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【第7話】──布団がない家と温かな夜

いつもお読みいただきありがとうございます!


今回の物語は、森の奥のナナシが拠点として住んでいる場所で迎える、ナナシと

三姉妹のお話です。


ちょっとずつ距離を縮めていく最弱モンスターたちと無骨なオークの姿を、

ぜひのぞいていってください。


小さな温もりが、いつか大きな絆になる──

そんな物語をお届けします!

ギルドでの登録を済ませ、装備と薬を揃えたナナシと魔物三姉妹は、街外れの石畳の坂道を抜けて、ようやくナナシの住まいへと辿り着いた。


ナナシの住まいは石造りの一軒家だった。外壁は少し古びているが、きちんと掃除された玄関と、小さな花が飾られた窓辺が目を引く。


「ここ……ナナシ……いえ……?」

「ミミ……おっきい……!」

「ルルカ……ひろい……!」


「まぁな。俺一人にゃ、ちと広いが……他にゃ何もねぇ。」


玄関を開けると、清潔な空気が流れ込む。靴を脱いだ三匹は、きょろきょろと室内を見回した。


リビングの奥には立派な木製のテーブルと椅子。奥の壁際には、無骨なソファがどんと構え、すぐ隣には、きちんと磨かれた調理台と、魔冷庫と呼ばれる冷蔵庫兼冷凍庫が鎮座している。


調理器具の棚には、使い込まれた包丁、大小の鍋、寸胴鍋、フライパン、さらに皿、フォーク、スプーン……そして、異国風の木製の箸までもが並んでいた。


「ぷる……ぷるぷる……おさら……いっぱい……?」

「ミミ……なべ……おおきい……!」

「ルルカ……これ……つかう……?」


ガロンが、ソファに腰を下ろすなりツッコミを入れた。


「おい、ナナシ。お前……家具は一通り揃ってるじゃねぇか。台所も立派だな。」


ロンバァ(道具屋の婆さん)も腰に手を当てて笑った。


「ほっほっほ、こりゃまた立派な魔冷庫だこと……これなら、肉でも魚でも一年分保存できるわいな。」


ナナシは、きょとんとした顔で頷いた。


「だろ? 冷やしゃ腐らねぇしな。」


「いや、そうじゃなくてだな!!」


ガロンが思わず頭を抱えた。


「テーブル、椅子、ソファ、お風呂……全部ある! ……なのに……」


ロンバァが言葉を引き継ぐ。


「なんで肝心の寝床がないんじゃい!! 布団もベッドも何もないじゃろ!」


三姉妹も一斉にナナシを見上げた。


「ぷる……どこ……ねる……?」

「ミミ……ここ……? ちが……?」

「ルルカ……ゆか……? かたい……?」


ナナシは腕を組み、当然のように言った。


「ん?さっき言ったろ。床で寝てたって。硬い方が背中伸びるしな。」


「おいおいおいおい……!」


ガロンとロンバァは同時に声を上げた。


「……もういい! すぐ布団を買いに行くぞ!!」






---

◆ 寝具屋《眠りの魔羊亭》


街の大通りに面した《眠りの羊亭》は、この街で一番の寝具屋だった。

木製の看板に描かれた羊の絵が、ふわふわの眠りを約束するかのように揺れている。


「へぇ……ナナシが寝具屋に来るとはな。」


ガロンが店内を見渡すと、所狭しとベッドフレーム、分厚い布団、ふかふかの枕が並んでいた。


店主は人懐っこい笑顔を浮かべた老紳士カウルム


「いらっしゃいませ、《豪腕のナナシ》さん。今日はどのような?」


「布団だ。あと、ベッドも。」


「おやおや……ようやくですか。」


ロンバァがヒジでナナシの脇をつつく。


「ずっと床で寝てたんかい、あんた。」


ナナシは首を傾げる。


「ん? 布団はすぐ汚れるだろ。」


「あんた……頭大丈夫かい……?」


三姉妹も思わず叫んだ。


「ぷる……ぷるぷる……ゆか……さむい……!」

「ミミ……せなか……いたい……!」

「ルルカ……ふわふわ……ほしい……!」


店主がにこにこと笑った。


「獣魔ちゃんたちの分もお探しで?」


「おう。3人分頼む。」


「……サイズとか素材の希望は?」


ナナシは堂々と言った。


「……硬めでいい。」


ロンバァがナナシの頭を叩いた。


「全部硬いと意味ないじゃろーが! 可愛い子らには柔らかいのにせぇ!」


「……あ、そっか。」


「そっか、じゃない!!」






---

◆ 家に戻り、お風呂と夜ご飯



装備屋のガロンと道具屋のロンバァとは途中で別れた。別れる前も、いろいろ小言を言われたが、何だったかナナシは既に忘れかけていた。


なんだかんだで、ふかふかのベッドと獣魔用の小さめの柔らかい寝床を買い込んだ一行は、再びナナシの家へ。


「ぷる……おふろ……?」

「ミミ……あったか……?」

「ルルカ……ピカピカ……?」


「おう。清潔は大事だからな。」


ナナシの風呂は、石造りの浴槽に温水魔石を備え付けた簡易魔法風呂だ。

3匹は湯船にぷかぷかと浮かび、ナナシは桶でざぶりと頭を流す。


(……汚れは戦いの敵だ。獣魔も清潔にしておくに越したことはない。)


