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Battle no.2 最初のお友達

 気づけば朝になっていた。

 朝日の光に照らされて目覚める僕。

 どうやら僕は本を読んでいる途中寝落ちしたらしい。

 それより、一夜を空けた今、マリアの気も少し休めたのかもしれない。

 出来るだけ早く彼女に謝って、仲直りしないと。

 そう思って僕は布団から飛び出したら、視界の端に見慣れた白い髪が見えた。


「おはようございますお嬢様」

「うわっ⁉︎」


 なんとマリアがベットの横で正座していて、僕は彼女を踏みつけそうであった。


「マリア⁉︎ いつからそこ……?」


 まるで周りの環境と一体化したかのような感じがして、彼女がついさっき座っていたとは思えなかった。


「昨晩からです」

「昨晩⁉︎ は、早くベットに座て⁉︎」


 よくよく見ると、マリアの足は震えている。

「まさかガチで一晩中正座してた訳じゃないでしょう⁉︎」とびっくりした僕は、マリアに手を貸そうとした。

 だけど彼女は僕の手を取ってくれない。


「それはいけません、私はお嬢様に謝罪するために……」

「そんなことはどうでもいい‼︎」

「お嬢様⁉︎」


 マリアはなにをしようとしたのかは分からないけど、彼女は僕の手を取ってくれないので、僕は無理矢理彼女に肩を貸す形でベットへ運んだ。

 その足は動けないほど痺れていて、きっと長時間正座を維持したと思う。

 慌てて彼女の足に傷がないかを見回し、血の気がない足を動かそうとする。

 

「大丈夫? 足の感覚ちゃんとある? 壊死とかになってないよね⁉︎」

「大袈裟すぎます。これくらいどうということはありません」

「あるよ! 一晩中正座するバカなんてどこにいるか!」

「……!」


 マリアの足を動かしていると、段々と血の気が回り始めて、足が自分で動けるようになった。


「よかった、起きてばっかりなのに心臓が破裂しそうだよ」

「申し訳ございません……」

「その通りだよ! 今度は寝起きの人もう少し優しくして、心配してたから!」


 本当に、寝起きなのにテンションがおかしくなりそうだ。

 横にいるマリアの顔を覗くと、なぜか彼女は今にでも死にそうな顔をしていた。


「どうしたの? もしかして足のどこかがおかしい?」

「ち、違います。ただ……」

「ただ?」

「また、お嬢様にご迷惑をおかけしてしまった」

「えっ」


 マリアのあまりにも予想できない言葉に僕は驚いた。彼女が謝ることなんて滅多にないから。

 しかも理由は僕に迷惑をかけたこと。メイドとしての失敗に謝るのはともかく、この理由は下手すると初めてなのかもしれない。


「いきなりどうしたの? 確かに心配してたけど、ご迷惑だなんて」

「それは……」


 理由を聞こうとすると、マリアは気こちなさそうに言葉を濁した。

 彼女をここまでさせたんだ、きっとよほど思い詰めたのだろう。

 彼女の気を楽にすることを兼ねて、僕は彼女に言おうとした言葉を紡ぐ。


「むしろ謝るべきなのは、僕の方だよ」


 僕はマリアに向かって深く頭を下げた。


「無理矢理マリアを町に連れ出して、本当にすみません」

「そんな、お嬢様が悪いことなんてしていません」


 なぜかマリアが僕に非がないと反論した。

 僕のせいであんな酷い目に遭ったのに、もしかして僕に気を遣っているのか?


「いえ、僕は悪いことをした。マリアみたいな獣人が僕たち人間に酷く扱われてることを知ってたのに」


 とっくに知っていたはずだ。ナタリーとしての知識、そしてマリアはナタリーにあれだけ嫌われているのだから。

 だけど僕は心のどこかでそれをわがままお嬢様の思い込みだと勘違いしていた。

 実際に調べたところ、昔の獣人は身分と関係なく奴隷として扱われていて、しかも獣らしき特徴のせいで魔物の出来損ないだと言われている。そして今でもその思想は人々の心に残っている。


「僕はそれを甘く見て、なんの準備もなしにマリアを町に連れて行って、酷い目に遭わせてしまった。マリアからすれば許せないことをしてしまった。だから、すみませんッ!」


 

 出来るだけ誠心誠意で謝ろうとする。

 マリアの顔が見えない。怒っているのか、それとも困惑しているのだろうか。

 必死に頭を下げながら彼女の返事を待つしかできない。


「お嬢様はなんで、いつもいつも……」


 マリアの声は、ひどく震えていた。

 頭を挙げると、彼女は今にでも泣きそうな顔をしている。


「なんで私に優しく接しれくれるのですか?」

「優しい? 当たり前のことをしただけ……」

「あんなにわがままでムカつくだったのに! 急に別人みたいになって! 私がなにをしてもヘラヘラ笑って!」

「い、いきなりどうした、落ち着いて」

「私は、お嬢様を殺そうとしたんですよ!」

「えっ」


 あんまりにも意味が分からなさすぎてて僕はぼーっとしたが、マリアは話を続ける。


「昨晩、私は町のことでお嬢様を逆恨みし、ここに潜り込みで」

 

