第78話 「仲間たちの共鳴、そして雷牙の◆◆◆――」
お疲れ様です!
【影葬の追跡】を、
エンジン全開で戦いに挑んだ【無銘の牙」たちの前に現れた影!!
ついに、▽【刻環十二聖王座〈アルザ・セイ=クリオス〉】▽
刻環第三位:【雷牙の咆哮バリシャ】の声と影が現れました!!
彼らが戦いの後、何を思うのか。
こうご期待ください。
また、頭の中でイメージしながら読み進めると物語とシンクロして面白いですよ(^^♪
最弱と呼ばれた従魔たちがどこまで進化するのか――
牙の刻が、これからも続いていきます!
大地が軋み、空が裂ける。
雷雲はなおも戦場を覆い、天空は幾重にも重なる稲妻の網に支配されていた。
「沈め」
バリシャの一言が未だ戦場にこだましている。
その覇威に触れた者は、ただ生物であるという理由だけで地へ叩き伏せられる。
リーヴァスは土に額を擦りつけるほどの体勢で沈み、プルリはゼリー状の体を広げて地面に張り付いたまま震えている。
ミミは耳を押さえ、牙を剥きながら必死に耐えていたが、四肢が震えて立ち上がることは叶わなかった。
ルルカの鱗は重圧で砕け散り、両膝が大地にめり込み、尾はだらりと垂れ下がる。
そしてナナシもまた、片膝を地につけながら息を荒げていた。
胸の奥で、何かが折れそうになる。
――これが、十二王座第三位の“覇”か。
圧倒的な格の違い。心を砕き、肉を潰す支配。
◆ ◆ ◆
だが、次の瞬間。
「ぷる……ぷるり……っ」
震える声が耳に届いた。
プルリの小さな震え。それは、仲間を呼ぶように、必死に掻き鳴らすリズムだった。
「ひゃ……っ、ひゃいっ!」
ミミがその揺れを耳で拾う。敏感な鼓膜が振動を感じ取り、共鳴するように声を上げた。
「ワンッ!」
小さな鳴き声。けれど、それはプルリの震えと重なり、波を作る。
「ルルカ……! 聞こえる……?」
ミミの声に、リザードのルルカが牙を食いしばりながら応じた。
「……うん……これは……ただの声じゃない……」
尾を一度、地に叩きつける。
ドン、と低い響きが広がり、プルリとミミのリズムに重なった。
「っ……!!」
ナナシの胸に、その鼓動が伝わる。
三者三様の震えが、不思議と“ひとつ”にまとまろうとしていた。
――リズム。
それは言葉でも技でもなく、生きるものの奥底から自然に生まれた“意志の響き”だった。
「……ここだ」
ナナシが片膝を地につけながら、己の胸を拳で叩いた。
ドン。
その響きが、重なった。
プルリの震え。
ミミの鳴き声。
ルルカの尾の打音。
ナナシの心臓の鼓動。
すべてが一拍ごとに噛み合い、見えない“共鳴の波”を生み出した。
次の瞬間――
バリシャが放つ覇威の重圧が、揺らいだ。
雷雲の圧が、リズムに合わせて波紋を描くように逸れ始める。
無数の稲妻が、無銘たちを焼くことなくすり抜け、大地にだけ牙を剥いた。
「バカな……っ」
ヴァルグが目を見開く。
従順な牙として、バリシャの覇威を浴びてなお揺るがぬはずの空が――揺らいでいる。
リーヴァスもまた、押し潰されていた身体を震わせながら顔を上げた。
「……これは……覇威を……受け流している……?!」
そう。
真正面から抗ってはいない。
仲間たちのリズムは、覇威を裂くのではなく、流すのだ。
押し込まれた力を、波に沿わせて逸らしていく。
それはまるで、大河の奔流に小舟を浮かべ、
共に揺られて進むような――“受け流し”。
ナナシが歯を食いしばり、声を張り上げる。
「俺たちは……お前の覇威を“拒む”んじゃない……!
仲間たちとのリズムで……受け流し、いや“共鳴”したんだッ!!」
雷鳴が、確かに逸れた。
天空を覆うはずの黄雷が、彼らを裂くことなく流れ去る。
静寂。
戦場に、かつてなかった響きが訪れる。
仲間たちの呼吸が揃う。震えが揃う。心臓の音が揃う。
その調和の前に、あの圧倒的な覇威すら、ただの風のように受け流されていく。
――そして。
「………………」
バリシャは黙して戦場を見渡した。
覇威を放ち、支配し、沈めたはずの戦場に。
未だ立ち上がり、己の覇威を受け流す小さな牙どもがいる。
雷鳴のように深い沈黙。
一瞬、世界が止まったかのようにすら感じられた。
――次の瞬間。
「……フッ……」
「……ククク……」
「――――ハァーハッハッハッハッハ!!!」
雷牙の咆哮――《覇雷獅王バリシャ》は突如として大笑した。
空を裂く轟音のような笑声。
戦場全体が揺れ、天地が共鳴する。
「貴様ら……ッ! フハハハハ!
この我の覇威と共鳴しただと……!!
実に愉快、実に痛快よ!!」
その眼光は、雷よりも眩しい輝きを放つ。
ただの牙ども。
ただの下級。
そのはずが、覇威に立ち向かうのではなく、受け流すという新たな道を示した。
「貴様らのような生きの良い牙どもは……」
バリシャの瞳が細められ、愉悦の色が浮かぶ。
「――ヴァルとリーヴァ以来だ!!!」
◆ ◆ ◆
その声は大地を震わせ、過去をも揺るがした。
忠実なる眷属である一の牙ヴァルグ、二の牙リーヴァス。
かつて初めて己の眼に値した牙たち。
その名を、今この瞬間、ナナシたちと重ねたのだ。
雷鳴はもはや怒りの声ではない。
覇者が見いだした、純粋なる“喜び”の咆哮だった。
――続く――
こまでお読みいただきありがとうございます!
現十二王座、第三位。
雷牙の咆哮――《覇雷獅王バリシャ》の威圧半端ないですね!
ナナシ達はこの先、どうなるのか。
さらに加速する“牙の伝説”をどうぞお楽しみに!
次話の投稿は、明日夕方17時10分の予定です!('ω')ノ
引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』
略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/