体を拭いて着替えたナナシは、湯上がりの三姉妹を連れて台所へと向かった。








「さて……飯だ。」


ナナシは冷蔵庫から、昨日仕留めた鹿肉と、山で採れた根菜、畑で買った葉野菜を取り出した。


「ぷる……ぷるぷる……てつだう……!」

「ミミ……ミミも……する……!」

「ルルカ……きる……できる……!」


ナナシはにやりと笑った。


「おう。怪我すんなよ。」


プルリは小さな包丁を持って人参をころころ。ミミは葉野菜を水で洗い、ルルカは玉ねぎの皮を器用に剥いた。


ナナシはフライパンにオリーブ油を垂らし、鹿肉を強火で一気に焼く。皮目をじゅうじゅうと焼き締め、肉の旨味を閉じ込める。


根菜は素揚げして彩りにし、葉野菜は軽く炒めて塩とにんにくで香りをつけた。


鍋ではきのこのスープをぐつぐつ煮込む。魔物たちが小さな手で木杓子を回す姿は、見ているだけで心が和む。








---

◆ 晩ご飯、いただきます


テーブルに並んだのは、鹿肉のソテー根菜添え、きのこのスープ、バターライス、塩茹での葉野菜。


「ぷる……ぷるぷる……いいにおい……!」

「ミミ……おいしい……みえる……!」

「ルルカ……はやく……たべる……!」


ナナシは手を合わせる。


「いただくぞ。」


鹿肉をひと切れ口に放り込み、淡々と呟く。


「お、上出来だな。」


(……もう少し皮目をカリカリにしても良かったな。火加減は上手くいったが、次は炭火でもいいかもしれん。)





スープを啜る。


「……まぁまぁだ。」


(きのこの風味は出てるな。ただ、もう少し塩を控えてきのこの甘さを引き立てても良かったか。)







三姉妹は頬をいっぱいに膨らませて、にこにこと食べている。


「ぷる……ぷるぷる……おいしい……!」

「ミミ……ナナシ……すき……!」

「ルルカ……おかわり……!」


ナナシは笑みをこぼす。


「おう、まだある。食え。」







---

◆ 温かな締め


食後、片付けを済ませたナナシは、三姉妹を寝具に案内した。


「明日からは本格的に鍛える。……夜明け前の寅刻いんこく暁光(ギョウコウ)の刻(朝4時)に起こす。」


「ぷる……ギョウコウ……?」

「ミミ……はやい……!」

「ルルカ……ねむい……!」


「鍛えるには眠りも大事だ。今日はふかふかだろ。」





三姉妹が、もじもじとナナシを見上げる。


「……ナナシ……」

「……ミミ……おねがい……」

「……ルルカ……ほしい……」


「ん? 何だ。」


プルリが、勇気を出して口を開いた。


「ぷる……ぷるぷる……ナナシと……ケイヤク……したい……」


ミミも耳を伏せて言葉を継ぐ。


「ミミ……ごしゅじん……ミミ……ずっと……」


ルルカも目を潤ませて、尻尾を揺らした。


「ルルカ……ナナシと……ずっと……いっしょ……」


ナナシは目を細めた。


「……街じゃ、もう登録済んだろ。無理に縛る必要はない。」






三姉妹は首を振った。


「ぷる……ぷるぷる……ナナシと……いたい……」

「ミミ……こころも……いっしょ……」

「ルルカ……ずっと……ナナシの……もの……」


ナナシは腕を組み、目を閉じた。


思い返せば、ただ孤独に狩りをして、依頼をこなすだけの毎日だった。

しかし、こいつらが来てから……やけに世界が色づいて見えるようになった。


(……俺も、楽しんでるんだな。)


目を開くと、そこには小さな三匹の決意の瞳があった。


「……よし。」


ナナシはゆっくりと口を開いた。


「従魔契約しようか。プルリ、ミミ、ルルカ。」


三姉妹の顔がぱあっと花開いた。


「ぷる……ぷるぷる……ナナシ……すき……!」

「ミミ……ごしゅじん……だいすき……!」

「ルルカ……ナナシ……ずっと……!」


夜の空気は冷たかったが、家の中は小さな命たちの熱で、どこまでも温かかった。


(続く)


最初は名もなき獣たちだった三姉妹が、

ナナシのそばで少しずつ「家族の形」を作りはじめました。


食卓で交わされる言葉と、何ものでもない最弱が得た小さな安心が、

いつか彼らの大きな力になると信じて、

これからも物語を紡いでいきます!


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!


引き続き『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』

略して『ナナクラ』をよろしくお願いいたします(^^)/

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