 そう言いながら、彼女は服の中からなにかを持ち出した。 

 砥がった、鋭いナイフだ。


「このナイフでお嬢様を殺そうとしました」

「そんな……」

「お嬢様は酷いことしてないのに、私が勝手にお嬢様を恨んで、怒りのままお嬢様を殺そうとしました。それでも私に謝りたいのでしょうか?」


 マリアが、殺そうとした? 僕は?


「なんで、そんなことを?」

「今の私にはよく分かりません。これまで受けてきた苦しみを、ずっと恨んでいたお嬢様を殺すことで発散したかったのではないかと」

「じゃあ、なんで辞めたんだ?」


 マリアは刃先を自分の方に向けるようにナイフを僕の前に置いた。


「理不尽に人から嫌悪される苦しみを知っていたのにも関わらず、私は同じことをなにも悪くないお嬢様にやってしまいました。それに気づき、手を掛かる前に辞めました。私に罰を与えてください、例えお嬢様に殺されても、文句一つなく受け入れます」


 そのまま自分を刺してくれと言わんばかりのマリア。

 不思議なことに、目の前の少女は僕を殺そうとしたと言ったのに、心は意外と落ち着いている。


「罰が欲しい、本気なのか?」

「はい、なんなりと」

「分かった、そこまで言うのなら」


 僕はマリアの言われた通りに罰を与えようと、手を伸べ、そして……。

 彼女の両頬を引っ張る。


「なにが罰が欲しいんだ! マリアにはつねつねの刑だ!」

「うぐぐぐ」

「まさか僕が報復のためにマリアを殺そうとするとでも思ったのかぁ! なわけないだろッ!」

「で、でも」

「でもじゃない! 僕が、友だちを殺すなんてできるわけないだろッ!」


 マリアは引っ張られすぎてちょっと涙目になったので、僕は手を離した。


「これで罰は終わりだ。今度マリアがまた変なことを言ったら、鼻の穴に指を刺すんだからな」

「汚ったなっ⁉︎」

「そうされたくないなら納得しろ!」

「……でも、本当に、これだけで……?」

「これだけもなにも、そもそもマリアは僕を殺してないだろう? 現場を目撃した証人もいない、無罪だよ無罪!」

「横暴、すぎます」

「さっきも言ってた通り、準備もなしにマリアと町に出掛けた僕が悪い。それにあれだけのクソお嬢様が急に別人みたいになったんだ、同じ立場だったら僕だって不信感を持ってしまう。マリアも同じ気持ちだっただろう?」

「それは……」

「だからもういいんだ。マリアをそうさせたのは、100%僕の自業自得だ」


 僕はマリアを安心させるように、気兼ねなく微笑んだ。

 

「マリアこそ、こんな僕を許してくれないかな?」

「許すって、今のお嬢様を恨むなど、私には出来ません!」

「ありがとう、本当に優しいな、マリアが友だちでよかった」

「……!」


 すると、一言もなくマリアは僕の胸の中に飛び込んだ。

 僕は思わずびっくりした。


「なっなんだあ」

「……」

「あのう、マリア?」

「少しだけ、このまま居させてください」

「……」

「今だけ、甘えさせて」

「ははっ、そう言わずに、いつでも甘えていいんだよ」

「ありがとう、ございます……」


 そこから、僕はマリアと抱き合うままでいた。

 マリアは黙ったまま僕の胸に顔を埋めて、僕はそれを見ながら彼女の頭を撫でていた。

 不謹慎だけど、マリアの綺麗な髪をもふもふするのが気持ちいい、しかもいい匂いがする。

 同い年の女の子とは思えないほど素晴らしかった。

 しばらくすると、マリアは顔を離した。


「私のわがままに付き合ってくれて、ありがとうございます」

「お礼なんて、むしろもっとやってもいいと思ったね」


 別にもっとマリアをもっともふもふしたい訳じゃないんだからな。


「本当に、いいのでしょうか?」

「もちろん、友だちってのはそういうもんでしょう?」

「友だち、ですか……」

「うん?」


 彼女は照れ臭そうに頭をかいた。


「お嬢様は人生初めてのお友だち。思わず抱きしめちゃいましたが、そこら辺の距離感がよく分からなくって」

「そ、そっか……! 適当でいいんだよ適当で。本当に嫌なことをされたらちゃんと、よほどのことじゃない限りマリアのこと嫌いにならないと思うよ」

「分かり、ました」


 やべえ、嬉しいを超えた嬉しい。

 いっぱいマリアと仲良くなろうとしてきた、今マリアがやっと僕を友だちだと認めてくれた。

 ここに来てから初めての同い年の友だちだぁ! 感動しすぎて涙が出ちゃいそうだよッ!

