変城王3
何やらトラブルが……!?
翌日、珠美はいつものように閻魔殿を訪れて広間に入ろうとした。すると、何やら中が騒がしい。
「何かあったんですか?」
珠美が入り口近くにいた連翹に聞くと、連翹は眉根を寄せて言った。
「……先日、亡者の逃走未遂事件があったでしょう? 実は……亡者を唆したのが、菖蒲様なのではないかという話が出ているんですよ」
「ええっ!!」
そんな馬鹿な。菖蒲は閻魔を尊敬している。閻魔に迷惑を掛ける事などするはずがない。
「ど、どいて下さい!!」
珠美は、野次馬となっている獄卒の間を縫って広間の前方に進む。珠美の目に映ったのは、険しい顔で椅子に座っている閻魔。そして、無表情で閻魔を見つめる菖蒲。
「……心当たりは無いんだな? 菖蒲」
「はい。何故このような映像が映るのか、全く分かりません」
ピリピリしていて近づき難い雰囲気だったが、珠美は思い切って口を開いた。
「閻魔様、菖蒲様! 一体何があったんですか!?」
閻魔は、珠美の方を見ると、険しい顔を崩さずに言った。
「これを見ろ、珠美」
閻魔は、浄玻璃鏡を指さした。菖蒲がリモコンのスイッチを入れる。
そこに映ったのは、亡者が暮らす寮の廊下。薄暗いが、朝か夜かも分からない。そこに、身長の高い男が一人現れ、一つの部屋の前で立ち止まった。そして、懐から封筒を取り出すと、ドアの隙間にそっと挟んだ。その後男は、何事も無かったかのように立ち去っていく。
「これは、もしや……」
「ああ、この男はこうやって亡者に偽の『極楽居住許可証』を渡したんだ」
「浄玻璃鏡って、地獄での行動も記録できるんですね……」
珠美は、変な所で感心してしまう。
「それで、だ。ここに映っている男、去り際に一度だけ後ろを振り返るんだが、よく顔を見てほしい」
椅子から立ち上がった閻魔は、菖蒲からリモコンを受け取り、自ら操作する。振り返った男の顔をアップにすると、そこに映っていたのは……。
「菖蒲様……」
珠美は思わず声を漏らす。
「そうなんだ。これだけ見れば、菖蒲が亡者を唆した犯人のように思える。何者かが菖蒲を陥れようとしているとは思うんだが……菖蒲にも、犯人の心当たりが無いと言う。浄玻璃鏡の映像を無視するわけにもいかず、困っているんだ」
閻魔が菖蒲を疑っていない事に、珠美はホッとする。しかし、浄玻璃鏡の映像が偽造されたとなると、誰がそんな事を。
珠美が考えていると、後ろから声がした。
「おや、亡者を唆していたのは、菖蒲だったのかい?」
見ると、変城王と大森常吉が揃って広間に入ってきていた。
「私は何も疚しい事はしておりません」
菖蒲が落ち着いた表情で応えると、常吉が嫌な笑みを浮かべて言う。
「しかし、浄玻璃鏡の映像を見る限り、菖蒲殿が犯人としか思えませんね。厳罰に処すべきでは?」
「……菖蒲が亡者を唆すなんてするはずが無い。処分など必要ない」
閻魔の言葉に、変城王が反応する。
「閻魔の座を継いだお前さんがそれを言うのかい?」
閻魔は、ハッとして変城王に視線を向ける。変城王は、先程までの飄々とした雰囲気から一転、鋭い目つきで閻魔を見つめている。
「紅蘭様から、散々言われているはずだあ。閻魔たるもの、亡者の事情を考慮こそすれ、公平性を疑われるような言動は一切するんじゃねえと。今の所、菖蒲の無実を証明する客観的な証拠は出ていないんだろう? だったら、菖蒲の無実を前提とした言葉なんぞ言うんじゃねえ」
閻魔は、ギリッと唇を噛み締めた後、苦しげに言った。
「……菖蒲。取り敢えず二週間、寮で謹慎していろ。その間に、私が真相を突き止めてみせる」
「承知致しました」
菖蒲は、落ち着いた様子で頷いた。
◆ ◆ ◆
しばらくして、広間には閻魔、菖蒲、珠美だけがいた。
「済まない、菖蒲。私の力不足で謹慎させる事になってしまって……」
「いえ、私の無実を信じて下さっただけでも嬉しいです。……珠美様。私が不在の間、閻魔様の事をよろしくお願い致します」
「菖蒲様……」
珠美は、広間を去って行く菖蒲の背中を見送る事しか出来なかった。
二人きりになると、閻魔は珠美に言った。
「……珠美。菖蒲がいなくなると、仕事は今まで以上に大変になるだろう。でも、私と共に地獄を支えてほしい」
「はい。私に出来る事でしたら、何なりとお申し付け下さい」
珠美の脳裏に、「閻魔様の事をよろしくお願い致します」という菖蒲の言葉が蘇る。菖蒲が戻ってくるまで、精一杯閻魔のサポートをしよう。珠美は、固く誓った。
菖蒲が謹慎! 一体これからどうなってしまうのか!?
次回も読んで頂けると嬉しいです!




