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死の真相1

とうとう珠美の元上司、大島の審理が始まる!

 翌朝、閻魔殿の広間では、珠美が緊張した面持ちで閻魔の近くにある椅子に座っていた。


「……珠美。辛いようなら、今回は記録係を務めなくていいんだぞ」


 閻魔が心配そうに言うと、珠美はギュッと資料を握り締めて応えた。


「……いえ。菖蒲様が謹慎中の今、補佐官は私一人。きちんと職務は果たします」



 しばらくすると、獄卒に案内され、一人の亡者が広間に足を踏み入れた。珠美の元上司である大島恭司である。

 大島は、四十代後半の男性で、体格が良い。珠美が生きていた時とほとんど変わらない姿だった。


 大島は、広間の中央にある椅子の辺りまで来ると、ふと顔を上げた。そして、閻魔の近くにいる珠美に気付くと、大きく目を見開いた。


「……連城? 連城じゃないか! お前も閻魔殿に来ていたんだな……!!」


 珠美は、その声を聞いて固まった。

 生前会社に勤めていた時、大島に、先輩である橋本舞香から嫌がらせを受けている事を訴えた事がある。しかし、大島は「お前の気のせいだろう。橋本は指導してくれているんだ」と言い、取り合ってくれなかった。

 その後も舞香の嫌がらせが続き、思い切って再び大島にもう一度相談した所、大島は怒鳴った。

「いい加減にしろ! 俺の手を煩わせるんじゃない! 仮に橋本が嫌がらせしているとしても、お前に問題があるんだろう!」

 その時の絶望感は、今でも覚えている。


「……珠美、やはりお前は今日別の仕事をした方が……」


 閻魔が珠美の側に来て声を掛けたが、珠美は身体を震わせながらも応えた。


「……いえ。私は、大島課長と向き合わなければいけないと思うんです。記録係を続けさせて下さい」


 珠美の決意に満ちた瞳に、閻魔は何も言う事が出来なかった。



 そして、大島の審理が始まった。


「大島恭司、享年四十九歳。医療機器メーカーに勤務。死因は……電車に飛び込んだ事による自殺」


 珠美は、無言で資料に目を落とした。死因については昨日の内に確認してある。


「自殺の原因は……多忙によるものと推察されるようだな」


 閻魔の言葉を聞いて、珠美は昨日浄玻璃鏡で確認した映像を思い出す。



 珠美が殺害されるという事件が起こり、珠美の勤める会社はてんやわんやになった。警察からの事情聴取に始まり、マスコミからの取材の申し込みへの対応。

 さらに、珠美が抜けた事により社員一人一人へ割り振られる仕事量が増えた。

 労働基準法に違反する量の残業をこなし、大島は疲弊していく。


 そして現世の時間に換算して昨日の事。大島は、出勤する為にプラットホームで電車が来るのを待っていたが、ふらりと前に足を踏み出すと、ホーム内に飛び込んだ。

 大島が乗ろうとしていたのとは違う電車が大島を轢く。その瞬間も浄玻璃鏡に映っていたが、なかなかのトラウマものだった。



「大島恭司。お前には親も妻子もいる。つまり、自殺した事によって家族を悲しませたわけだ。会社での連城珠美への対応も適切ではなかった。数日間地獄で刑務を受けさせた後に転生させるのが適切と思われる……が」


 閻魔は、鋭い目つきになり言葉を続けた。


「一つ聞かせてもらおう。お前――珠美を殺害したか?」


 聞かれた大島は、慌てて椅子から立ち上がった。


「い、いや、私は連城を殺してなどいません!!」

「しかし、浄玻璃鏡に映っていたぞ? 事件当日、珠美が会社の屋上に上がった後、お前が屋上に上がる姿が」


 大島は汗を浮かべながら言葉を紡いだ。


「確かに、私は屋上に上がりました。でも、連城に声を掛ける事すらせず屋上から立ち去ったんです!!」


 大島の話によると、事件当日の夜、大島は遅い時間に取引先から戻り、オフィスの部屋に入ろうとしていたらしい。しかし、廊下を歩いていると、虚ろな目つきで屋上への階段を上がる珠美を見つけ、心配になって珠美の後を追った。

 屋上のドアを開けると、柵に手を掛けて佇む珠美がいた。大島は声を掛けようと一歩足を踏み出したが、結局声を掛けられなかった。

 珠美があんな虚ろな目になったのは、自分の責任でもある。今更どうやって声を掛けたらいいか分からない。

 そう、明日、明日だ。明日からは、連城に優しくしよう。橋本舞香から何を言われても、きちんと連城の話を聞こう。

 そう自分に言い聞かせて、大島はその場を後にした。


「そうだったんですか……」


 珠美は、目を伏せがちにしながら呟いた。


「ああ……連城、済まなかった。お前があんな目をする程追い詰められていたとは知らなかったんだ。私を許してくれなくても構わない。しかし、これだけは信じてくれ。私は、お前を殺害してなどいない!」


 珠美は、大島の目をジッと見てから、口を開いた。


「……私は閻魔様の補佐官です。課長の言葉を本当だと信じ込む事も、嘘だと決めつける事も致しません。適切な裁きが下されるよう全力を尽くすだけです」


 それを聞いた大島は、何も言う事が出来なかった。

果たして事件の真相は……?

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