り、

従魔じゅうまは、主に忠誠と力を捧げる。


血の繋がりも種族の壁も越えて生まれる絆は、

一度結べば容易には断たれない。


だからこそ、その絆は深く、温かく、時に命すら超えて通じ合う――

そう信じられている。






プルリ(スライム)、ミミ(コボルト)、ルルカ(リザード)。

3匹の魔物姉妹は、そんな獣魔管理育成庁(ケモノノトビラ)で“落ちこぼれ”として扱われ、力も価値もないと切り捨てられた。



ある日、彼女たちは施設を追い出された。

どこへ行けと言われることもなく、冷たい街の隅に追いやられた彼女たちが最後にすがるように辿り着いたのが――

街の力を司る場所、|傭兵ギルド《鋼鉄(スチール・ゴブレット)の杯》の門前だった。


誰かと一緒にいたい。

誰かに必要だと言われたい。


小さな声で呼びかける3匹に返ってきたのは、

冷たい嘲笑と、投げつけられた石だった。


だがそのとき――

誰も見向きしなかった3匹の前に、1人の男が立った。


名もなき傭兵――ナナシ。

彼だけが、彼女たちの震える声を拾った。







---

◆プルリの回想


ぷるぷると震える、小さな命。

プルリは《ケモノノトビラ》の培養槽で生まれた。


弱く、形も不安定。

他の個体に比べ魔力も希薄で、何度も分裂と融合を繰り返される実験に耐え続けた。


評価は「失敗作」。

何度も廃液のように処理されかけては、わずかに残った命をすくい取られて、延命された。


同じように余り物のように扱われていたのが、コボルトとリザードだった。


(ぷる……さみしい……でも……一人……じゃな……い……仲間……いる……)


やがて三匹まとめて「不要」とされ、誰にも引き取り先を探されることなく施設から放り出された。


行くあてもなく、寄り添いながら辿り着いたのは、街で一番強い者が集まる《傭兵ギルド》。


「ぷる……ぷるぷる……だれか……ごしゅじん……ぷる……ほしい……」


震える声に、通りすがりの傭兵たちは笑った。

「汚らしい」「役立たず」と罵られ、小石が飛んできた。


(ぷる……いたい……ぷる……こわい……でも……)


泣きそうな声の先に、背を向けて立つ大きな影があった。


「……おい、何してんだテメェら。」


石を投げる傭兵の前に立ったその人は、プルリにとって初めての光だった。







---

◆ミミの回想


ミミは小さなコボルトだった。

牙も小さく、吠える声も弱い。

施設では「鳴かない番犬以下」と笑われ、誰も見向きしなかった。


(……こわい……でも……一人ない……みんな……いる……)


ミミが檻の隅で震える夜、いつも隣にいてくれたのが二匹だった。


ある日、飼育員の冷たい声が告げた。


「用済みだ。檻から出ろ。」


それだけだった。

行き先も知らず、3匹はただ肩を寄せ合って門をくぐった。


街の片隅を震えながら歩き、縋るように辿り着いたのが《傭兵ギルド》。


「がんばる!……つかえる…………がんばる!!……ごしゅじん……ほしい……」


その声に返ってきたのは嘲笑だった。

「犬にもなれねぇガラクタが」

誰かの手が石を拾い、ぶつけた。


(……いや……こわい……こわい……)


泣きそうな瞳の前に、大きな影が立った。


「……おい、それは何の冗談だ。なら、俺が同じ“冗談”をしても問題ないってわけだな?なぁ、おい。」


その人の声は、ひどく乱暴だけどミミにとって初めての温かい鎖音だった。





---

◆ルルカの回想


ルルカは施設地下の冷たい岩室で育ったリザードだった。

生まれつき鱗は薄く、尻尾も再生するだけの中途半端な力しかなかった。


(ワタシ……つよく……ない……でも……みんな……仲間……いる……)


小さな背を寄せ合い、夜は2匹の鼓動に守られた。


ある日、処分される代わりに追い出された。

役立たずのまま施設の外へ。


頼れるのは、プルリとミミと、自分の小さな爪としっぽだけだった。


3匹で凍える夜道を歩き、誰かと一緒にいてもらおうと門を叩いた《傭兵ギルド》。


「ヮタㇱ……つよい……なる……ごしゅじん!……」


しかし、そこにいたのは冷たい笑い声だった。

「トカゲがしゃべってるぜ」と誰かが石を投げた。


鱗に当たった石が砕け、血がにじんだ。


(……おわり……?)


俯いたルルカの肩に、誰かの影が被さった。


「……おい、大丈夫か。」


ルルカの額の血を拭った手は、驚くほど温かかった。




---

◆──誓いの牙


夜の(とばり)が下りても、ナナシの家の暖炉は赤々と燃えていた。


街で買い集めた寝具と毛布が、暖炉の向こうに積まれている。

檻もない、石も飛んでこない、小さな居場所。


ソファに腰かけたナナシは、三匹を見つめていた。


プルリはぷるぷる震え、ミミは耳を伏せ、ルルカは尻尾をとんとん畳に叩く。


「……お前ら、本当にいいんだな。」


声をかけると、三匹は同時に小さく頷いた。


「ぷる……ぷるぷる……ナナシ……ぷる……なる……」


「ミミ……ナナシ……ミミ……なる……」


「ルルカ……ナナシ……ルルカ……なる……」


ナナシは目を閉じた。

あのギルド前の声が、まだ耳に残っている。


――汚物みたいに投げられた石。

――誰にも届かない叫び声。

――無力だった自分の背中を叩くように泣く小さな声。


(……放っておけるかよ。)


目を開くと、暖炉の火が3匹の瞳に揺れていた。


「従魔契約は簡単じゃない。

俺の血を分ける。お前らは牙を立てる。

それで、どこにいても繋がる。」


プルリが小さく震えた。


「ぷる……ぷるぷる……ち……ぷる……いい……」


ミミが牙を見せて前へ出た。


「ミミ……かむ……ナナシ……いっしょ……なる……」


ルルカは尻尾を立て、低く鳴いた。


「ルルカ……かむ……ナナシ……まもる……なる……」


ナナシは短剣を取り、左の手の甲を裂いた。


滲む血にプルリが寄り、震えながら雫を吸った。


「ぷる……ぷるぷる……あったか……ぷる……つよく……なる……」


ミミがそっと牙を立てた。


「ミミ……ナナシ……つよく……なる……」


ルルカが最後に近づき、爪を立て、牙を当てた。


「ルルカ……ナナシ……まもる……つよく……なる……」


血と牙が交わり、光が弾ける。


魔核と呼ばれる核が刻まれ、三匹の胸に淡い赤い光が宿った。


ナナシは傷を縛り、小さく笑った。


「これでお前らは俺の従魔だ。――もう、誰にも石なんか投げさせねぇ。」


三匹の声が重なる。


「ぷる……ナナシ……ぷるぷる……すき……」

「ミミ……ナナシ……ごしゅじん……だいすき……」

「ルルカ……ナナシ……まもる……ずっと……」


暖炉の火がぱちりと弾けた音が、誓いの証のように響いた。


外の夜風はもう届かない。

彼らの夜は、もう二度と誰にも奪えない。


(続く)



お読みいただきありがとうございます!

『従魔契約』の儀式は、ナナクラの世界観の中でも

とても大切な節目のひとつです。


ナナシの豪腕と、三姉妹の小さな牙が交わる瞬間――

彼らの絆は一線を越え、物語は次の冒険へと進みます。


次回からは、この契約がどんな奇跡を生むのか、ぜひ見届けてください。


引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』

略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/

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