 せっかく正式に友だちになったので……


「じゃあ距離感の訓練として、ダメ口で僕と……」

「ダメです。メイトとして主にそんなことできません」

「即答⁉︎」


 ショック! クール系女児のダメ口が聞けると思ったのに!


「そ、そんな……! そこはなんとか……!」

「ダメです。それが私の責務ですので」


 なんでだ! なんでメイドというだけで気軽に話せないんだ!

 嘘だろ……! そんなことが……! そんなことが許されていいのか……!


「ううううう……!」

「お、落ち着いてください……」

「じゃなに、代わりにお姉ちゃん大好きって言うってくれるの?」

「はぁ?」

「すみません調子ノリすぎました」

「全く……ダメ口は無理ですが……」


 マリアはしょうがないと言わんばかりの顔で言う。


「できるだけ、気軽な態度で話してみます。納得してくれました、ナタリー様?」

「ううう……なにっ」

「……」


 マリアは恥ずかしそうに顔を逸らす。


「名前で、僕を呼んだ?」

「……はい」

「もう一回」

「……ナタリー様」

「うおおおおおおおおおおお!」


 マリアが、名前で、僕を!

 ありがとう! ありがとう! これは尊い!


「今はこれくらいで、勘弁してください」

「思い切ってナタリーお姉ちゃんって呼んで!」

「ダメです」

「はぐっ」


 これ以上踏み込んでくれないそうである。

 だけど、これで確実にマリアとはより一層仲良くなった。

 これ以上なにかを求めるのは無粋なのだろう。


「ありがとう……! マリア……! これ以上の言葉が、見つからない……!」

「大袈裟すぎます」

「だって嬉しいことは嬉しいもん」

「ふふっ」


 僕とマリア、絆が結ばれたと実感させてくれた、こんな朝であった。


「そういえば、私は今年11歳なので、どっちらかと言うと私の方が姉です」

「なにっ⁉︎ 僕より身長低いのに⁉︎」



 僕に悲しき事実……!


—マリア視点—


 本当に不思議で仕方がない。

 私があれほど嫌いだったお嬢様、いえ、ナタリー様とお友だちになった。

 この嫌なことばかりの人生の、初めてのお友だち。

 誰かが私なんかと対等に居てくれなんて、とっくに諦めていた。

 そして私は、そう居てくれるナタリー様を殺そうとした。

 なのに彼女はそんな私を許してくれた。

 だからこそ、今の私はとてつもなく嬉しい。

 私はその喜びを感じながら、ナタリー様の部屋から去った。

 部屋から出て廊下を曲がると、焦っている先輩たちの姿が見えた。


「おはようございます」

「マリアちゃんやはりここに居たの⁉︎ 大丈夫⁉︎」

「え……?」


 挨拶したら、彼女らはなぜか私のことを心配していた。


「お嬢様になにもされてない⁉︎ また鞭にでも」

「ナタリー様が? いきなりどうしたの?」

「ナタリー様⁉︎」


 私がナタリー様と呼ぶと、みんなはびっくりした様子になった。

 そうだね、ちゃんとこのことを報告しないと。


「私、ナタリー様とお友だちになった。もう彼女を嫌ってない」

「えええええ⁉︎ 無理しなくてもいいんだよマリアちゃん」

「無理してない、本気なの」

「でも、昨日お嬢様と出掛けた後あんなり悲しかったのに」

「ナタリー様とちょっと誤解があって、ついさっき誤解が解けた」

「……それは本当かい?」

「うん」


 頷くと、彼女たちはみんな複雑そうな顔でため息をついた。


「朝起きたらマリアちゃんが部屋にいないから、昨日も昨日で、てっきりお嬢様が昔みたいに戻ってマリアちゃんをいじめたのじゃないかって……」

「ナタリー様は優しい人、そんなこと絶対にしない」

「態度が180度変わったわね。いいかい、私だけじゃなく他のみんなも心配してたんだよ?」

「ごめんなさい、さっきまでナタリー様の部屋でお話してた」

「そうかい、ふふっ」


 納得してくれた一人は急に私の頭を撫でる。


「先輩?」

「よかったね、マリアちゃん。やっとお友だちが出来て」

「うん、これから、ナタリー様のためにもっと頑張る」

「そっか、あんまり気張りすぎないでね」

「はい」


 私は世間知らずだ。監禁されたあの場所とこの屋敷が、私の人生の全てだ。だからナタリー様を喜ばせることなんてよく分からない。

 だけどせめて、今のメイドという役名をできるだけ完璧にこなそうと思う。

 これが私にできる、最低限の罪滅ぼしだ。

 私を許してくれた、大事なお友だちのために。




—マリア視点・終わり—


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